注目される建国60周年の中国の動向

          井出正一 元厚相、(社)日中友好協会副会長、長野県日中友好協会会長

「貧しさに耐える社会主義」から「豊かさを求める社会主義」=「改革と開放」に転じて30年、今年建国60周年を迎える中国の動向に世界の注目が集まっている。
 20世紀の「資本主義=市場経済」対「社会主義=計画経済」の競争が、ソ連や東欧の崩壊により、市場経済の勝利でケリがついたかのようにみえた。
 ところがここへきて、冷戦崩壊後のアメリカ一極体制が揺らぎ、「金融資本主義」、「市場原理主義」といわれるアメリカ型資本主義のサブプライムローンに端を発した破綻は、全世界の実体経済に深刻な影響を及ぼしている。
 わが国においても、急激な円高と株安は、企業の景況感を悪化させ、あの日本的経営の優越性はどこへ行ってしまったのかと思うほど、冷酷・非情ともいえる大量のリストラは大きな社会不安を生じている。政治もまた混迷をきわめ、なかなか展望を見い出せない。そういえば戦後永らく論じられてきた「修正資本主義」とか「福祉国家」といった言葉を、いつの間にか誰も口にしなくなってしまった。

13億の人口、30年間にわたって年率10%前後の成長を続ける中国は、世界の工場から次第に世界の市場にもなってきた。国際的に成長率が低下するなかで、2年間に総額4兆元(約59兆円)を投じ、8%の成長率の維持と内需拡大を目指す中国の経済に、いまや世界不況からの脱出の牽引役が期待されている。

んな中国ではあるが、失業問題、格差の拡大、自然環境の悪化、人権及び少数民族問題、腐敗と汚職、年金や医療制度など遅れている社会保障への取組み等々解決しなくてはならない難題も山積している。
 さらに資本家と知識人を体制内に取込んだ“3つの代表論”によって、無産者階級を代表する政党から脱皮したとはいうものの一党独裁を堅持する政治体制と、資本主義化が進む経済体制が両立し続けられるのかという課題も抱えている。
 本来社会主義は平等を志向する(等しからざるを憂える)ものであるはずである。第2期に入った胡錦涛体制は、「改革と開放」をさらに進めるとしているが、その方向は、「和諧社会」を目指し、農村と都市、沿海と内陸、経済と社会、人間と自然、国内と海外からなる5つの調和を中核とする「科学的発展観」を打ち出している。これはこれまでの“先富論”に象徴される成長一辺倒の政策から公平を重視する政策への転換であり、中国が挑んでいる「社会主義的市場経済」という、学説もモデルもない壮大な実験でもあろうか。

(「日本と中国」09.4/25号)