[column] コラム 36
[無限音階]
無 限 音 階 、タ イ ム ト ン ネ ル 、陰 陽 、鶴 と 亀 … の お 話 無 限 音 階 、タ イ ム ト ン ネ ル 、陰 陽 、鶴 と 亀 … の お 話 無 限 音 階 、タ イ ム ト ン ネ ル 、陰 陽 、鶴 と 亀 … の お 話 無 限 音 階 、タ イ ム ト ン ネ ル 、陰 陽 、鶴 と 亀 … の お 話 taikyokuzu



 「エコーズ」の終楽章を印象的に飾る人の声について、私は一般的な名称を知らないまま“無限音階”として著書に記した。インターネットでも“無限音階”で検索できるから一般的な名称なのだろう。それを「無限音階——上昇するように聞こえるが、実際はいつまでも変化しないという、まるでエッシャーの絵を音にしたようなもの」と記述したが、無限音階は下降するように聞こえるものも含む。このコラムではさらにそれを広範囲に展開してみることにした。

 無限音階は1964年にシェパード(R. N. Shepard)が考案したもので、ここをクリックするとそれを聞くことができる。かなり無機質で音楽には程遠いようだ。欧米では考案者の名から「シェパードトーン/Shepard-tone」と呼ばれたり、infinite scaleとか単にendlessly ascending/descending scale(永久に上昇・下降する音階)とかglissando tones(グリッサンド・トーン)と言われているらしい。

[IIIC Magical Space Band] 錯視と空耳のアナロジーでは錯覚全般と芸術作品の解説が詳しい。蛞蝓(MIDI音楽データ/MIDI実験室)でもシンプルなMIDIの上昇版下降版を提供している。

 無限音階を応用した作品として私が他に知っているのはコスモス・ファクトリー(1976年の『ブラックホール』)とイエロー・マジック・オーケストラ(1981年の『BGM』、未聴)だけだが、この二つはフロイドの影響下にあるのかもしれない。私は70年代にこの原理を解説したEPレコード『謎の無限音階(右図) を持っていたので、このコラムで紹介できればと思っていた。
 『謎の無限音階』は1978年発表、演奏はIIIC Magical Space Bandとなっているが、実質はYMOのプログラマー松武秀樹のソロらしい。4曲入りだったが、「ワープ航法Part1/2」は鳥肌が立つほどすばらしかった。シェパードもフロイドも上昇する無限音階だが、「ワープ航法Part2」は逆に下降する。上昇のものは限りなく浮上するが、下降のものは限りなく沈下していくのだ。

 その「ワープ航法Part1/2」に迫るものをウェブサイトwww.UBARTMAR.comで見つけたので、紹介したい。そのウバタマ氏の作った「むげんくん」も上昇と下降する無限音階がペアである。シェパードのものとは原理は同じだが、複雑かつ重厚で迫力も違う。「ワープ航法Part1/2」はさらに深遠で広大なスペースミュージックといっても過言ではなかった。
 無限音階を連想させるものが理髪店の入口にある白・赤・青の3色のサインポールだが、それをアニメに再現してみたので一番下に載せておく。また、www.UBARTMAR.comの解説ページに「タイムトンネルを抜けるような…」とあったのをヒントに、タイムトンネルのアニメも試作してみて、次のようにむげんくんとの2種類の共同作品としてみた。

●ウバタマ氏作のむげんくんと今井作のアニメーションの合作(クリックすると開く)
[timetunne view]
▲タイムトンネルで限りなく天空の彼方へ上昇したいなら……
timetunne-up view

