程永華駐日大使の長野県松本日中友好協会での講演
                                           (2013・5・11)

   今回、松本市を訪れ、松本日中友好協会のみなさんと一堂に会す機会を得て、たいへん嬉しく思っています。長野県は私にとって思い出深い場所です。1975年当時、私は日本に留学しており、長野県日中友好協会のお招きを受けて友好夏季キャンプに参加し、長野の各地を訪れました。長野県と中国の河北省が友好関係を結んで今年で30年になりました。松本日中友好協会は長年、日中友好に熱心に力を尽くし、中国大使館と厚い友情を築いてきました。こちらから大使館に贈られた桜の木は大きく成長し、毎年春になると大使館員は桜の木の下を散歩し、満開の桜や「桜吹雪」の美しい景色を楽しみ、松本日中友好協会のみなさんの中国に対する厚い友情に思いをはせています。

   長年、中国との友好活動に携わってきた友人のみなさんは、おそらく何度も訪中の経験があり、中国の最近の発展についてもよくご存じだと思います。きょう、この機会を利用し、みなさんと中国の発展と現在の中日関係をどのように認識し、対処していけばいいのか考えたいと思います。

   一、中国の発展について

   改革・開放のこの30年余り、中国は社会、経済、文化など各方面で大きな変化を遂げ、世界が認める成果をあげました。外部世界から見れば、中国は1978年の国内総生産(GDP)が2683億jにすぎませんでしたが、昨年は8兆3000億jに達し、世界第2位になり、輸出入額が1978年の206億jから昨年は3兆8700億jになり、世界の貿易総額の11%を占めるほどになりました。しかし、中国内部をみると、人口が13億で、1人当たりのGDPはなお中低所得途上国のレベル(昨年は87位)で、同時に科学技術、金融、教育、医療などの面では先進国と比べ依然はかなりの開きがあり、産業構造の不合理、比較的大きな地域格差、農業基盤のぜい弱さ、資源・環境の制約など多くの問題を抱えています。

   以上の数字からもすぐわかるように、中国の正しい位置づけはたいへん難しい問題で、国際舞台では中国はその経済総量から多くの人々から先進国と見なされていますが、それについて私たちは客観的かつ冷静に認識しています。昨年秋の中国共産党第18回全国代表大会(党大会)の報告は、「中国の世界最大の発展途上国という国際的な地位に変わりはない」と明確に指摘しています。これは中国の国際的地位に対する明確な位置づけです。なぜなら中国の発展はまず「人を以て本と為す(人間中心)」であり、一人ひとりの生活水準を基に国の発展段階をはかるからです。中国はすでに世界第2位の経済体であると同時に、世界最大の発展途上国でもあり、これは近代以降他に例のない独特な現象で、国際社会がこの「中国の特色」を十分に認識し、客観的にとらえるよう望んでいます。なぜなら一方だけを強調し他の一方を軽視する見方は一面的だからです。先の位置づけが明確になれば、中国の内外政策を理解するのは難しくないでしょう。

   今年3月に開かれた全国人民代表大会と人民政治協商会議の「両会」に私は政協委員として出席しました。今年の「両会」で取り上げられた非常に重要な言葉が国内外で熱い議論を呼び起こしました。それは「中国の夢」です。習近平主席が両会の閉幕にあたって、「中国の夢」について語りました。その基本的内容は国の富強、民族の振興、人民の幸福です、具体的に細かくみれば、私は次のように理解できると考えています。昨年11月の第18回中国共産党大会で今後一定期間の青写真が描かれました。簡単に言えば「二つの百年の目標」です。一つは2020年までにGDPと都市農村住民の1人当たりの所得を2010年の2倍にし、小康(わりあいゆとりのある)社会を全面的に完成させることで、これは今世紀当初20年の「中国の夢」だといえます。もう一つの「百年の目標」は今世紀半ばまでに、富強、民主、文明、調和の社会主義の近代的強国を築くことです。これは今世紀前半50年の「中国の夢」です。この2つの百年の目標を実現したうえで、中国はさらに発展を続け、中華民族は世界の先進的民族の仲間入りを果たし、人類のためにより大きく貢献することを目指し、それが実現すれば、われわれはさらに高いレベルの「中国の夢」を追求することでしょう。

   西側の一部世論は「中国の夢」を大ざっぱに「富国強兵」としていますが、そうした認識は一面的で、正しくありません。私たちは、近代以降、西側列強の侵略、侮り、抑圧をいやというほど受け、100年余り苦しんだことを見て取らなければなりません。昔の人は「己の欲せざるところは人に施すなかれ」と言っています。中国は西側列強の「国が強大になると必ず覇権を求める」という古い道を歩むことはありません。新中国成立から60年、とりわけ改革開放から30年余り、人民の生活が大幅に改善され、社会の各事業が大きく発展し、中国は国情に合った発展の道、すなわち中国の特色ある社会主義の道を歩んでいます。

