◎日中国交正常化40周年記念・講演と祝賀のつどい


40周年を記念して、高原明生・東京大学大学院教授を講師に招き講演と先生を囲んでパネルディスカッション、その後祝賀のつどいを開きます。高原先生は新日中友好21世紀委員会日本側事務局長としても活躍されており、尖閣問題をはじめ日中関係に多くの提言をされています。日中関係の課題と今後の展望を語っていただきます。危機を乗り越え安定的な平和友好協力関係を築いて行くために今何が必要とされているか、ともに考えたいと思います。お誘いあってご参加ください。
日時:10月4日(木)午後1:00〜3:35 第1部 講演と先生を囲むパネルディスカッション、3:40〜5:00 第2部 祝賀パーティー
場所:長野ホテル犀北館(長野市県町TEL026-235-3333)  第1部は整理券500円  第2部 祝賀パーティー会費は5000円(事前申込み必要)

<資料>
日中関係と領土問題
                  高原明生・東京大学大学院教授

 本年が日中国交正常化から40周年にあたり、「日中国民交流友好年」と命名されて各種の記念行事が行われていることをご存知だろうか。日本側の親善大使は俳優の関口知宏さんとアイドルグループAKB48だ。日中間の経済交流の拡大を反映し、国民交流友好年実行委員会には名だたる大企業のトップが勢ぞろいしている。
 ところが、40周年を祝賀する雰囲気はなかなか盛り上がらない。日本の民間非営利団体「言論NPO」と中国英字紙チャイナ・デーリーは毎年、両国民を対象に世論調査を行っているが、今年は中国に対して良い印象を持っていない日本人の割合がなんと昨年比6ポイント増の84%に達した。
 例年であれば、反日でもやギョウザ中毒事件など、日中間で事件があった年には日本人の抱く中国イメージが悪化するが、何もない年には向上する。ところが今回は、初めてそのパターンが崩れたのだ。
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 その原因は何か。相手によくない印象を持っている理由として挙げられた回答は、「資源やエネルギーの確保で自己中心的に見えるから」が最多の54%、続いて「尖閣諸島をめぐり対立が続いているから」「国際的なルールと異なる行動をするから」がそれぞれ48%だった(複数回答可)。
 さらに興味深いのは、両国関係の発展を妨げる問題として「領土問題」が昨年より6ポイント増の70%に達したことだ(中国側もこれが最多だが昨年比7ポイント減の51%)。こうした回答からは、一昨年の尖閣沖漁船衝突事件の衝撃がまだ残響しており、南シナ海で東南アジア諸国と対峙を続ける中国の振る舞いに厳しい眼差しが注がれていることが見て取れる。
 日本政府は、中国側が1895年(日本領に編入された年)から1971年まで一度も尖閣諸島の領有権を主張しなかったことなどから、歴史的、法的に領土問題は存在しないという。だが大多数の国民は、尖閣が完全に日本領だと信じつつも、政治的、外交的に領土問題があることは否めないと考えている。
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 ではそれをどう解決するのか。日本側回答者の41%が両国間の速やかな交渉を、29%が国際司法裁判所への提訴を選んだ(単数回答)。通常は、実効支配している側は交渉や提訴を考えない。この数値には日本人の人のよさが表れているともいえる。しかし同時に、石原都知事流の島の公有化が問題の解決にならないと、多くの人が知っていることをも示す数値だ。
 主権をめぐる争いは、双方とも自分が絶対に正しいと固く信じている場合が多く、容易には解決されない。尖閣のような領土ナショナリズムが加熱する問題は、いわばパンドラの箱に戻すか神棚に上げておくのが望ましい。両国政府は同意しないことに同意し(アグリー・トゥ・ディスアグリー)、中国側は日本側の実効支配に挑戦しないという毛沢東やケ小平の智慧に立ち戻るべきだ。
 日本側の対中イメージの悪化が目立った今回の調査だが、実は日中関係が重要だと認めた人は80%にも達した。国民は、感情的に反発しても、理性的には対中関係の改善を望んでいる。この事情を政治家も一部マスメディアも直視しなければならない。自分の政治的、商業的な利益しか考えず、扇動的、誘導的なパフォーマンスや報道で国民をミスリードし、国益を損なうのはもってのほかである。
(信濃毎日新聞「月曜評論」2012.6.25より)