善隣友好関係を築くために−今、われわれがやるべきこと
                王毅・駐日中国大使

6月23日、(社)日中友好協会は東京・如水会館で第11回通常総会を開いた。総会後、王毅駐日大使が小泉純一郎首相の靖国神社参拝反対を中心とする講演を行った。王大使は日本と中国が善隣友好関係を築いていくために必要なことにもふれ、約120人の参加者たちは熱心に耳を傾けた。


<約束を重んじ、靖国問題の解決を>

第11回通常総会開催にあたり、皆さんと一緒に日中関係について語りあうことを、私は大変意義のあるものだと思っています。

振り返ると日中関係は両国政府、そして日中友好協会を代表とする両国国民の努力により、大きな進歩を遂げてまいりました。しかし近年来、政治関係の面では、若干、困難に直面しております。中国政府の対日政策はいささかも変化がありません。どんな困難な局面にあっても、われわれは隣国日本との間に長期安定した善隣友好関係を築いていきたいという決意です。

4月23日に胡錦涛国家主席がインドネシアで小泉総理にお会いした機会を借り、中国政府の対日政策を改めて表明しました。そして胡主席は、16文字の対日方針を発表しました。それは「平和共存」、「世代友好」、「互恵協力」、「共同発展」、この16文字をもって新しい中国指導部の対日政策を表現しています。とても前向きな姿勢だと思います。健全で良好な日中関係をふまえ、手を携えてアジアの将来と振興を推進していきたい、とりわけ東アジア共同体の建設に協力していきたいと思います。

それはまさに21世紀に向けて、日本と中国の間の新しい共通利益ではないかと思います。

このような日中関係の見通しを実現するためには、われわれが今存在する問題を善処する必要があると思います。

いろいろ問題点がありますが、やはりネックになっているのは靖国神社の参拝問題です。それは今、日中両国も皆、そのように認識しているのではないかと思います。この問題に関連していえば、日本には独特な死生観があり、文化もあることをわれわれは十分承知しています。しかし靖国神社の性格はどういうものでしょうか?先の大戦においてどのような役割を果たしたか、おそらく皆さんがわれわれ外国人よりもご存知だと思います。

それでも中国政府は、日本国内の一般兵士も含めて、国民が戦争の被害者であるという立場から、日本の国民が神社に行って自分の親族、親友を偲ぶことに異存はありません。しかしながら日本の指導者が行かれると、おそらく戦争の被害国、とりわけ侵略の被害の最も大きかった中国国民から見れば、受け入れがたいものがあります。それは侵略戦争を起こした戦争の責任者、いわゆるA級戦犯が祀られているからです。

この問題をどう解決していくか、いろいろ議論が行われていますが、やはり日本も中国も東洋人ですから約束を守っていく、約束を重んずる、そして約束を行動に移していく、といくことを私は強調したいと思います。

その約束は、ひとつは日本と中国の約束です。33年前に日中国交正常化が実現しました。共同声明を発表し、日本側が過去の戦争において、中国国民に対して重大な損害を与えた責任を痛感し、深く反省する、と。あとは対中侵略も認めお詫びをする、という態度をも表明されました。そして中国側はそれをふまえ、両国国民の友好のために、対日戦争賠償請求権を放棄しました。この約束は、まさに日中国交正常化の土台です。そして日本と中国の関係の政治的な基盤となっています。つまり、日本政府がお詫びを表明された以上、その延長線で侵略の責任者であるA級戦犯のところに行かないということは、この約束にかなうことになります。

2つめの約束は、日本と国際社会の間の約束です。日本政府は東京裁判の結果を受け入れサンフランシスコ条約に加盟し、国際社会に復帰しました。それは日本戦後の再出発です。しかしわれわれが今、見ているように、靖国神社のほうが東京裁判の正当性について疑問を投げかけています。そのような状況のもとで参拝するかどうかの問題は、まさに日本と国際社会で結ばれた約束を守れるかどうかに関わってくるわけです。

ですから、今、このふたつの原点に戻る必要があります。ひとつの原点は日本と中国の国交正常化、もうひとつの原点は日本の戦後の再出発。このふたつをふまえ、日本と中国の約束、そして日本と国際社会の約束。ふたつの約束を再確認する必要があるのではないか、と思っています。そして、その約束を実際の行動に移して頂き、問題の解決の策を探っていくべきではないか、と思っています。

<真の和解に向け判断を>

それでは、中国の立場が日本の内政に干渉しているのではないか、という指摘がありますが、私はそうではないと思います。すでに国際的に認定されたA級戦犯は、そのほとんどが日本の対外侵略、とりわけ対中侵略に深く関わっています。ですからA級戦犯をどう見るか、A級戦犯に関わる問題をどう扱うかは、もはや単純な日本の内政問題を越え、国際社会から注目され、ひとつの外交問題にもなっています。

また、日本に圧力をかけてくるのではないか、という批判も聞こえますが、今はむしろ日本側の圧力をわれわれが感じています。中国側は余分な要求をしていません。1985年以後の状況に戻って頂ければ、この問題も解決します。これは圧力ではありません。むしろ日中両国の友好の大局から出発し、善意ある隣人からのすすめです。

