寺島実郎氏の日ごろの発言は冷静に日本の立ち位置を認識していて、説得力があるが、1月9日の信濃毎日新聞のインタビュー記事「日本どこへ−安倍政権と私たち」は日本とアメリカ、中国の相互関係の現状を明快に語っていて興味深い。資料として紹介したい。

<資料>

日本どこへ、過剰な米依存気づく時
                                       (寺島実郎・日本総合研究所理事長)

 安倍政権は特定秘密保護法制定や集団的自衛権行使容認によって日米同盟を深化させ、中国の脅威と向き合おうという基本認識に立っている。しかし、その認識は今の世界の状況からずれてしまっていると思います。

 日本には米中両国が覇権争いをしているとの見方、いわば「米中対立願望」が根強くある。だが、習近平新政権が発足してわずか3ヵ月後に米中首脳会談が行われたほか、米中間では多様なテーマの対話がなされ、密度の濃い議論が進んでいる。日米間よりも、よほど本音で議論しているというのが実感です。

 米中両国は戦略的な対話の相手として互いを捉えている。底流にある共通認識は「米中が戦争をするような事態は避けましょう」ということだ。

 これに対し、日本は尖閣諸島で衝突があったら、ガードマンのように米軍が駆けつけてくれるといった感覚でいる。米国にとって覚えめでたい日本であることが、尖閣を守る唯一の手立てであるかのように思い込んでいるのです。米国への過剰な期待と過剰な依存からなる世界観は、偏狭で矮小だといわざるを得ません。冷戦期のイデオロギー外交に、無理やり現在の状況を当てはめようとしているとも映る。

 中国の防空識別圏設定への対応が象徴的です。米国は航空会社が飛行計画を中国側に提出することを容認し、日米間の温度差がでた。そのことに気づかないといけない。

 安倍首相の靖国神社参拝に米国の政府やメディアが見せた反応もしっかり受け止める必要があります。A級戦犯は米国にとって日本軍国主義の象徴だ。東京裁判を受け入れ、サンフランシスコ講和条約を結んだ日本が、その戦後秩序を否定しようとしているのではないかと、米国は大きな懸念を抱いている。

 では日本はどう進むべきなのか。まずは独立国に外国の軍隊が駐留し続けているのは不自然だとの常識に立ち返るべきだ。国内の米軍基地を段階的に縮小すると共に、地位協定を改定する。同時に東アジアの平和に向けた構想を、自分の頭で考えないといけない。

 確かに中国がいやみな圧力をかけてきたり、韓国が手のひらを返すように中国と接近してみたりと、日本人を刺激することが次々とある。だからといって同次元で罵倒しあって力を浪費するのは愚かというほかない。日本は非核化構想やエネルギーの連携構想を打ち出して、東アジアの新しい秩序づくりをリードして行く必要があると思うのです。         (信濃毎日新聞13.1.9 「日本どこへ、安倍政権と私たち」より)