<資料>
 日中FTAの推進をーアジア協力に貢献、21世紀の共通利益を確立
                              中華人民共和国駐日特命全権大使  王 毅


 中国と日本は、協調・補完による東アジア共同体実現などの地域協力と、対話強化を通じ二十一世紀の新たな共通利益を確立することで両国間の摩擦を解消していき、長期安定的な関係を構築すべきである。自由貿易協定(FTA)やエネルギー・環境協力などの推進も望まれる。


グローバル化の産物が地域協力
 二十一世紀はアジアの世紀であり、アジア全体の発展、アジア意識の形成、他の地域との互恵、ウィンウィン(共栄)の関係を築き上げていくことが重要である。その具体的な取り組みが地域協力である。
 世界には二つの大きな流れがある。多極化と経済のグローバル化である。グローバル化は各国の経済的国境を越えて世界単一市場を確立し経済効果を最大化させることだが、多国間貿易の枠組み作りが遅れることで、地域経済の一体化が進んでいる。地域協力の本質は、限定された時間と空間で実現されるグローバル化であり、グローバル化の流れに適応すると同時に、その課題に対処することである。
 東アジアでは一九九七年以来、東南アジア諸国連合(ASEAN)+中日韓会議が定期化し、昨年の首脳会議では、東アジア共同体の確立や今年の第一回東アジア首脳会議の開催なども合意された。欧州、米州より出遅れたものの、潜在力が大きく発展も速い地域協力が、いよいよ新段階に入るのである。
 そこでまず留意すべきは、経済協力を先導役とすることである。多様性に富んだ東アジア地域が協力を推進するには、ともに関心をもつ経済協力からはじめるべきだろう。
 域内ではFTAや金融・農業・情報などの分野で協力が進んでいる。この協力は域内各国の経済的なきずなを強め次第に政治的信頼をも醸成している。それにより協力が徐々に政治と安全保障の分野へと広がっている。政治対話が進められる一方、非伝統的安全保障でも犯罪・テロ対策、防災などの協力メカニズムが次第に形成されている。
 第二に、ASEANの主導的役割を尊重することが重要である。東アジアの中小国の人々は地域協力の中で、脇役化されることを心配している。域内の大国はASEANの主導的役割を支持することでこの面の疑念を解消していく必要がある。
 共同体建設のより現実的な手順は恐らく、ASEAN自身の一体化(経済、安全、社会の三つの共同体の確立)プロセスが、全体の東アジア共同体の推進に先行することだと思われる。同時に、中日韓の三カ国が全体の枠組みの中でますます重要な役割を果たせる。
 第三に、域外に開かれた地域主義を堅持し特定の第三者と対立しないことが重要である。アジア太平洋経済協力会議(APEC)やアジア欧州会議(ASEM)などと協調した発展が望ましい。
 第四に、新しい地域秩序とグローバルガバナンス(統治)のあり方を探ることである。多様性を尊重し、その優位性を生かして多様な発展をはかり、各国の主権が確保され、集団的協調と多国間主義を強調し、互恵平等、開放と包容を提唱する東アジア協力は伝統的な現実主義と異なり、様々な新保守主義と新自由主義とも区別される。世界の多極化と経済のグローバル化に適応できるその新しい理念と秩序を探求し、発展モデルの多様化と国際関係の民主化を目指す事は、世界的ガバナンスに積極的かつ深遠な影響を与えよう。

