<資料>岸田外交展望 (海外有識者に聞く) 対中外交
    
                                     東洋学園大教授 朱 建 栄

 岸田文雄新政権の対中外交は、安全保障上の対立がありつつも、中国の経済的活力を取り込もうと協調的側面も見せた安倍政権のスタンスに近づくのではないか。ただ、菅政権下の1年で釣魚島(沖縄県・尖閣諸島の中国名)や台湾の問題を巡る日中の溝は深まっており、劇的な改善は見込めない。

 岸田氏の自民党の出身派閥「宏池会」は経済発展と国際協調を重視し、中国要人とのパイプを持つ政治家を輩出してきた。しかし、岸田氏は総裁選で、欧米が主張する中国・新疆ウイグル自治区の少数民族問題を念頭に人権問題担当の首相補佐官新設を主張し厳しい姿勢も見せた。

 中国は歓迎も厳しい見方も示さない慎重なコメントにとどめており、岸田政権の出方を見極めている状況だ。

 一方、バイデン米政権は9月、台湾問題に関する米国の立場は従来と変わらないと説明するなど、トランプ前政権から続く関係悪化に歯止めをかけようとする努力が見える。米国が中国を批判しつつも、現実には衝突を回避するスタンスに戻れば、日本も同様の姿勢がとりやすくなる。

 日本でも新型コロナウイルスの感染状況が落ち着きつつあり、今後は経済再建が重要テーマとなる。最大の貿易相手国である中国との関係は無視できない。

 来年、日中は国交正常化50周年の節目を迎える。双方の閣僚訪問や、観光などの人的往来が再開するなど関係改善が進み、節目の年の日中首脳会談につながることを期待したい。

(信濃毎日新聞2021.10.6)