≪資料≫

   混迷の世界と進むべき日中関係

                 宮本雄二 元駐中国大使・公益財団法人日中友好会館会長

 世界は、二度の世界大戦の悲惨な経験から平和と発展を求めて戦後の国際秩序を作ってきました。昨年、トランプ政権が再登場し、超大国による力を使った現状変更の動きがさらに顕著となり、国際秩序は大きく動揺しています。理念とルールに基づく国際秩序が危機に瀕しているのです。こういうときこそ日本は、その護持と強化のために世界の先頭に立つべきですが、そのために先ずやるべきことは自分の足下をしっかりと固めることです。日本の再建こそが喫緊の課題なのです。経済の再活性化が急務であり、経済がグロ-バル化した今日、東アジア、ひいては世界の平和と安定がなければ、円滑な経済活動はできません。そういう世界をつくるためにも、中国と平和で安定した協力関係を築くことが如何に大事かは明らかです。中国も現行国際秩序を護持し、補強し、発展させることを明確に表明しており、日中の協働は可能です。韓国、ASEAN(東南アジア諸国連合)、そして欧州やグローバルサウスの国々も必ず入ってきます。国際秩序が動揺し、米国の相対的国力の低下と変質が起こっている中で、長きにわたる日本の平和と繁栄を確保するためには、すべての国との関係を強化し安定した関係をつくることが不可欠です。「全方位外交」の時代となったのです。そのためにも米国は言うに及ばず、中国との関係強化は必要にして不可欠です。ロシアや北朝鮮とも話し合いを始めるべきです。

 日本の平和と繁栄にとり、これほど重要な中国との関係が、昨年11月の髙市首相の国会発言により悪化したままです。中国にとっても日本との安定した協力関係は大事です。早急に高いレベルの対話を再開し、両国関係の基本を再確認する必要があります。それは日中共同声明と平和友好条約において約束し合った、不戦と平和、友好と協力以外にはありません。最も重要な点は、日本の対中政策、とりわけ対台湾政策に毫も変化がないことを中国側に再認識させることです。また日中の安全保障問題についても関係者の間で早急に対話を強化するべきです。日中の間で軍事面の不測の事態が起こる可能性が高まっているからです。

 日本と中国の国民同士の関係は、ますます重要になってきました。最後は国民の意思が両国関係を決めるからです。よく近隣諸国の関係は世界中どこでも悪いので、日中の関係が悪くても自然だという類いの話を聞きます。なぜ隣国同士の関係が良くないかというと接触が多く不愉快な記憶が残るからです。しかし見落とされがちなのは、隣国なのにお互いのことをよく知らないという現実です。日中においても、ここを早急に是正する必要があります。両国社会の相互認識は、最後は人と人の交流で決まります。日中の民間交流が果たすべき役割はさらに大きくなっており、交流の拡大により相互理解を促進するべきです。そこに相手への敬意と信頼が生まれ、真の友好が生まれます。両国政府は、民間交流を促進するために積極的な政策をとるべきです。中国人の訪日ブームにより中国社会の対日理解は進みました。ところが昨年、中国を訪れた外国人観光客は3億人を超えますが、日本から中国を訪れる人は激減しています。やはり著しく不正常なのです。中国に足を向ける日本人を増やすことは喫緊の課題です。

 日中の長い交流の歴史は、お互いの文化を育み、多くの絆を作り上げました。21世紀も4分の1を過ぎた今日、日中両国社会はさらに交流を深め、絆を確認し学び合い、お互いを高め合う時代に入りました。日中の民間交流を担うわれわれは、その先頭に立たなければなりません。両国社会、特に若い世代の人たちに、われわれの事業の意義を理解していただき積極的に参加してもらわなければなりません。戦後の日本の発展は、あの時代の若者が果敢に時代に挑戦し切り開くことにより実現しました。われわれがやるべきことは、若者が再び挑戦できる社会や組織をつくり、彼らに新しい時代を作ってもらうことです。そのための努力を続けたいものです。

                                 (「日本と中国」2310号=2026.3.1)