友好の原点に立ち信頼の基盤を広げよう!   
                           長野県日中友好協会事務局長  布施 正幸

 昨年の江沢民国家主席の訪日以来、日中関係と日中友好について様々な分析、報道がなされています。その中には、善意の友好の立場から両国の溝の深さを心配する声もあります。このことについて、若干考えてみたいと思います。
 日中平和友好条約20周年に際して江沢民主席が来日した際、我が国外務省も多くの国民も、20世紀の戦争の傷痕に一つの区切りをつけて、新しい友好協力の21世紀を迎える最高の盛り上がりとなるだろうと期待しました。成果として日中共同宣言と行動計画は21世紀に向けた日中間の平和と繁栄に貢献する友好協力のパートナーシップをうたい、環境協力・青少年交流・科学技術協力などを盛り込んでいることが上げられます。
 一方でクローズアップされた「歴史認識問題」−−これは共同宣言のなかに金大中韓国大統領の時と同じように、侵略に対する反省に加えて「謝罪」の言葉を明記するのか、あるいは小渕総理が口頭で「謝罪」するのかといったことでもめ、期待した盛り上がりのイメージとは距離のあるものとなってしまいました。日本側は6月までに、文案をすでに双方で煮詰めてあったので変更する必要はないと考え、中国側は韓国に対してあのように明快に反省と謝罪を明記したのだから中国に対しても同様の表現があってしかるべきであり日本もそのように対応してくれるだろうと期待したと思われます。自自連立という流れのなかで、日本側の姿勢も固かったという状況もありました。こうして、日中戦争に対する反省と謝罪の問題に「区切りをつける」絶好の機会を逃し、残念な結果となったと報ぜられています。「国交正常化から26年にしてなおこの深い溝」を実感した方も多かったと思います。
 日本と中国は、引っ越しのできない深い関わりを持った隣国同士であり、平和・友好・協力の善隣友好関係を築いて行かねばならない間柄にあります。それが実現しないで敵対するとき、両国国民は不幸な状態におかれることは歴史が証明するところです。日中関係を振り返るとき、多くの先輩・多くの友好人士が国民の友好の願いをバックに尽力し、過去の軍国主義的錯誤を改め、両国の国交正常化と友好協力関係を発展させてきました。すなわち日清戦争以来の50年の敵対と戦争、そして戦後の前半の不正常な関係の中での国交正常化への努力と正常化以後の友好往来の発展がありました。
 日本と中国は、相互に深い関わりを持ってきたとはいえ歴史のちがい、体制のちがい、文化・習慣・ものの考え方のちがいなど様々な矛盾が存在することは当然のことです。私たちは次のことを胸に刻んでおきたいと思います。中国では日中戦争の被害者世代が数多く存命しており、日中戦争について加害者の日本が後継世代に伝えず教育せず、その責任を回避しようとしているとの疑念・不信感を持っているということです。
 中国は今年、中華人民共和国建国50周年を迎えます。新中国50年の歩みは、まさに抗日戦争勝利からスタートしています。半世紀にわたる新中国の歩みは日中関係の中にハッキリと投影されています。50年代の中国封じ込めとソ連との蜜月の時期、60〜70年代中ソ論争と文化大革命そして米・日との関係回復の時期、70年代末からの改革・開放の時期。そしてこの改革・開放の20年間こそ、平和友好条約の締結以後の20年間であり、日中関係が経済・人事・文化・スポーツ等幅広い分野で急速に発展した時期でありました。
 私たちは、楽観的すぎることは慎まなければなりませんが、悲観論に陥る必要もありません。要するに、日中関係は巨大な変化と前進を見たが、まだ完全に信頼しあえる関係になっておらず、引き続き「平和」と「友好」の努力を傾けなければならないということになります。その大事なポイントは、世代が変わり世紀が変わろうとしている今、日中戦争の風化は避けられないが、中国やアジアと付き合っていく上で、必要最低限の歴史的事実についての知識や民族的な道義的責任の自覚がどうしても必要となります。この事を胆にめいじて、友好と信頼の基盤を広くする交流活動を実践していきたいものです。
 明年2000年は日中友好協会(全国)創立50周年にあたります。創立者内山完造先生があの日中戦争下の困難な時期に上海において魯迅と親交を深めたことはあまりに有名です。友好に後先はなく新しい友を協会の活動・会員・役員に迎え入れ、今後も現れるであろう国同士のぎくしゃく、国民間の相互誤解や不信感の溝を埋めていく努力を実践的に進めていきましょう。その中核を担うのは、思想・信条・政党・政派を越えて日中友好の一点で結集する民間の総合的日中友好交流ボランティア団体のわが日中友好協会にほかなりません。日中両国国民は、子々孫々友好的に付き合い、アジアと世界の安定と平和・繁栄と発展のために力を入れましょう。社団法人化実現も近づいています。官民提携し、民をもって官を促し、国民運動・県民運動を展開し、国民的な信頼の基盤を広げていきましょう。
「民族の 恨みは間に 3世代」
「友好の 情熱で溶かす 不信感」
「歴史みて かつ展望す 新世紀」
                 (1999年2月10日)(「日本と中国」に掲載)