いくつもの立場をふまえた発言
井出 正一 元厚相、(社)日中友好協会副会長、長野県日中友好協会会長

月26日、小雨の煙る長野市内を、北京オリンピックの聖火は走り継がれた。
 長野県日中友好協会の仲間も、遠路駆けつけてくれた13人の石川県日中友好協会のみなさんや中国帰国者の方々と、スタートおよびゴール地点を中心に、沿道で日中両国の小旗を振って、静かに温かく声援を送った。危惧したほどの混乱もなく終了し、正直のところホッとした。先月、河北省との友好提携25周年記念で訪中したところ、四川大地震への援助隊派遣ともども感謝された。

 火が日本に到着する前から、そして長野市での模様について、多くの学者や評論家、報道記者やカメラマンが語り報じた。そのほとんどが、あるひとつの立場から論じ報じている。その限りにおいて、それぞれ間違ってはいないと思う。そんななかで、長野県華僑総会会長の王昌勝さん(62)が、地元の『信濃毎日新聞』4月25日号の“北京五輪・聖火リレーに思う”に語った発言に、私は最も共鳴を覚えた。王さんのご了解を得て以下にご紹介する。

京五輪の聖火を長野で迎えられるのは誇らしい。私の両親は、日本の統治下にあった台湾から第二次世界大戦直前に日本に移り住んだ。私は長野で生まれ日本の教育を受けて育ったが、(中略)台湾も大陸も同じ中国だと思い、北京五輪を楽しみに感じている。
 今回、さまざまな意見があるのは承知しているが、チベット問題は慎重に考えてほしい。中国への内政干渉ともいえるナイーブな問題で、弾圧や暴動の情報も信頼性の見極めが必要だ。チベットには経済成長をもたらすなど、中国政府を評価すべき点もあると思う。
 中国政府は、1989年の天安門事件で人民に銃を向けるなど、過去に多くの間違った行為をしてきた。ただ、聖火リレーへの妨害や北京五輪を批判する欧米各国にも、侵略や人権弾圧の歴史は存在する。日本を含めて今は民主的といわれる先進国も、紆余曲折を経て洗練されてきたのではないのか。
 経済成長が目覚しいとはいえ、中国は国家としてまだ発展途上にある。世界史的な流れを踏まえず、今ある姿だけを責めるとしたら残念だ。
 もちろん、中国に先進国として認められるための自覚が足りないとも思う。もっと国際世論に耳を傾けることも、今後は必要だろう。その意味で、北京五輪は中国が開かれた国に成長するために与えられた“試練”ともいえる。食や環境の問題もそのひとつだ。五輪開催をきっかけとした成長に期待してほしい」

(「日本と中国」08.6/15号)