林業と自然の共存とは

 この何の抵抗もなく受け入れられてしまいそうな言葉、
実はまだまだ遠い夢なのかも知れません。

 森林には人間社会に材木を供給すること以外にさまざまな機能があり、
近頃では(とくに都会暮らしの)人々の「心のいやし」の場としての機能が
かなり注目されるようになりました。
 森に出会ったとき、多くの日本人は、整然と手入れされた雰囲気の中に
清清しさを感じます。が、何度も森に足を運び、そこに暮らす動植物たちに
心惹かれるようになった人々は、やがて、たとえ美しくとも、静かすぎる
森に物足りなさを感じるようになるのです。

 日本の森には、管理者や所有者の違いによって、いろいろな名前が
つけられていますが、そのうち国有林と呼ばれる森では、近年ようやく
「心のいやし」や野生動植物の「棲み家」としての機能を発揮するような
森造りが行われるようになりました。
 ところがどっこい、それ以外の森では、「林業と自然の共存」という
ことがうたわれてはいても、その為の具体的な努力が、ほとんど行われて
いないか、行われていても特定の種を守ることに偏っていたり、
目的の意味が取り違えられている、というのが現状なのではないでしょうか。

 国土面積の67%という、世界的にも高い森林面積率を持つ日本ですが、
たとえ率は高くとも、分母となる国土面積が狭い上に、その4割以上が
人工林と呼ばれる森である以上、野生動植物にとって暮らしやすい森は、
そこに関わる人間たちが、意識的に創り出すことなしに実現するものでは
ありません。

 多くの生物種の犠牲(ときには人間自らの首を直接しめながら)の上に、
ようやく気づかされ始めた森本来の機能の大切さを、現場で働く者ひとり
ひとりが自覚することが、今の林業に最も求められていることのひとつでは
ないかと、私は考えます。
 

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