今日のコラム・バックナンバー(2007年10月分)


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掲載は日付順になっています。


2007.10.1

一方、アップルのような水平分業モデルは
人と設備を抱えるリスクは避けられるが
アップルにとっての付加価値は
減ってしまうのではないかという意見や認識が
一般的であると
その新聞記事にも書かれているし
実際、この手の話ではよく議論になる話題だ。

買ってみた部品をあつめて組み立てるだけでは
儲からないのではないか、というわけだ。

技術のブラックボックス化をするのも
重要なデバイスや部品は
自分のところだけで作れるようにしておいて
付加価値を増やすためだということなのだから
ふつうそういう認識は
みなが持っているのかもしれない。

しかしその新聞によれば
最近カリフォルニア大の研究者が
「グローバルなイノベーションの中で
     誰が価値を獲得しているか」
という論文を発表していて
これがなかなか興味深いのだそうだ。



2007.10.2

その論文では
定価299ドルのiPODを例に
使用部品から最終組立、販売のいたる
ルートに関与する企業や国を割り出し、
付加価値がどう生み出されているかを
詳細に追跡している。

結論的にいうならばその製品のなかで
一番高価な部品は東芝のHDDで73、39ドル
しかしHDDも部品は海外で調達したり
組み立ても日本以外だから
純粋な東芝の儲けは19、45ドルだという。

同様に計算すると
日本のメーカーの関与した部分の付加価値は
合計で26ドルだという。
結局日本以外も含め他部品供給企業や組立企業の
付加価値ベース製造コストの合計は144ドルで
これがアメリカで299ドルで売られるということは
差額の155ドルがアップルと流通業者のフトコロに
入る計算だという。



2007.10.3

中国との関係も調査したらしい。
完成品として中国から144ドルで
アメリカにもたらされるのだが
実質的な中国の対米黒字分は
組み立て分の4ドルに過ぎないのだという。

中国の膨大な対米黒字も
こうして考えると実態は異なるのではないかというのが
論文の内容だ。

定価599ドルのiPHONEも
製造コストは265、83ドルで
粗利益率は55%である。
これなら垂直統合生産などしなくても
水平分業モデルで良いではないか、
というのが新聞記事の主張だ。

これは興味深い内容だ。



2007.10.4

冷静になって考えてみれば
水平分業モデルという言葉を
誰が誰にむかってしゃべっている言葉なのかと
考える必要がある。

水平分業モデルといっても
水平分業される側と
水平分業する側
があることに気がつくべきだろう。

要はiPHONEなりiPODなりを
商品化し企画し設計し開発し販売する
水平分業するアップルの側と

それを受けて主として組み立てをする
EMSのような受託側、
あるいは部品を供給する部品メーカーの側、など
水平分業される側との間には
立場の違いと利益構造の
違いがあるということだ。



2007.10.5

近年は
一時は世の産業界から
次世代の産業のあるべき姿のように喧伝され
注目されていたEMSも
以前のようには儲からない、と
言われはじめていて
最近は利益を出すために
製品ブランドを持つメーカーから
製品の企画や試作や開発試作まで
受託するようになっている。

スマイルカーブという言葉がある。

企画試作開発という前半部分(上流部分)と
販売という後半部(下流部分)分は利益率が高く
真中の製造組立の部分は利益率が低いというのが
一般的な理解だが

その形をグラフとして絵に描くと
両側が持ち上がり真中が低い線を描くことになる。
まさに笑顔のときの口の形「スマイルカーブ」を指す。



2007.10.9

要はEMSが担当する部分は
スマイルカーブの両側ではなく
真中の利益の低い部分である
部品供給や組立の部分を担っていて
構造的に儲けさせてもらえない、ということだ。

ところで問題は
このスマイルカーブの真中の
一番儲からない部分のうちの組み立て部分は
EMSが担っていて
部品製造の部分は日本の産業が担っていて
さらにその構造や仕組みを日本の産業界として
「認めてしまっている」ことに
あるように思える。

