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3年ぶり首脳会談 日中改善の歩み着実に
(2014年11月11日毎日新聞社説)
約3年ぶりに実現した日中首脳会談。両国政府は「外交的成果」を誇るのではなく、真の関係改善に向けて、着実に歩を進める転換点とすべきだ。
安倍晋三首相と習近平国家主席との初めての会談である。両国首脳による会談は、いずれも前任者の野田佳彦前首相と胡錦濤前主席による2011年12月以来だ。
今回の会談は実現直前まで、日程や会談形式をめぐる両政府間の調整が続いた。握手を交わしながらも緊張した両首脳の表情は、1972年の国交正常化以降、「最悪」とされてきた今の両国関係を象徴しているようにも見える。
◆「異なる見解」に知恵
日中両国は今や、米国に続く世界第3、2位の経済大国である。「一衣帯水」の隣国でもある大国同士の緊張状態が長引けば、アジア・太平洋地域の安全保障や世界経済にとって、深刻な懸念材料となることは避けられまい。
首脳会談が実現したからといって、関係が一気に改善するわけではない。重要なことは、緊張緩和に向けて両国が粘り強く話し合いを続けることだ。首脳会談を継続的な対話へと発展させてほしい。
振り返れば関係悪化への決定的な転機は日本政府が12年9月、有効に支配する沖縄県・尖閣諸島の国有化に踏み切ったことだ。
領有権を主張してきた中国側は激しく反発し、公船の日本領海侵入や海・空軍による挑発的行動、尖閣を含む東シナ海上空への防空識別圏設定など、緊張を高める行動をとり続けた。首脳会談の開催も、領有権問題の存在を日本側が認めることを条件としてきた。
今回、会談実現にこぎ着けたのは、両政府の合意文書に、双方が尖閣諸島など東シナ海で「近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識」との文言を盛り込んだためだ。
◆不測の事態を避けよ
これまで私たちは、尖閣諸島が日本固有の領土であることを前提に、外交上の「係争地」に位置付けるなどして対話のテーブルに着き、紛争防止の枠組みをつくる必要性を訴えてきた。
合意文書の表現は対話の窓口を開くための知恵と評価したい。
首脳会談では尖閣問題への言及はなかったが、両国の主張がぶつかり合う状況に変わりはない。
中国側には、現状変更を意図した一方的行動や海空軍による挑発的行動などを慎むよう求めたい。日本側にも緊張をいたずらに高めないような配慮が必要だ。
首脳会談では日中の艦艇、航空機間で不測の事態を避けるための「海上連絡メカニズム」の構築も再確認した。福田康夫内閣当時の08年に合意したものの、棚上げ状態になっているものだ。
首相の要請に、習主席は「すでに合意はできている。事務レベルで意思疎通をしたい」と応じた。不測の事態を招かぬよう、合意の実現を急ぐべきである。
もう一つ、中国側が対日批判を強めていた背景には、安倍首相の歴史認識問題がある。
首相が習主席に対し、「歴代政権の歴史認識を引き継ぐ」と表明したことは、歓迎したい。
日本の首相は「植民地支配と侵略に対する痛切な反省と心からのおわび」を表明した「村山談話」の重みを忘れるべきではない。
習主席は「歴史問題は13億人の国民感情の問題だ」と述べたものの、昨年12月の首相靖国参拝には言及しなかったという。抑制的な姿勢を示したのだろう。
極東国際軍事裁判(東京裁判)のA級戦犯が合祀(ごうし)されている靖国神社への参拝は軍国主義礼賛と受け取られかねない。
国の命による戦死者を指導者が追悼し、慰霊するのは当然の責務だが、近隣諸国に無用な懸念を与えないためにも、靖国参拝を控える「戦略的忍耐」も必要だ。
ただ、中国側も「歴史カード」を対日けん制や国内求心力を高める政治的材料として持ち出す姿勢を改めるべきである。
中国側には「日本の譲歩」を強調した報道もある。中国指導部が国内世論工作のために外交的勝利ばかりを演出するなら経済大国にふさわしい態度とは言えまい。
◆不戦の精神を次代へ
今回の首脳会談は、日中共同声明などに盛り込まれた「不戦の精神」を未来に継承し、「戦略的互恵関係」の原点に戻る、双方にとって有益な一歩である。
政治が冷え込んでも中国からの観光客数は今年、過去最高の2百万人台と予想される。民間や経済の交流が本格回復するよう、両国指導者は政治力を発揮すべきだ。
アジア太平洋経済協力会議(APEC)が開かれている北京は、「APECブルー」(中国紙)というほど澄んだ青空ではないが、首脳会談開催で、日中関係改善の曙光(しょこう)が差しているようでもある。