最近の日中関係を考える
                          長野県日中友好協会理事長 西堀正司

■日中関係は、現在非常に厳しい状況にある。

 現在の中国はどうなっているのかということだが、マスメディア等の情報をそのまま理解してしまうと、大変なことになる。できるだけ客観的に見る必要がある。中国は、大丈夫なのか、安全なのかという質問が、私のところにも来る。

 たとえば、上海には、日本の企業が多数進出していて、そこに働いてる日本人は5万人弱で。家族もいて、小中学生が日本人学校へ通学しているし、5歳以下の幼児も在住しているという事実は、意外にもあまり知られていない。中国は、安全ですか、生きていけるのですかという質問は、的外れである。

■最近の日中関係で、両国の首脳交流が2年間全くなく、両国が冷たい関係にある。政冷経熱という言葉が、数年前にはやっていた。2008・2009年まではそうであった。しかし、その後現在は、政冷経涼と言われている。しかし、政冷経冷にはならない。経済関係は、思ったほど悪くならない。現在中国に進出している日本の企業は、香港を含め2万2千社、長野県だけでも香港の100社を含め700社で、そこでは15万から20万の日本人が働いている。そしてそれらの企業で働いている中国人は、全体で1千万人以上近くいる。まさに離れられない密接な関係が存在している。政治がうまくいっていないが、経済はかなり頑張っている。民間交流でも何とか頑張って現状を突破したい。

■過日人民大会堂で開催された、対外友好協会60周年記念行事に参加してきた。全世界から400名、日本から40名近くが参加した。

 中国は、世界の都市と3,076組の友好都市を締結している。そのうち334組が日本との友好都市で、全体の1割以上である。地方交流は、少し止まっていて、完全に動いているのは経済交流だけである。しかし、中国行きの飛行機は、毎日満席である。

 2014年は、須坂市・四平市友好都市締結20周年である。日中関係は困難ではあるが、どうしても突破しないと困ると思っている。

■世界情勢が混沌としている中で、日中関係がうまくいかないと日本はどのようになってしまうのだろう。

 今年2月にソチオリンピックがあった。オリンピックの間は、戦争はないと分析したが、その通りになった。終わったらすぐウクライナ・クリミア半島で戦争になった。ソチオリンピックに行った世界の指導者は、安倍首相と習近平主席であとはほとんど行かなかった。それには目的があった。

 世界が1989年にベルリンの壁が崩壊して、米ソ冷戦が終わり、東欧諸国では社会主義が崩壊した。ソ連もロシアになり、世界二極化から中国が要求していた多極化の時代になった。5極化という理論もある。一方無極化ということを主張する評論家もいる。米ソの二極化が終わったが、中国の要求する多極化になったわけでもない。世界情勢は猛烈に動いている。二極化は終わったが、多極化か無極化かは流動的である。東西対立が終わり、世界が流動的な中で日中関係は発展してきたわけだが、2008年に北京オリンピックがあり、翌々年には上海万博があった。非常に日中両国関係は良好で、政冷経熱から政熱経熱に変わっていたが、今は、政冷経涼から政冷経冷になる危険性もある。

 世界で最も戦争の危機が高い地域として、東アジアをあげる海外メディアが増えている。

 日本が尖閣諸島を国有化したことを契機に、中国各地で100万人規模のデモが起こった。それから日中関係は、坂道を転げ落ちるように悪化していった。首脳会談も今もって行われていない。日中韓とも関係悪化、挙句の果てに90年代に出された「河野談話」や「村山談話」を見直した方が良いのではなどと言われ始める。こうした中、何とか良くしようということで、昨年1年頑張った結果、9月、10月くらいからだんだん交流が進んでいった。中国からの観光客も昨年11月には、15万人弱までになった。12月20日に岸田外相と中国の程永華大使が会談し、これから仲良くするためにお互いに実務家として努力しようと話し合ったが、12月26日に、安倍首相が靖国参拝を強行したため、事態はすべて振り出しに戻ってしまった。アメリカからも靖国参拝は止めるべきとの声がだされていたにも関わらず、強行してしまった。

 集団的自衛権を憲法解釈の変更で認めさせようとする動きと相まって、東京では、連日のように中国・朝鮮の人に対するヘイトスピーチデモが起きている。日本のこうした右傾化への動きを始めとして、全世界的な傾向として過激な民族主義が出てきていて、指導者がそれを煽っている。これは非常に危険である。

■日中関係の現状は厳しい状況ではあるが、我々は民間の立場で何とか解決してやっていきたい。

 戦争か平和かという問題は、好き嫌いでは済まされない。中国と仲良くすることが、アジアの平和、アジアの戦争を防止する道である。

 TPP問題でも中国は、したたかであり、柔軟な外交姿勢で臨んでいる。安倍首相も単純な発想での靖国参拝は、我慢するべきである。

 中国が一番恐れていることは、仲良くしようと話し合いをしたら、安倍首相が靖国参拝をしてしまったということで、安倍首相は、今年一杯靖国へは行かないというくらいのシグナルを出すことが大事である。

 意地の張り合いは良くない。意地の悪いのは、全世界当たり前にあるが、それをさせないようにするには、お互いが理解し、尊重し合い、ウィンウィンの関係に持っていくことが必要である。

 知恵を出して、親切心を持って、相手の立場を考えて外交をやっていくべきである。今、政府間関係は良くないが、これは必ず良くなると思っている。 (文責・山崎)

    2014.5.24須坂市日中友好協会定期総会における記念講演