EMSは前述のように
スマイルカーブの儲からない部分を
担当しているだけでなく
その上流部分に移行しようとしていると
思っていいのだが

ひとり日本の産業界は
スマイルカーブの真中で儲からない部分の担当に
なにかヒロイックな意識まで
持っているのではないかとさえ思える。



2007.10.10

たしかに日本の高度な技術にうらうちされた
高度な電子部品が世界中の電子機器で使われている。

それを例えば欧州やアジアなどの
組み立て現場やEMSが事業展開する現地を
視察した日本の産業人は
帰ってきてから胸をはってこう言う。

「いやあ、日本の部品は世界中で使われていて
すごいもんだ、」と

しかし、本当にそれで
日本の産業は儲かっていると言えるのか、

どうやらそうではない、ということが
前述の新聞記事の調査内容から見えてくるではないか。



2007.10.11

そういえば
話はちょっと変わるが

あのIBMさえ
最近はパソコンやハードを作って販売する事業から
サービスビジネスに移行することを
明確に打ち出していることは
あまりに有名だ。

PC事業を中国のレノボに売却したことは
もうだいぶ以前の話だが
それにとどまらずIBMは
ハードの製造から
どんどん抜けだそうとしている。
新聞の特集によれば
他社に言わせれば
IBMにはもう営業マンしかいない、とも
言われているのだそうだが
まあ、ものを作らなくなった企業は
一見、サービス業や商社に見えるから
そう揶揄されることもあるだろうとは思う。



2007.10.12

最近の新聞によれば
検索サイトのキーワードで
「バラシ」というキーワードが
結構使われているらしいのだが

そのバラシで出てくるサイトとは
最新の家電や情報家電製品などを
いち早くばらして
そのなかにどんな電子部品や電子デバイスが
使われているかを
公表しているサイトらしい。

最近のiPHONEとかも
早速ばらされているらしいのだが
で、そのなかに
どこの部品が使われているかによってその
デバイスメーカーの株価が変動するというのだ。



2007.10.15

つまり新製品で世界中で売れそうな
ものに使われているデバイスは
当然世界中でたくさん使われて
そんなものを生産している企業は
もちろん景気がよくなるだろうから
そのぶん株価が上がる、というわけだ。

iPHONEが今後どれほど
売れるかどうかは
以前ここで書いたように
実際はわからないところだが

iPHONEがiPODのように
世界中で爆発的に売れれば
たしかにそこに採用されている
部品のメーカーにも
いい影響はあることは間違いない。



2007.10.16

しかし、ここまで書いてきたように
本当にそれらの部品メーカが儲かるのかどうかは
依然としてわからないところがある。

IBMは
サービスサイエンスという学問領域まで立ち上げて
製造業という分野ではなく
サービスで食っていくにはどうしたら良いか考えることに
全力をあげて挑んでいる。

日本の電子デバイスや
最近で言えばクルマのエンジンの
ピストンリングなど優秀な部品や技術が
世界中に使われていて
うれしい気持ちもあるし
誇らしい気持ちも
もちろんあるが
それにとどまっていてはならないと思う。

ものづくりももちろん重要だが
なにかその周辺に
日本に豊かさを実現する方法を
考え出さないといかんのではないか、と
強く思うのだがどうだろうか。



2007.10.17

小泉改革の経済面での先導役だった
竹中さんは安倍内閣になって
大臣を退任してからは
マスコミに登場することはめっきり減った。

しかしこの夏の
参議院選挙や首相交代などの時期を中心に
ここしばらくテレビや新聞などのマスコミに
頻繁に出ていたことがある。

そのなかで竹中氏は
地域経済が疲弊しているのは間違いないが
地方の産業と企業が
国際競争に負けたからだ。
というようなコメントを
何度も言っていた。

また昔のように公共事業や補助金に
国費を使うべきだとかいう意見や認識が
少しづつ高まってきている状況に対する
反論や牽制の意味でこう言っているのだろう。

しかしこのような意見には
とても強い違和感を筆者は持った。



2007.10.19

竹中さんの主張は
小泉改革によって
公共事業にお金が流れなくなったから
地域経済が疲弊したのではなく
地方の産業と企業が国際競争に負けたのだ、という
主張なのだが

しかし地方の産業と企業が
国際競争に負けたから地方が疲弊してしまった
という言い方ははたして正確だろうか。

あまりに急激な構造改革や
グルーバル化に
地方の産業と企業がついていけない
状況もあったのではないか。

あるいは
小泉改革では
中小企業や地方は
国際競争に勝てるようにはならなかったから
地方が疲弊してしまった
といってもいいかもしれない。



2007.10.22

つまりは
竹中さんの話には
なぜ負けたのか、勝てるようにならなかったのかを
語る視点や主語がない。

もちろん地方や中小企業が
国際競争力を高めて
世界のなかで戦えるようになることは
重要なことだしそれを目指すべきであることは
間違いもない。

そういう力をつけることができなかった
中小企業自身がいけないのだ、ということなのだろうが

しかし、国際競争に負けないように
いろいろな施策を施すのが
為政者の使命だろうし、

地方の産業と企業が国際競争に負けたから
地方が疲弊しているのだと
簡単に言ってもらっては
少なくとも一時は国の未来に責任を持つ
為政者にいた人の発する言葉ではない。



