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中国とロシア微妙な距離感

                         楊成・上海外国語大学教授

ロシアのウクライナへの軍事行動は中国政府や学者にとって想定を超えた事態だ。ウクライナや北大西洋条約機構(NATO)と軍事衝突すれば、ロシアの安全保障上の懸念は解消が難しくなるはず。しかしプーチン大統領はその手を打った。中国がロシアを支持しているとの西側諸国の見解は誤っており、米欧と異なる方法でロシアと距離を置いている。

米国と同盟国の全面的な対ㇿ制裁はもろ刃の剣で、世界にインフレをもたらしている。経済減速で各国の社会問題が一段と噴出し、グローバル化のひずみが拡大、ポピュリズム(大衆迎合主義)や民族主義が台頭し、国際社会の無秩序化が加速するだろう。

中国はウクライナ問題で完全にロシア側に立っているわけではなく、中立だ。ウクライナを含め国家の主権と領土の保全を尊重すべきだと主張している。米国や欧州諸国が中ロは一体とレッテルを貼ろうとしている。衝突を作り出す恐れがあり、非常に危険だ。

侵略を非難するのは簡単。しかしNATOが当方に拡大しなければ、ロシアはこうした行動を取らなかった。中国は(正誤を)断定することはしないが、それはロシア支持を意味しない。

米国は状況が変わるまで静観する戦略のようだ。衝突の長期化は避けられない。中国が(停戦交渉に)協力することはできるが、核心的な役割を果たすのは現実的ではない。

中国官製メディアはロシアが独立を承認した「ドネツク人民共和国」「ムガンスク人民共和国」の呼称を使わない。公式に「戦争」とも「侵略」ともいわず、かぎかっこ付きで「特別軍事行動」と言う。ロシアの主張を完全には認めない微妙な距離感を示している。断定を慎重に避け、ロシア側でも西側寄りでもない。

危機は東アジアだけでなく世界に軍拡競争をもたらすリスクがある。小国は大国がロシアのような行動を選ぶことを恐れ、大国は大国間競争が軍事衝突に発展することを懸念。結果的に皆、自国の国防建設を加速する。

1962年のキューバ危機の教訓はケネディ米大統領が対立するソ連を瀬戸際に追い込まなかったことだ。ロシアを追い詰めれば最も極端な反撃に出るだろう。ラブロフ外相が核戦争を排除しない姿勢を見せたことを口先だけの脅しと考えてはいけない。   (北京共同=大熊雄一郎)

*楊成(ようせい)1977年生まれ。ロシア専門家。北京大学を卒業後、中国外務省、在ロシア中国大使館でも勤務。北海道大スラブ・ユーラシア研究センターで客員研究員を務めたこともある。

(2022.5.7信濃毎日新聞)