再訪朝、独自外交展開の契機に
               朱建栄・東洋学園大学教授 

−−昨年11月、長野で「中国胡錦涛体制の行方と日中関係の課題」について講演していただいた、朱建栄先生が、小泉首相の5月22日の再度の訪朝について「独自外交展開の契機に」との注目される一文を朝日新聞(5/23)に載せていた。日朝関係は拉致問題をめぐってデッドロックに乗り上げたまま1年8ヶ月が経過し、今ようやく新たな動きが見えてきた。北朝鮮を開かれた国際社会の一員として迎え入れていけるか、難問は多いが、日本政府の外交的力量も試される。中国胡錦涛政権の働きかけは、北朝鮮の改革開放への方向転換に一定の影響を与えていると見られる。拉致問題や核問題の解決にも無関係ではないだろう。この面でも日中両国政府の信頼関係と協力強化が望まれている。資料として、ここに紹介させていただく。−−

小泉首相の今回の訪朝をきっかけに、日本は新たな北東アジア外交を推進していく時期を迎えたのではないだろうか。
 この地域での日本外交はこれまで、他国から見れば「米国追随」だった。だが、拉致問題解決への道筋がある程度つき、今後、日朝国交正常化交渉が進展していくことになれば独自の外交を展開できる環境が整う。
 まずは、この地域の現状について正確に理解すべきだ。ひとつには中国の存在がある。昨年3月に発足した胡錦涛国家主席体制は対日政策で新しい動きを見せ始めた。核問題の解決のため、日朝関係の改善に向けても、自らの影響力を発揮しようとし始めている。
 金正日総書記は4月に中国を訪問し、胡主席と会談した。双方は核問題とともに北朝鮮が一昨年から進めている経済改革について、多くの時間を割いて話し合った。
 中国側は自らの対北朝鮮支援や南北朝鮮の関係改善などについての立場を説明した。同時に、北東アジアの地域全体が発展していくことが、北朝鮮の経済発展にも必要であると訴えたという。
 さらに拉致問題を解決し、日朝関係を改善することの重要さについてもやんわりと北朝鮮側に促したと聞いている。それが金総書記に拉致問題での決断をさせたようだ。中国は今回の訪朝で一定の役割を果たしている。
 韓国も朝鮮半島の統一といった視点を持って動いている。日本も長期的な視野を持って、この地域の安全保障、関係国の相互信頼の醸成について真剣に取り組んでいかなければならない。
 核問題を解決するためには北朝鮮と日米韓との間の不信感を取り除くことが必要だ。日朝間の拉致問題は解決されるべきであり、今回の訪朝が、日朝国交正常化に向けた外堀を埋めることにつながれば、その意味合いは大きい。日本は米国、中国、韓国、北朝鮮のそれぞれとのバランスをとりながら、積極的な外交に踏み込むことができる。
 北朝鮮は北東アジアで最も小さな国だ。彼らの自らの安全保障に対する懸念もある程度理解した方がいい。核の放棄に対する補償についても、積極的に考えていかなければならないだろう。
 中国から伝わる情報によると、北朝鮮は自らの経済改革に本格的に取り組む姿勢を見せている。もちろん、改革が順調に進むかどうかは分からない。軟着陸は困難だとの見方もある。しかし、失敗すれば結果は混乱だ。
 北朝鮮への直接の経済支援は日本国内での理解を得ることが難しいのかもしれない。しかし、農業分野での専門技術家の派遣や有機肥料の技術などへの協力ならどうだろう。北朝鮮の日本に対する感情を好転させ、双方の信頼醸成につながれば、日本にとっても利益ではないだろうか。