ボクらの仲間に
チュー と呼ばれる男がいる。本名は伊藤というのだが、ボクらの仲間で、彼を伊藤と呼ぶ者はいない。
いつの頃から彼を チュー
と呼ぶようになったのか、もう記憶にもないのだが、とにかくこの男、麻雀をやると必ずといっていいほど“中”をなく。初牌であろうがなかろうが、配牌に1枚しかなくても根性でつもってきて、必ず対子にしてしまう。気合いで積んである牌の順番が変わるはずがないと思われるかもしれないが、その辺がこの男のすごいところなのである。そんなこともあって、誰言うともなく“イトーチュー(伊藤中)”。大手商事会社と同じこういう名前で呼ぶのは、70年になるチュー
の幅広い付き合いの中でも、おそらくボクらの仲間以外にはいないだろう。そして、その謂れを知る者もないだろう。
この男、ボクらの仲間の中で一人だけ卒業年度が合わない。どういう理由で卒業年度を1年遅らせたのか、詳しい理由など知りたいとも思わないのだが、そのおかげで、“獅子の会”というボクらの会の名称が決まったことを思うと、この男の持つ潜在能力のすごさを感じずにはいられない。“獅子の会”という名称は、大学に入学した昭和44年の“44”を“しし”ともじっての命名であるが、これも、卒業年度で決めるわけにいかなかったという
チュー の事情からきたものであるのだから…。
この男、とにかく謎が多い。
この男が、ボクらの中で唯一卒業年度が合わない件については前述したが、それ以外にも、この男の行動は謎めいている。
謎1…空白の一日
平成3年4月、第2回目の獅子の会開催地は、伊勢志摩・相差海岸であった。チュー
は当時山口に赴任していた。
ボクは前日から 丹ちゃん
宅に転がり込んでいた。とっつぁん や シイノ
とは待ち合わせの連絡がとれ、山口から駆けつけてくるはずの
チュー は、どうやってくるのだろうかと、チュー
の自宅に電話を入れたところ、チュー
はすでに出発したとのことであった。
翌日宿に着いたとき、チュー
は、ボクらよりわずか先に着いたばかりだった。前夜から
チュー は何処に行っていたのか。チュー
は、口元に笑みを浮かべただけで言葉を濁した。
謎2…ボクらと行動を共にしないわけ
この男、何故かボクらと行動を共にしたくないらしい。特に、集合についてはその特徴が顕著に現れる。第2回目の獅子の会開催時の謎については前述したとおりだが、それ以外にも、平成11年(第8回・河口湖)、平成19年(第16回・山中湖)、平成20年(第17回・草津温泉)開催においても、あらかじめ決められていた集合場所には姿を見せない。特に平成20年(第17回・草津温泉)においては、ゴルフと称して大幅に遅刻し、宴会の途中からの乱入であった。この年は
チュー
が幹事を務めており、何もゴルフの予定とダブルブッキングする必要はなかったのだと思うのだが…。そして、平成22年(第19回・裏磐梯)においても、わざわざ福島まで出かけてきておきながら、翌日の観光をキャンセルして帰っていったし、平成23年(第20回・浜名湖)も、ひとりだけ電車で帰っていった。
ボクらは何かアリバイ作りに利用されているのではないか…と勘ぐっているのは、はたしてボクだけだろうか? 謎3…ボクらを“奈良”に案内したくないわけ
この男、どうしてもボクらを“奈良”に案内したくないらしい。平成20年・第17回獅子の会の席上、翌年の開催地は“奈良”ということに内定していた。“奈良”は修学旅行以来行ったことがないというメンバーもおり、2、3年は連続して“奈良”でもいいのではないかという意見も出た。そこで、一時“奈良”に赴任していたことのある
チュー
に幹事をお願いすることになったのだが、平成21年・第18回獅子の会開催地は何故か南房総だった。それも、メンバーには何の相談もないまま、幹事の特権を利用しての暴挙だった。
“奈良”赴任中、いったい何をやっていたのか、ボクらを“奈良”に案内したくない理由は、未だに判明していない。 謎4…ピンクを着るわけ
平成23年、平成24年と、チューは2年連続でピンク色を着てきた。別に何色を着ようと構わないのではあるが、ピンクを着たチューのイメージが強すぎて、もうチューは必ずピンク色のものを着てくるものだと思い込んでしまっていた。平成26年も、チューは絶対ピンクを着てくるものとばっかり思っていたが、案に相違して白のジャケットを着てきた。チューにそう言ってみたところ、ピンクはここ一番の勝負服なんですと。
そうすると、平成23、24年はいったい何を勝負するつもりできていたのだろうか?そして、果たして勝負はできたのだろうか? 
