二○○九年 新年のごあいさつ−試練を乗り越え、次の試練へ

             神奈川県日中友好協会会長  久 保 孝 雄

 新年あけましておめでとうございます。昨年は一方ならぬご支援、ご協力をいただき誠にありがとうございました。本年もひき続きいっそうのご支援、ご協力を賜りたく、宜しくお願い申し上げます。

 昨年は中国にとって建国いらい最大の試練の年のひとつでした。中国人にとって100年来の夢でありました北京オリンピック開催の年でありながら、開催直前の5月には7万人の死者、100万人の被災者を出した空前の四川大地震に見舞われたほか、華南の大洪水、チベット動乱、新疆など各地の農民暴動などがあり、予定通りのオリンピック開催が危ぐされる状況が生まれました。とくに世界各地を巡った聖火リレーに対し、欧米などでチベット独立を叫ぶ人たちの妨害行動が起き、オリンピック・ボイコットの動きさえ起こりました。

 しかし、これらの多くの困難に対し、中国人はより結束を固めて立ち向かい、四川大地震に見られたように、国際的支援もオープンに受け入れながら、迅速、果敢に対応して懸命に事態の収拾に努め、無事オリンピックの開会にこぎつけました。204カ国・地域が参加した北京オリンピックの開会式には、70カ国の首脳が出席しましたが、いずれもオリンピック史上最多の記録でした。開会式、閉会式の壮大、華麗なイベントも含め、北京オリンピックは大きな成功を収め、台頭し、躍進する中国の存在感を全世界に印象づけました。そのあとのパラリンピックの成功も画期的でした。

 北京オリンピックは、中国が先進国に仲間入りするための「成人式」(沈才彬)とみられていましたが、中国は見事に「成人式」を通過したといえるでしょう。5月の先進国サミット・G8にはブラジル、インドなどとともに招かれましたし、11月の米国での金融サミット・G20にも参加しました。とくに、アメリカの住宅バブル崩壊によるサブプライムローン問題を契機に、全世界に拡大し、深刻化しつつある金融危機のなかで、アメリカの威信が大きく低下しつつある反面、中国の存在感がさらに高まってきています。

 中国は世界一のドル保有国、世界一の米国債保有国であり、アメリカ経済の今後を左右する大きなカードを手にしており、今後の世界経済に対する影響力は、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)など、新興諸国のなかでも特別に大きくなっています。

 ドイツの蔵相は議会証言(9月25日)のなかで、「アメリカは今回の金融危機を通じて超大国の地位を失った。アジア、欧州に新しい極が台頭する。米国が元の地位に戻ることはない」と述べていましたが、アメリカ一極支配時代の次にくる多極化する世界のなかで、中国の占める位置はいっそう大きなものになっていくでしょう。

 しかし、中国が経済規模だけではなく、政治、文化も含めて文字通り世界の大国になっていくためには克服すべき多くの課題が残されていることも事実です。階層間、地域間の大きな所得格差、公害、環境問題の深刻化、インフレ昂進と失業増加の問題、党、政府幹部の腐敗・汚職などが差し迫った課題です。昨年、多くの困難を乗り越えてきた中国が、今年もこれらの困難を一つ一つ克服し、文字通り世界の大国への「成人式」の関門を無事乗り越えていって欲しいと思います。

 (神奈川県日中友好協会会報「日中の輪」92号から)

 *久保氏は東京外大中国語科卒、中国研究所勤務を経て神奈川県庁へ、副知事など歴任。2000年から神奈川県日中会長