歴史の問題は、結局、日本自身の問題です。最終的に日本自身が自主的に判断を下すものです。どのようにして日本の国益にかなっていくか、戦争の被害国の国民と真の和解、心の和解ができるか、近隣諸国と仲良くつきあっていけるか、という角度から、賢明な判断を期待しています。

靖国神社の問題が解決しても、また別の問題が出てくるという議論がありますが、私はそうではないと思っています。この問題は日中関係に刺さっている棘のようなものであり、ネックのような存在です。これを解決していけば、両国の信頼関係も回復できますし、ハイレベルの交流のドアも開け、両国関係も改善の途につくことになります。それは両国の国益に合い、アジア諸国からも期待されていることです。そして、他の問題の解決にも積極的なインパクトを与えるのではないかと信じています。

最近、日本国内で、靖国神社の問題によって、先の大戦をどう認識するか、いろいろ議論を行っています。もうすでに60年たちました。少し遅くなっていますが、私はこの議論に意味があると思います。そしてどういう結果が出るか、中国も含めアジアの近隣諸国が見守っています。私は、日本の将来について積極的な影響が生まれる議論になって頂きたい。そして日本の社会全体の良識が必ずや国際社会に応えてくれる、と信じています。

<重要さを増す民間交流>

両国の最初の友好団体である日中友好協会は、55年間、新中国とともに発展してこられました。歴代の会長の指導のもとで困難を克服し、日中国交正常化、そして平和友好条約の締結、あるいは日本と中国の各分野の交流を促進するために多大な貢献をされてこられました。今日、この機会をお借りし、全国の日中友好協会の皆さんに、中国政府を代表して心から感謝の意を表したいと思います。

 歴史は21世紀に入っています。日中関係も国交回復して以来、まれに見る複雑な状況に直面しています。特に国民感情のほうが必ずしも好ましい方向ではありません。こういうときこそ、日中友好協会が友好の伝統を生かして、日中関係の健全、かつ両国の発展のために役割を果たして頂きたい、と希望しています。

 ひとつは日中友好の信念を貫いていかなければなりません。問題は確かに多く、状況は複雑になっています。しかしこういう時こそ、日中友好の旗印を高らかに掲げる必要があるのではないかと思います。日本と中国は永遠の隣国です。日中関係の未来はひとつしかありません。仲良く子々孫々、付き合わなければなりません。ですから友好を堅持し、その信念を貫いていくことは、日本の国益や、両国国民の願い、時代の流れに合っていると思います。

 2つめは民間交流を拡大し、相互理解を深めていくことです。日本も中国も大きく変化しています。ですから、むしろ新たな相互理解が必要です。今、民間レベルの交流がいろいろな分野で行われています。私は時々、地方に講演に行きますが、その度に、日中の交流は日本の市町村まで浸透していると感じます。本当に素晴らしいことです。そういう地方レベルの交流が、日本と中国の関係を支えていると思います。このような交流が日中関係がどんなことになっても続けられ、深化していけると私は思います。そこで日中友好協会が、いろいろな民間交流の中核的な役割を果たされるのではないか、と思います。というのは皆さん、中国のことを一番知っていますし、中国とのパイプがあり、経験も豊かですから、民間交流のいろいろな分野において、役割を果たされるのではないか、と確信しています。

 3つめは、地方交流の時代に備えていくことです。今の友好都市関係は、すでに226組となっています。そして協議書のサインはしていませんが、いろいろなかたちで交流をしているのは、数え切れないほど存在しています。今は中国の地方もどんどん成長し、力がついているため、外国との交流に熱心になっています。日本のほうも改革が進み、地方自治体もその役割が強化されていくのではないかと思います。これは地方交流を促進する上でプラスになります。

<“友好”を次代へ引き継ぐ

 そして皆さんご存知のように、中国政府は最近、科学的な発展を目指し、さらに調和のとれた社会を作ろうという大方針を出しています。GDP追求だけではなく、これからは環境の保護、人材の育成、社会保障、教育振興、いずれも地方の政府、民間のレベルで強化しなければなりません。そうなると地方レベルでの交流でたくさんチャンスが生まれてくるのではないか、と私は考えています。

 また、これから中国も循環型の社会をつくる、という方向性をうち出しております。この循環型社会とうと、日本は世界で一番進んでいるのではないか、と思います。大いに日本に学ぶ必要があるんじゃないかと思っています。地方交流の時代に備えるために、私は各都道府県の友好協会が、まさにその橋渡しの役割を果たされるのではないかと思います。

 最後の提案は、後継者を養成していくことです。日中友好は次の世代へ引き継がなければなりません。そしてより多くの方々が、日中友好の交流に参加することが期待されております。ですから日中友好協会も、若い人を惹きつける活動をもっと展開することを期待しております。スポーツや文化、あるいは教育、といった分野において日中友好の活動を展開し、より多くの若い人が日本と中国の関係の重要性を知り、日中間で友達が多くできることを希望しています。中国大使館は、皆さんの活動を全面的に支持していきたい所存です。

 最後に日中友好協会のますますの発展、そして皆さんのご健勝をお祈りし、私の挨拶といたします。ありがとうございました。

王毅大使略歴

 1953年生まれ。89年から94年まで駐日本中国大使館に赴任。2001年に外務次官に就任。6カ国協議の議長役をつとめる。04年9月、駐日中国大使として着任。