   私たちの社会主義はまだ初級段階にあり、「中国の夢」を実現するには多くの困難を乗り越えなければならず、それは長い歴史的プロセスです。そのため、今後相当長期にわたり、対内的には「一心不乱に建設に取り組み、一意専心して発展を図り」、対外的には独立自主の平和外交政策を断固堅持し、終始揺るぎなく平和的発展の道を歩み、終始揺るぎなく互恵・ウィンウィンの開放戦略を遂行し、終始揺るぎなく平和共存の5原則を踏まえ各国との友好協力を全面的に発展させ、平和が永続し、共に繁栄する調和のとれた世界の構築をはかることが決定付けられています。

   「中国の夢」を追い求める過程で、中国の前途と運命は世界の前途、運命とますます密接に結びつき、中国の発展・進歩は世界と切り離せないものとなっています。中国は自らの発展をはかると同時に世界に恩恵をもたらし、世界の発展にチャンスをもたらしており、新世紀になって以来、中国経済は安定した、比較的速い発展を維持し、世界経済の成長に対する年平均貢献率が20%を超えています。以前から中国はさまざまな方法で発展途上国を支援しています。今後5年間に中国は10兆j前後の商品を輸入し、対外投資規模は5000億jに達し、海外旅行者は4億人を超えると見込まれています。中国のさらなる発展は、アジアと世界に一層多くの発展のチャンスをもたらすことを意味しています。私たちが「中国の夢」の実現を追い求める過程は、世界の他の国の発展、利益を損なうことなく、世界各国と共に平和、発展、協力、ウィウィンを実現し、アジアと世界の繁栄のために貢献する過程だと言えます。

   「平和、発展、協力、ウィンウィン」は中国の外交の中核的理念と主張を反映しています。ここで私は「ウィンウィン」の重要性と必要性について話したいと思います。世界の多極化と経済のグローバル化が進むのに伴い、グローバルな協力が重層的、全方位的に広がっています。各国の相互依存が日増しに深まり、グローバルな問題がさらに目立ち、いかなる国も単独で、さまざまなリスク・挑戦(試練)に対応することはできず、ウィンウィンをはかることではじめて、それぞれの利益を根本から守り、実現することができ、世界の平和と発展を確保できるのです。「勝つか負けるか」の「ゼロサム」の考え方や徒党を組むやり方、なんとかして仮想敵を作るやり方はすでに時代の潮流から遅れたもので、いまや潮流に逆らうものとなっています。ウィンウィンの考え方は経済ばかりでなく、政治、安全、文化などの国際関係の各方面でも取り入れられています。経済面のウィンウィンは、共通の利益のパイを大きくし、共同の発展・繁栄を実現するものです。政治面のウィンウィンは、同舟相救い、権限と責任を分かち合うことを提唱し、人類共通の利益の増進をはかるものです。安全面のウィンウィンは、共同安全保障、集団安全保障、協力安全保障を提唱するものです。文化面のウィンウィンは、さまざまな文明・文化の相互交流を促し、互いに受け入れ、学びあうものです。「平和、発展、協力、ウィンウィン」は中国自身が順守する基本理念であり、中国が世界に発信している重要な呼びかけでもあるのです。

   二、中日関係について

   昨年は中日国交正常化40周年でした。40年間に両国関係は目覚しい発展を遂げました。政治面で両国は四つの政治文書に調印、発表し、両国関係の健全かつ安定した発展を保障しました。新世紀に入り、双方はまた「戦略的互恵関係」発展の位置付けを確立しました。二国間の貿易額は国交正常化当時の300倍余りなり、人の行き来は500倍余りになりました。昨年、双方はまた「国民交流友好年」の開催を決め、600余りの記念行事を計画しました。しかし、そうした中で「島購入」事件が起き、両国関係に重大な打撃となりました。半年が過ぎましたが、両国関係の困難な局面は改善されておらず、ハイレベルの交流は停滞に陥り、経済・貿易協力は減少が続き、昨年、日本は中国の貿易相手国としての順位が第4位から第5位に下がり、人の交流も大幅に減りました。中日関係は国交正常化以来最も厳しい局面にあり、速やかに処理しなければ「協力・ウィンウィン」の目標とは反対の方向へますます遠く離れていくことになります。

