小泉首相・胡錦涛主席、1年ぶりの日中首脳会談
かけがえのない日中関係、見守りたい首相の実行策
            高井潔司・北海道大学教授(「日本と中国」12/5号)

 チリで行なわれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席した小泉純一郎首相は11月21日夜(日本時間22日午前)、サンティアゴ市内のホテルで胡錦涛国家主席と会談した。日中首脳会談は昨年10月のバンコクでのAPECの際におこなわれて以来約1年ぶり。胡主席が靖国問題について小泉首相に対して、初めて直接批判した。会談の意義や今後の日中関係の課題などについて、北海道大学の高井潔教授に解説してもらった。

見すごせない日中関係の危うい一面

 会談場所が第三国とはいえ、小泉首相と胡錦涛国家主席の日中首脳会談が約1年ぶりに実現した。東シナ海での天然ガス田開発、中国潜水艦による領海侵入事件などこのところ摩擦が絶えなかっただけに、会談の開催はそれなりの意義があった。

 しかし、、懸案の靖国参拝問題についての互いの主張をぶつけただけで、今後につながる歩みよりは見られなかった。

 敢えて第三者の立場に立っていえば、双方とも両国関係の戦略的重要性を認識していない。米中関係は、クリントン政権下では台湾海峡で中米両軍が対峙寸前までいって、ブッシュ政権下では南シナ海上で両軍の軍用機接触事件が発生して、やっと両国の戦略的重要性が認識され、安定的な対話のメカニズムが生まれた。その意味では日中関係は行きつくところまで行っていないのかもしれない。

 だが日中はそんな悠長なことは言っておれない。米中と違って常時向き合っている。そんな突発事件が起きたら、さらに危うい関係に突き進みかねない地政学的条件と現状の下にある。両国の指導者はこの点を真剣に認識しておく必要がある。

なぜ"靖国"が問題なのか

 さて、「敢えて第三者」といったが、私は中国問題の研究者として、中国側の方がより日中関係の重要性を認識していること、靖国問題が原則問題であることを知っている。

 中国側が靖国参拝を問題にしているのは、A級戦犯を合祀している神社を、首相として公式参拝する姿勢を問うているのである。それは過去の侵略戦争を肯定する行為だと、中国をはじめ戦争の真の被害に遭ったアジアの人々に受け取られている。首相がどうしても「心ならずも戦場に行かれ、亡くなられた方に心からの哀悼の誠を捧げる」というのなら、アジアの人々に納得される形で、参拝すればよい。その方法はないわけではない。

 今年のように元旦に参拝し、「初詣はいいね」などという物言いは、戦没者の遺族や右翼の人々まで怒らせる。節操のない、いい加減な参拝を喜ぶのは、中国への挑発を趣味とする現都知事や台湾独立支持派くらいのものだろう。

大局的見地から判断を

 靖国問題を絶対条件にして、首脳会談を拒否する中国側の対応を、かたくなという議論もある。一見、もっともらしいが、中国が靖国神社を棚上げにして首脳会談に応じたとしたら、オポチュニスト首相は、靖国も歴史認識も中国は日本の主張を受け入れたと曲解してしまう。昨年の温家宝――小泉会談でそれが見られた。中国側の原則的振る舞いは、この会談における教訓だろう。

 小泉首相は会談後の記者会見で、「大局的見地から日中関係の強化を考える」と述べた。経済だけでなく、日中関係の安定は、両国だけでなく、アジア、世界の平和、安定、発展に関わっている。朝鮮半島にしても、あるいは国連安保理常任理事会入り問題にしても、中国の協力なしに前に進まない。真摯に地域の安定や国益を考えるなら、首相の発言は当然である。その実行策を見守っていきたい。