写真左:平成23年のピンク 写真右:平成24年のピンク
とにかくこの男、怖いんです。
暴力的というわけではないし、言葉がきついわけでもないが、ボクらは皆
チュー に逆らうことができない。チュー
の言っていることに賛同するわけでもないのだが、とにかく逆らわないようにしている。理由はよく分からない。
ただ一人、怖いもの知らずの“ヤノのバカ”だけが、チュー
に対し傍若無人の振る舞いをする。だからいつも
チュー
に怒られているのだが、それをまたまったく意に介していないところが、ヤノ
のヤノ たる所以であり、その ヤノ
に対して怒っている チュー
を見るのがたまらなく楽しい。
写真:ヤノ
に意見する チュー(平成14年・於 下呂温泉) 怒り1…その腹を何とかしなさい
平成8年、第6回獅子の会が湯檜曽温泉で開催されたのだが、このとき
ヤノ の腹を見た チュー
が、まずクレームをつけた。何だ!その腹は。
この一言がきっかけとなり、ヤノ
の腹に非難の集中砲火!おまえ、そんな腹してれば死んじまうぞ。
というわけで ヤノ
に減量命令が下り、翌年の獅子の会開催日までに、体重が75kg以下にならなければ、翌年の獅子の会の費用は全額ヤノ負担ということになったのであった。結局、その翌年は2回目の中止、更にその翌年も
ヤノ
が欠席ということで、その話はいつの間にかウヤムヤになってしまったわけであるが、あのときの
チュー
の忠告を真面目に聞いていれば、ここ数年連続の
ヤノ の欠席も回避されていたのではないか。
写真:物議をかもした
ヤノ の腹(平成4年・於 戸倉上山田温泉) 怒り2…車停められねエだろうが…
平成13年、第10回獅子の会が箱根湯本で開催されたのだが、チュー
は町田から車でくるということで、丹ちゃん
とボクは箱根湯本の駅前で拾ってもらうことになっていた。ところが、上京するのに利用した高速バスが、練馬ICを降りた途端に大渋滞に巻き込まれ、新宿での
丹ちゃん
との待ち合わせ時間に遅刻。おかげで新宿からの小田急は、小田原で乗り換えが必要になる“片瀬江ノ島”行き。それでも何とか
チュー
との約束の時間には間に合いそうだったが、乗り継ぎの時間を利用してトイレに行ったのが大誤算。年齢とともにしょんべんの切れも悪くなり、何とか約束の時間に間に合いそうだった電車に乗り遅れてしまった。小田原から箱根湯本まで、沿線の紫陽花を愛でながら、各駅停車の電車に揺られていったのだが、途中
チュー から怒りの電話。
車停めるとこねエんだよ。チュー
のお怒りはごもっともで、ボクらは平謝りに謝って、何とか
チュー
の車に乗せていただいたわけでございます。
この年の獅子の会、チュー
の怒りにはまだ続編があって、相変わらずの ヤノ
の傍若無人ぶりに、チュー
の怒りは頂点に達した。夜中まで大騒ぎし、やっと寝たかと思ったら今度は大いびき。おまけに、翌朝起きぬけに鼻っ先で屁をこかれ、チュー
の怒りは無理からぬことと思いながら、ヤノ
に対して怒ったってしょうがないだろうというのが全員の感想だった。 怒り3…早くこい!