   私が強調したいのは、中日両国は互いに重要な隣国であり、中日関係は双方にとって最も重要な二国間関係の一つであるということです。中国の新しい中央指導集団の中日関係の発展を重視する姿勢に変わりはありません。習近平総書記が年初に山口那津男公明党代表と会見した際、次のように指摘しました。中日の四つの政治文書は両国の関係において困難を乗り越え、困難に立ち向かって進み、絶えず発展をはかるうえでの「バラスト」である。中国は引き続き両国の四つの政治文書を踏まえ、「歴史を鑑とし、未来に向き合う」精神に基づき、中日の戦略的互恵関係を絶えず前進させ発展させることを願っています。

   現在の中日関係を改善するには二つの問題をうまく処理することが必要だと思います。

   一つは釣魚島問題を適切に解決することです。釣魚島問題で中国は一貫して自らの立場を堅持し、日本は異なる主張があり、双方の主張、立場が異なっていることは客観的な事実です。1972年の中日国交正常化と1978年の中日平和友好条約締結の交渉過程で、両国の一世代上の指導者は大所高所から考え、大局から出発し、「釣魚島問題はそのままにしておき、後の解決に待つ」ことで了解し、共通認識(コンセンサス、合意)に達しました。まさにこの了解と共通認識があることで、この40年間にいくつか問題が起きたこともありましたが、全体的には中日関係の安定・発展が確保されました。日本は「島購入」措置でこの了解と共通認識を完全に損ない、双方の立場、主張が異なることを認めるのを拒否しており、中国は当然、然るべき措置をとって国の領土主権を守っています。中国の公船が釣魚島海域に行くのは完全に通常のパトロール・法執行活動です。日本国内には中国は「実力で釣魚島問題の現状を変えようとしている」と非難する者がいますが、そうした言い方はまったく成り立たず、事実と一致してもいません。

   「まいた種は刈らなければならない」とよく言われます。私たちは日本が歴史と現実を直視し、十分誠意を示し、実際の行動をとり、中国と同じ方向を向いて進み、対話と協議を通じて釣魚島問題を適切にコントロール、処理する方法を探し出し、中日関係が再び健全な発展の軌道に戻るようはかることを希望しています。

   もう一つは、日本が必ず歴史問題に慎重に対処することです。釣魚島問題が収まっていないのに、このところ日本国内に歴史問題でネガティブな動きが絶えず見られます。今年の「春季例大祭」に靖国神社を参拝した政界要人の数は過去最多で、その一部は「村山談話」を変えることを企み、さらには「侵略」の定義に疑問を呈しています。歴史問題は中日関係の基盤にかかわり、日本の政策動向を反映し、日本の今後の行方にかかわっています。先に述べたネガティブな動きは中韓などアジアの戦争被害国民衆の強い反対を引き起こし、米国を含む国際社会からも強い関心が示されています。

   日本軍国主義の対外侵略・拡張と植民地の歴史について、国際社会には早くから結論と共通認識があり、それに挑戦したり、揺るがしたりしようとすれば、まず日本自身の信用と国益を損ない、日本と国際社会、特にアジアの隣国との相互信頼の友好関係の発展にもマイナスです。中国政府が一貫して「歴史を鑑とし、未来に向き合う」ことを主張しているのは、その歴史を正しく認識し、対処し、そこから深い教訓をくみ取ってはじめて、真に過去と決別し、素晴らしい未来を築くことができるからです。

   私は日本人の多くが平和を愛し、常に正しい歴史観を持っていると信じており、日本の関係の人たちが歴史問題の重大性を認識し、侵略の歴史を反省するという日本のこれまでの態度表明と約束を引き続き守り、歴史問題で後戻りすることなく、実際の行動でアジアの隣国と国際社会の信頼を確実に得ることを希望しています。

   友人のみなさん

   中日両国はともにアジアにあり、引っ越すことのできない重要な隣国です。両国の長い交流の歴史の中で、両国人民は互いに学び合い、促し合い、アジア文明の発展のために貢献してきました。最近、ある人が両国は過去1500年余りずっと不調和だったと言っているのを聞きました。こうした見方は明らかに事実と一致していません。近代史において日本帝国主義は中国を侵略し、中国人民に大きな災難をもたらし、日本人民もその害を深く受けました。はるか昔の歴史を見ると、日本は数多くの遣隋使、遣唐使を派遣し、鑑真和尚、空海大師など多くの先人たちが両国の交流のために心血を注ぎ、苦労もいといませんでした。歴史的事実を否定することは許されないし、忘れることも許されません。中日両国は「和すれば双方を利し、闘えば双方損ない」、「平和、友好、協力、ウィンウィン」が両国と両国人民の共通の利益に合致していることは実践で証明されています。両国の各界の人々が共に努力し、両国の友好に有益なことをもっと行い、両国関係を難しくし、阻害している問題と障害を解決するため積極的役割を果たすことを希望しています。

   みなさん、ありがとうございました。