反日デモが与えた示唆と教訓
                        朱建栄・東洋学園大学教授(「日本と中国」05年5/5号)

 中国各地で「突如」発生した大規模な反日デモ。そこにはナショナリズムの台頭、靖国神社、歴史教科書問題など複雑な背景要因があった。本格的検討にはもう少し時間がかかるが、一部の若者が破壊行動を起こしたことは正当化できない。結果的にそれは中国のイメージを損ない、友好運動に携わる日本の友人の立場を悪くし、真に心を痛めることだ。
 政府レベルでは日中双方とも国内ナショナリズムと外交配慮の間に均衡点を見出そうとしている。中国首脳部も社会の安定や投資環境をこれ以上損なうことを望まず、李肇星外相は学生を含めた各界代表3500人を前に対日関係の重要性を力説。今後、散発的なものはありうるが、大規模なデモ行動はピークを過ぎたと思われる。
 十数年ぶりの反日デモを再検証しながら、それが残した示唆と教訓をともに考えたい。
 第一に、中国社会の構造的変動を認識する必要がある。日本側は旧ソ連や20年前の中国を測る物差しで今日の中国を結論付ける問題点に気づくべきだ。2億人以上の中産階級、1億人のインターネット利用者を有する今、もっぱら共産党政権の「愛国教育」「反日教育」に原因を探すことは本末転倒だ。中国の若者たちは、何を考え、なぜ「反日」行動をするのか。それを理解することで初めて中国の行方を把握できる。一方、中国政府は自国の民衆に、不満や自己意思をより自由に表現できる社会的なパイプを作るべき、という教訓を得ただろうか。
 第二に、日中関係は少なくとも経済面で運命共同体になっていることを自覚し、それを大切に守る努力が求められている。最近まで経済界は「政冷」に対して十分な警告を出さず、歴史認識問題で3年も途絶えた首脳間の相互訪問を修復するのに官民双方とも十分な努力をしたとは言えない。中国側に関しては于青・前人民日報東京総局長がウェブサイト「人民網」で日本製品ボイコットを「常識を欠いた時代遅れのやり方」と批判。中国政府も日本に関する知識、日中関係の大事さをもっと若者に知ってもらう必要があろう。
 第三に、中国の「反日」について、日本の政治家やマスコミは中国内部だけで原因を見つけようとし、ひいては「中国首脳部内の権力闘争」という構図を組み立てて推測を加えている。中国内部に確かに原因はある。しかし、なぜ最近、近隣諸国が異口同音に日本の歴史認識を問題としているのか、それに関する日本側の原因も議論されるべきではないか。被害国が靖国問題を関係改善の障害だと明確に指摘しているのに、首相本人は「関係ない」と言っている。このような論理を容認した日本社会にもどこかおかしいところがある。