2007.10.23

地方の小さな企業や事業家が
国際競争に負けないために
自らの事業を
進化させていけるにこしたことはない。

しかし、そんなことがそうそう簡単には
できない状況であったのは
誰もがわかっていることではないか。

それをこそ考えて施策に生かすのは
為政者の役割だ。

もちろん民間も行政ばかりに任せていないで行なう。
みなそう考えている。

しかしそうはいっても
街の小さな地場産業に携わっているような
町工場の人達が
国際競争に負けないために考え行動できるかどうか。
残念ながら簡単なことではない。



2007.10.24

あえて言えば
地方の産業と企業が
国際競争に負けたてしまった原因と責任は
その地方の産業と企業にあるのではなく
日本の産業政策にある。

地方経済の疲弊を説明するのに
自分の責任を棚にあげておいて

地方やその産業が
競争力がないために
グローバルな競争に勝てなかったのだからと
簡単に説明してしまう
竹中氏の意識がわからない

小泉改革の方向については
その性急さはともかくとして
一定の理解はできるとは思っているが
しかし、この一件に関しては
まったく了承できるものではない。



2007.10.25

筆者の住む諏訪地方で
今年も工業系のイベント
「諏訪圏工業メッセ」が
行なわれた。

初年度が2002年の開催だから
かれこれ早いもので
もう6回目の開催となる。

内陸部というか
地方産業都市で行なう
工業系の展示会としてはたぶん最大規模のもので、
なおかつ
東京や大阪名古屋で行なわれる
全国の企業を出展対象にした
展示会を除けば

産業集積をまとめてアピールする展示会としては
たぶん国内随一だろうと思う。

というわけで
出展企業や大学や組織は
250あまり、ブース小間の数は
400を越えるし

来場者数も木金土曜日の三日間で
25000人を超える。



2007.10.26

やはりこれだけ繰り返しやっていると
知名度もそれなりにあがってきていて
全国から訪れる人も多くなったし
大手企業などから技術や製品を見るために
遠方からやってくるようになった。

いままではどちらかといえば
出展している企業の側は
ともかく展示してみようというのりだったが
最近は各企業も
展示のレベルもあがり
なにより自社の製品や
技術をビジネスにしていくのだという気迫と行動が
以前にくらべて異なる。

やはり継続して行なってきたことだからこそ
わかってくることだろうと思うし
意識の変化も生まれるのだろうと思う。



2007.10.29

たぶん一度や二度やったからといって
ここまでのレベルには容易には達しないと思う。

また、直接の話ではないが、
これだけ数をこなして知名度もあがってくると
直接的に工業に対する影響以外に
異なる産業に対する影響も出てくる。

さすがに仕事で見学にくる人は
日帰りが多いし
地元の展示企業もそのたびに
会社に戻るはずだが、
遠方からなんらかの目的があって来る人や
見学に来る人や
地元の人たちと
なんらかのつながりで
見学にくる人は
泊りがけの来訪も多く
ホテルなどが満室になっている状況も生まれたり
夜の繁華街に賑やかな声が響いていたりする。



2007.10.30

こういう状況をみているだけでも
工業系のメッセの副次的ではあるが
本来とは違った可能性を強く感じる。

ついでにいうと
実はこの場を使って地元の企業同士が
お互いの企業や技術を
相互に知るいい機会になっていることもある

あるいはまた
一年に一度の交流の機会になっていたりする。

考えてみると諏訪に限らず
どんな産業集積でも
同じ町の産業や企業が
具体的にどんな技術や製品や
レベルを持っているか、
あるいは企業経営者が
どんな顔をしていることさえ、
知らないことのほうが多い。



2007.10.31

3日間を
同じ場所にいて
自分の会社の技術や製品を
並べていることで
そこに訪れる地域の企業も多い。
3日間もいればなんらかの
触れあいもつながりも
生まれるだろうから
ここから
なんらかの連携や出会いが生まれる機会にも
なっているようだ。

こういうことは
たぶん東京ビックサイトなどで行なわれる
展示会などではたぶん
起こりえないことだろう。

地方、産業集積地域の中で
行なわれる工業系の展示会であればこそ
生まれた可能性ではないかと思える。


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