山の恩人40年ぶりに再会

 

 

信濃毎日新聞 掲載

平成17年6月19日(日)

 出会って二度目、四十年余ぶりの再会だった。北アルプス・烏帽子岳登山中に体力を消耗して動けなくなった三重県四日市市の会社役員林史朗さん(63)と助けた須坂市本郷の団体職員越吉信さん(63)。「ちょっと太っちゃいました。今だったら私を担げないでしょうね」 「そうですね」−昔からの山仲間のように、会話が弾んだ。

 それがいつの年だったのか「正確な時期は…」と林さん。名古屋市内の紳士服メーカーで働き始めて数年目の八月、三泊四日の日程で、後輩と烏帽子岳を目指していた。

 初日、山頂付近の小屋が見えた辺りで、異変は起きた。出発前に体調を壊し無理をしていた。「寝場所を確保してくれ」と後輩を先に行かせたはいいが、立ち上がれない。そこで同じルートを一人で登ってきた越さんと出会った。越さんはうめく林さんをその場で背負い、約一時聞かけて山小屋にたどり着いた。

 林さんが目覚めると越さんの姿はなかった。山小屋の主人から名前と住所を教えてもらい、年賀状のやり取りが始まった。直接会って礼が言いたい−。そう思いながら、長い年月が過ぎた。

 今年になって、林さんは「そちらを訪ねたいのですが」と越さんに電話をかけた。「それなら作っているサクランボの収穫のころはどうでしょう」。そして、十五日、二人は越さんのサクランボ園で再会した。

 二人とも山が好きで、あの出来事以降も夏の北アルプスによく出掛けたという。十年ほど前に脳梗塞(こうそく)を患った林さんは「山登りで精神力を培った。つらくてもいつかは視界が開ける」と話す。「山では、数時間一緒にいるだけで気持ちが深く通じるんだ」と越さん。「山はいいねえ」。熟したサクランボを口に運びながら、二人は笑って言い合った。   (市)