平成19年、第16回の獅子の会は山中湖での開催であった。参加者のうちチューとヤノを除く5人は河口湖で落ち合った後、観光をしながら宿泊地に向かっていたのであるが、途中チューから電話が入りました。宿に着いたら、管理人の親父に部屋にも入れてもらえず、ロビーで待つように言われたとのこと。早くこい!といささかおかんむり。
車を運転するとっつぁんの、アクセルを踏む足に力が入ったように思えたのは、決して気のせいではない。 怒り4…何でこんなに不便なんだ
平成20年、第17回の獅子の会は草津温泉で開催された。この年の幹事は
チュー
だったが、自分で計画しておきながら、どこかのゴルフコンペとダブルブッキング。結局宴会途中からの乱入となったわけだが、渋川から長野原草津口までの吾妻線が1時間近くも要すること、またそこから草津温泉までバスに揺られなければならないという辺鄙さに、何でこんなに不便なんだ。
お言葉を返すようで大変恐縮ですが、計画をお立てになったのは、幹事のあなたでは…。 怒り5…俺のやることに文句でも?
平成20年の獅子の会の席上で、翌年の開催地は“奈良”に内定したことは前述した。ところが、幹事の
チュー
からの連絡では、現在南房総での実施ということで計画を練っているとのこと。内定していた“奈良”の“な”の字も出てこない。連絡を受けた全員、エッ?と思いながら、誰一人異論をはさむ者がいない。というより、異論をはさませない
チュー
の無言の圧力に全員が屈服したということ。仰せのとおりにいたします。
事務局・丹ちゃん からの後日談:
平成21年度の開催は、 チュー
の計画どおり南房総で行われたわけだが、参加者が5人ということで、全行程車で動くことになった。にもかかわらず、チュー
は、ほとんど観光の計画を立てていなかったらしい。恐る恐る言い出した
丹ちゃん
の忠告を容れて、出発間際にインターネットで観光地を調べたらしいが、そんなおかげで小塚大師への
チュー の厄除けにもつきあわされる羽目に…。
何?俺のやることに何か文句でも?
滅相もございません。厄除けにおつきあいさせていただいたおかげで、ボク、まだ生きてます。
熱唱!みだれ髪
獅子の会開催当時は懐かしさも手伝って、思い出話を肴に飲むばかりだったが、回を重ねるにつれて酒量も落ち、毎回毎回
ヤノ
をいじるばかりでは間が持たなくなってきたからだろうか、途中からコンパニオンのお姐さんたちも入るようになり、カラオケも欠かせないものになってきた。ボクらの学生時代にはもちろんカラオケなどあるはずもなく、歌声などあまり聞いたこともなかったのだが、最近では
哲ちゃん
の歌唱力に驚かされるようにもなってきた。
しかし、何といっても出色なのは、残り少ない髪(学生時代からそんなに減っているとは思えないが…)を目いっぱい振り乱して歌う
チュー の♪みだれ髪♪だろうと思っている。 それでは、チュー
の熱唱ぶりをじっくりとご覧ください。
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♪ 髪のみだれに 手をやれば
平成27年 於・那須馬頭温泉(南平台温泉ホテル) |
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赤い蹴出しが 風に舞う
平成26年 於・山中温泉(花つばき) |
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憎や 恋しや 塩屋の岬
平成24年 於・平湯温泉(穂高荘山がの湯) |
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投げて届かぬ 想いの糸が
平成25年 於・土肥温泉(桂川シーサイドホテル) |
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胸にからんで 涙をしぼる ♪
平成21年 於・南房総(富浦ロイヤルホテル) |
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(間奏中)
平成22年 於・裏磐梯ロイヤルホテル |
チュー のゴルフ講座
ボクはゴルフをやらないので、チュー
のゴルフの腕前も知らない。が、平成20年には、幹事でありながら、ゴルフコンペと称して獅子の会の宴会に遅れるという大失態を演じているのだから、まア、まったくやらないというわけではないだろう。このときの成績にはまったく触れなかったことから考えると、おそらく、髪もみだれ、顔もみだれ、おまけにスコアもみだれただろうことは想像に難くない。 そんな
チュー ではあるが、他人のフォームには厳しい。
ちょっと 待て! |
いいか、こうだろ |
脇 締めて |
ゴルフレッスンとは思えない |
ボクらは チュー の笑顔が好きだ
ボクを筆頭に、皆 チュー
のことをいろいろ言うが、ボクらの中では貴重な存在である。
それは、平成17年(第14回・石和温泉)、平成18年(第15回・砺波)と2年連続して
チュー
が欠席したときの獅子の会が、いささか盛り上がりに欠けたという事実をみても明らかだろう。
そして、ボクらは皆、底抜けに明るい チュー
の笑顔が好きだ。
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