融合の時代・飛躍の年・試金石
井出 正一 元厚相、(社)日中友好協会副会長

 一昨年秋の「戦略的互恵関係の構築」を謳った「共同プレス発表」以来、日中首脳の交流も軌道に乗ってきた。日中平和友好条約締結30周年の節目の年であり、北京五輪が開催されることしを、旧暮、両国外相は日中の「飛躍の年」とすることで合意した。
 沈才彬・三井物産戦略研究所中国経済センター所長は、1972年の国交樹立から80年代末までを「日中友好」の時代、90年代を日本の対中ODAに象徴される「日中協力」の時代、21世紀の現在はモノ、ヒト、カネが一方通行から双方向に交流する「日中融合」の時代と区分されている(『国際貿易』2007・12・11号)が、07年の貿易(輸出入)総額157・6兆円のうち対中貿易27・9兆円は17・7%で、戦後初めて対米25・2兆円の16・1%を上回った。
 ヒトの面での交流も06年に戦後初めて中国への日本人渡航者が377万人で361万人の米国を上回ったことが話題になったが、作年は訪日外国人においても中国からが94万人と、米国からの82万人をこれまた戦後初めて超えた。要するに戦後半世紀以上も続いたアメリカ一極構造から米国との関係を大切にしつつも、中国を中心とするアジアとの相互交流を基本とすべき時代になったといえよう。

 そんな矢先、中国製冷凍ギョーザによる中毒事件が発生。製造、流通のどこで混入したのか。過失か故意か、犯罪だとすれば動機は何か。原因が解明されていないため不安や憶測が広がっている。「政冷経熱」といわれた数年前でなくて幸いだった。両国調査団が相互訪問、互いの調査結果を交換し、真相究明を急ぐことで一致した。
 輸入商品には「原産国名」と「輸入者名」しか表示されていないという。「製造物責任」が重視されてきた現在、「製造者名」がなくてよいのだろうか。その結果、「原産国中国」というマスメディアの報道の仕方によっては、消費者は中国で生産された食品全体に不信を抱いてしまわないか、などと考えていたところ、ここへきて日中捜査当局の見解に大きな違い、溝が生じた。マスコミは「日中関係に火種」とか「胡錦涛主席来日に影響懸念」と報じている。

 心すべきは、われわれ日本人の食生活はいまや中国食品なしには成り立たないし、中国にとっても日本は大事な輸出先のはずだ。したがって中国食品の安全は日中共通の課題といえる。事件の解決は、長い間の「政冷」状態から漸く抜け出した日中両国にとって、まさに「互恵関係の構築」の試金石だ。冷静に協力し合って真相究明に努めてほしい。(2・29記)