主導権争いの見方当たらず
 こうした点を踏まえつつ、中日両国は域内協力をどう推進していくべきか。両国が直面していると思われる三つの課題を挙げたい。
 まず、中日関係は双方に極めて重要な二国間関係の一つである。歴史の経験が立証するように、中日関係の進路は常にそれぞれの発展に大きな影響を与えている。数年来、中日関係は前進を保ちながら、問題も絶えず起こり、双方の摩擦と矛盾がいくらか増えている。これに対しては冷静に分析する必要がある。
 一部の問題は意思疎通と相互理解が不十分なことによるものである。双方が絶えず変化している相手にどう適応するかという課題を抱えている。一部の誤解は対立を招いている。それを対話の強化を通じて解消していく必要があると思う。
 一部の問題は中日関係の政治基盤にかかわる。かつてのあの不幸な侵略の歴史にどう対処するか、台湾問題にどう善処するかがあげられる。これらの問題の処理に関しては、中日の間では一連の共通認識を得ている。特に両国は「中日共同声明」などの三つの文書を通じ基本原則と明確な規定を定めている。三文書には両国の先輩たちの大きな心血が凝縮されており、どんな状況でもしっかり守る必要がある。
 また一部の問題は両国それぞれの実際の利益に関連している。これたに対しては隣人同士の付き合いでお互いに尊重し合い、配慮しあい、対話と協議を通じ冷静に善処する方が良い。
 二つ目は協調体制を築くことである。両国が東アジア協力で主導権を争っているとの議論があるが、誤解である。中国は引き続きASEANの主導的な役割を支持するつもりであり、日本も同じような態度を取ることを信じている。
 地域協力において両国は相互補完的な関係にある。中国は東アジア各国との地政的、文化的つながりや、世界最大の市場ともっとも豊富な労働力、資源などの点で優位性をもつ。日本には経済規模、豊な資金と高い技術力、東アジアとの分業や貿易・投資面での伝統的なつながりなどの面で優位性がある。
 両国は東アジア協力の中でそれぞれの優位性を発揮し、互いに補完しあい他の国々とともに互恵・共栄の関係を追及していけると思う。中国はこの点において、日本との協調と意思疎通を強化していくつもりである。
 三つ目は域外国との対話を続けることである。例えば米国が東アジアにおいて伝統的に影響力と利益をもっている。これは客観的な事実だろう。一般的な地域協力のルールを尊びつつ、そうした国々との対話・協調を重視し、絶えず利益の接点を探求すべきである。

エネルギーや環境でも協力

 東アジアの枠組みの中で、中日双方が協力できることは多い。一つはエネルギー協力。両国の石油消費量はそれぞれ世界で二位と三位、輸入量は三位と二位である。エネルギー消費・輸入大国として両国は協調を強化し、北東アジアエネルギー協力の枠組みを推進すべきである。
 FTAの協力もある。中日韓三カ国のFTAに関する学術研究はすでに進展を見せており、今後は政府がもっと参加して、次第に政策のレベルで進めることが期待される。同時に、中日間のFTAに対する日本経済界と学界の関心も高まっている。日本のシンクタンクの最新の研究では、もし中日がFTAで合意した場合には、日本経済へのプラス効果は大きいという。
 両国の合計貿易額は、東アジアの貿易総額の半分以上を占める。東アジアで自由貿易ネットワークが築けるかどうかは、最終的には中日のFTAの推進に大きくかかっている。日本政府にはまだ中日FTAを開始させるタイムテーブルはないが、双方は少なくともその調査研究(FS)を始めてはどうか。このほか重要なものとして環境協力も挙げられる。
 最後に改めて述べたいが、中国の立場は地域協力に積極的に参加することである。政策面では地域協力を域内各国との二国間関係と同様に重視している。中国の利益がアジア各国の根本的な利益と一致し、中国の発展が時代の流れと世界の進む方向に沿っているからである。そして我々は東アジア共同体の目標に賛成し、東アジア首脳会議の開催を支持する。
 一方、日本の外交戦略は日米同盟、国際協調、そしてアジア協力の三つの柱からなると言われるが、この三つの間に関連もあれば重点もある。地域協力にも@英国型A仏独型B南アジア型――などのパターンがあるが、問題は日本が地域協力を外交戦略にどう位置付けるか、あるいはどう日本の当面の利益と長期的な利益をうまく結びつけるのかである。
 日本は日増しに東アジア協力を重視するようになり、多くの建設的活動を行っており、我々は評価する。長い目で見れば日本は時代に適応し、自らの根本的利益と合致させながら国際社会、特に周辺諸国から理解され、支持される道を必ずやみつけられるだろう。

 (日本経済新聞「経済教室」05.2/22より)