自分にあった楽しみ方で

 

 

フリークライミング施設

信濃毎日新聞 掲載

平成17年6月16日(木)

 午後八時、家の明かりがともり、カエルが鳴く長野市真島町の住宅街。鉄筋一部二階のプレハブの前に、数台の車が止まっていた。「もっと右へ手を伸ばして。つかめるでしょ」 「左足はもう一つ上へ」−。中に入ると、垂直の壁に取り付けられた疑似石を手で探る女性たちの姿があった。

 ここは屋内フリークライミング施設。平日の午後七時を過ぎると、仕事帰りの会社員や高齢者などでにぎわい始める。

 ワイシャツ姿で訪ねた同市三本柳の会社員長谷川守さんはスポーツウェアに着替え、ロープを付けずに一人で楽しめる高さ四bの「ボルダリング」の壁に向かった。壁が手前に傾斜するオーバーハングをじわり、じわりと高みへ向かう。

 会社では音響機器の試作品の検査などを担当する。目を使い集中力が要求される仕事だ。平日に二日は三十分はど汗を流す。「登ることに集中すると、仕事のことを忘れ頭の休息になるんです」

 施設は、市内のデザイン会社社長森山議雄さん(55)が一九九六年、市内に設け、後に現在地に移設した。ここ数年は登山経験がない人の利用も目立つといい、「手軽さや安全性が理解され、自分に合った楽しみ方を見つけるようです」。一日約二十人が利用する。

 職場の仲間に誘われて初めて訪ねた小谷村の会社員道場祐子さん(22)は、安全用のロープを体に結び高さ九bの垂直の壁を登り切った。「うれしい。自分の力だけが頼りだから」と満足そう。近くの山浦源太郎さん(70)は「健康維持」を目的に週に三日は通う。「体のバランスを工夫すれば力がなくても登れる。高齢者が楽しめるスポーツなんです」と、次に登るルートを見上げた。

写真:仕事帰り、フリークライミングを楽しむ=長野市真島町