富士山測候所活用の動き

大気汚染や高所医療研究の場に
管理・運営のNPO設立へ

信濃毎日新聞 掲載

平成17年7月22日(金)

 昨年十月に気象庁職員の常駐が廃止され″空き家″となっている富士山測候所を再活用しようと、大気汚染や高所医療などの高所科学研究者らが、測候所の管理、運営をしていく特定非営利活動法人(NPO法人) 「富士山測候所を活用する会」の設立を進めている。

 気象庁は「国としてのやるべきプロジェクトは終了した」として測候所の受け皿となる機関を探しているが、年間約五千万〜一億円かかる維持費がネックとなっていた。

 活用する会は大気や生理学など各分野の専門家らでつくる「富士山高所科学研究会」を中心に、日本登山医学会や日本気象協会での構成を検討。八月末に設立総会を開き、九月にも内閣府に法人申請をする考え。

 同科学研究会によると、高額な維持・研究費は、環境、文部料学省が科学研究費として予算を確保するほか、測候所を利用する研究者や見学者に利用料を負担してもらう形であれば年間六千万円以上の収入が見込め、管理が可能という。

 研究テーマは、極地での植物生態や高山病などの高所医学の調査のほか、天体観測による小中学生への環境教育の場としての利用も検討されており、九月にも提案書を気象庁へ提出する方針。

 江戸川大の土器屋由紀子教授(環境化学)は「山頂は地表の粉じんの影響を受けにくい自由対流圏のため、大陸から流れてくる汚染物質の測定が安定してできる」としている。

 富士山のような高所での研究施設はドイツや中国、ハワイなど世界に二十数カ所あり、同研究会の渡辺豊博世話人は「大気や気流の変化を地球全体で観測できる高所科学の国際ネットワークを作りたい」としている。

 国有財産を管理する財務省理財局によると、国の施設は地方自治体に管轄を移してから運用するのが通常だといい、気象庁は「売却するのか、賃貸の形を取るのか財務省との話し合いが必要。実際に管理していく体制を調査して、適当であれば候補として検討したい」としている。

富士山測候所 富士山山頂に建設され1932年から通年観測が始まった。4つの建物からなり、元気象庁職員で作家、故新田次郎氏の小説「富士山頂」の題材にもなった富士山レーダーは64年に設置され「台風監視の目」として災害防止に活躍。気象衛星の打ち上げに伴い、2001年9月に撤去された。昨年10月の職員の非常駐化以降は無人観測器による測定が続けられている。