日中「共同プレス発表」の持つ意味

 としは日中国交が正常化されて35周年になる。5年余り「政冷」状況にあった日中関係も、昨年10月の安倍首相の就任直後の訪中、中国側の異例ともいえる厚遇のなかで「戦略的互恵関係の構築」を謳った「共同プレス発表」によって、改善への一歩が大きく踏み出されたことは歓ばしい限りである。安倍首相のこれまでの言動、小泉内閣のアジア外交からは考えられないくらい、大きく舵が切られたわけである。
 思えば国交正常化を実現した田中首相は、早い段階から対中国との国交回復を唱えていた人ではない。自民党総裁選出馬時における国際情勢(国連、米中関係など)、財界を含む国内世論を踏まえた決断であったし、「平和友好条約」を締結した内閣の福田首相は、タカ派・親台湾派といわれる時期もあった。米中接近時の米国大統領はケネディやカーターではなく、ニクソンであったし、冷戦終結時はレーガンだったことを考えると、この種の大転換は思いがけない人物が担うのが歴史なのかもしれない。とはいえ、それほどに日中両国は、相手なくしては存在できない関係にあることの証左ではあろう。

 ところでこの「共同プレス発表」であるが、歴史問題をとりあえず棚上げにした。そして従来の日中関係は「善隣」とか「友好」を基礎とする二国間主義を前提としていたが、新しく「共通の戦略的利益に立脚した互恵関係の構築」がキーワードとなった。発表の翌日核実験を強行した北朝鮮問題が、両国の新たな戦略的互恵関係の第一歩となったのである。さらに「日本が戦後60年平和国家として歩んできた」ことを、中国側として初めて文書の形で認めたことや、これまでいかなる二国間の文書でも必ず触れていた台湾問題について、「日中共同声明の遵守」が約束されてはいるものの言及されていないことなど、江沢民時代とは明らかに異なる胡錦涛政権の柔軟な対日姿勢が窺える。日本側もこれに応えなくてはならない。

 元中国大使である佐藤嘉恭会長代理は、11月30日の理事会におけるあいさつで、「共同プレス発表は、外交文書としても特筆すべき内容となっている……この文書がこれからたびたび引用されながら私どもの活動を切り開いていく」と強調されているが、私も同感である。
 国会の承認を必要とする「条約」や「協定」ではないにしても、国会はこの「共同プレス発表」の内容について議論を深めるべきだし、協会発行の「友好手帳」の来年度版には、他の重要文書と並んで収録されることを期待して止まない。
   (「日本と中国」1/25)