世界の水危機と日本の役割

       井出正一 元厚相、(社)日中友好協会副会長、長野県日中友好協会会長

年7月の洞爺湖サミットでは、地球温暖化や気候変動についてCO2の削減目標が大きな注目を集めたが、「統合的水資源管理」も宣言に盛り込まれている。飲み水を含めて生活用水は、1日に最低20?は必要とされているが、現在地球上には10億人を超す人たちが、その量を確保できないでいるという。これからの人口の増加、経済の成長などを考えれば、食糧や水資源の問題はさらに深刻化することが予想される。
 13億の人口を抱える中国は、生活、灌漑、工業用水など利用可能な水資源は1人あたり2200?、世界の平均の4分の1しかない。
 1972年に黄河の断流が初めて観測されたといわれているが、盧溝橋下の流れもその頃から枯れはじめたのだろうか。
 とくに北京を含む北部は雨量が少ない一方で、人口は4割、耕作地面積は6割弱を占める。南の長江の水を引いてくる「南水北調」の工事も進んでいるが、北京の水甕である河北省や山西省の河川のダムの水で首都の需要を満たす影響を周辺の農村部が被っている様子は、五輪開催を目前にした頃わが国でもテレビや新聞で報じられた。

tの穀物を生産するのに1000tの水が必要であり、1tの肉を生産するにはさらに7倍の穀物を必要とするから、1tの肉を輸入することは原産地で7000倍の水を使っていることになるというレスターブラウンの説を知ったのは、この春中国製ギョーザ事件が発生、食の安全性と食糧自給率が問題になった頃、広中和歌子参議院議員からの「国会報告」によってであった。
 わが国のカロリー換算食糧自給率は40%を割っている。したがって加工品を含めて多くの食糧を輸入に頼っているわけだが、これに使われた水も一緒に輸入したと考える(これをバーチャルウォーター=仮想水というのだそうだ)と、東大の沖大幹教授によれば年間640億?で、国内の灌漑用水を上まわるという。

が国は水資源に恵まれているゆえ、時折見舞われる渇水のときを除けば、水危機はひとごとと思われがちだが、前述のことを考えるとそれは許されない。食糧自給率を上げて仮想水の消費を減らす努力とともに、中国はじめ食糧輸出国や水危機に直面している途上国の国々に、漏水防止などの節水技術や鑿井及び貯水池の建設技術、「点滴灌漑」を含めた灌漑技術、上下水道技術、浄水化技術、海水淡水化技術等々の提供を積極的に推進することは、わが国の格好の国際貢献策であり、それは日本の為にもなる筈だ。
(「日本と中国」2008.12.5号)