▼タイムトンネルで限りなく奈落の彼方に下降したいなら……

timetunne-down view

※むげんくんは7分の作品だが、エンドレスに設定してあるので7分で一旦フェイドアウトした後にフェイドインする。ともにアニメは280k、音は6.4MBもあり、音を読込むに数分かかるかもしれないから、両方のウインドウを開いてしまうのがいいかも。むげんくんはwww.UBARTMAR.com提供のもので、昨年5月に使用許可をいただいたもののMP3の合計が12.8MBもあり、やっと別のサーバーに置くことができたのでこのコラムも完成となった。

timetunnel TV

 テレビで放送された「タイムトンネル」(右) は私の最も好きなテレビ番組だったものだが、数年前に久しぶりに見たら、タイムスリップするときの効果音が初期のピンク・フロイドにそっくりだった。時空を浮遊するとき、人はあのような音を意識に響かせるのだろう。
 ところで、上昇する無限音階と下降する無限音階を同時に鳴らしたらどうなるだろうか。上昇しつつ下降するのだから、数字的にはプラスマイナス・ゼロ、観念的には二元論を超えて一つになることになる。実際、上昇も下降もせず現状に留まって動かない(つまりアニメなら上の画像のような静止状態)だろう。これを“どっちにも動かない静止点”とみなすか、“上昇と下降の同時性”とみなすか——何も無いのか、すべてを含むのか。

 シェパードの考案は1964年で、「エコーズ」の制作は1971年だった。とかく初期のピンク・フロイドは単にR&Bのコピーのように語られるが、それよりも音響の様々なテクノロジーを貪欲に自分らのツールにしていった側面の方が重要なのだ。音の空間というキャンバスに絵を描くようにして、フェイドイン〜フェイドアウト、ステレオ感を駆使する感覚は十年先を行っていた。そもそもステレオ感は聴覚の錯覚を利用したものなのだが、そういった音響の可能性をまさぐっていた彼らが、誰より先にシェパードの聴覚の錯覚を利用した無限音階に注目するのは必然だろう。
 さらにフロイドは、そういったものを好奇心だけで採用して音の遊びで終らせないのがすごいのだ。無限音階の無機質な音を「エコーズ」の中では人間のコーラスに応用することで、有機的なものに変質させた。たまたま「エコーズ」にフィットするアイデアを発見したにすぎないとしたら、のちの『狂気』の成功はありえないだろう。音響の可能性をまさぐるということは、彼らにとって、無機質な音を有機的なヒトの感情に変質させるための手段なのだから。

 www.UBARTMAR.comには無限音階のとてもすばらしい解説ページ「Mugen-Kun解説」があるので、より専門的な説明はそちらをお薦めしたい。その一部のAKI氏の「宇宙を感じさせる音」に関する考察は「エコーズ」につながるのでここに引用する。

[column36_sub.gif]


AKI  

(1) 無限音階へのコメント
 最近友人の影響で、テクノ・ハウスのみならず、ジャズやオーケストラも含め、さまざまな音を楽しむ機会が多かった。しかし、「宇宙を感じさせる音」という部位において、ウバタマ氏に敵う人物は極めて少ないと改めて感じるものである。
 無限音階においては特に「Down」が私好みであるが、やはりそこには「宇宙空間にどこまでも吸い込まれていくような」感覚を覚えずにはいられない。バキバキのサイケトランスでも「海の底に潜っていくような」「空を浮遊しているような」感覚は得られ事があるが、やはり「宇宙に吸い込まれる」「重力の無い空間」を感じられる音の演出は氏ならではのものではあるまいか。

(2) 宇宙の定義について
 さて、「宇宙」の定義であるが、これが大変困難である。人体や、人間の理知で理解不能なもの、あるいはその真理も宇宙と呼ばれる事がある為だ。
 例えば日本人で人体を「小宇宙(ミクロ・コスモス)」と定義した人物は、江戸時代の朱子学・陰陽学に通じた林羅山であるが、彼は宇宙の本体としての原理を「理」とし、しかし、宇宙の質料(原料・素材)を「気」であるとした。いわゆる理気2元論である。「理」が「気」を生み出し、宇宙万物が成り立っているように、人間の「心」と「体」の関係もまた同義であり、しかるに人体も宇宙であると考えたのである。
 人間の行動や考え方を、宇宙と同様に「原理」と「原料(質料)」とに分けて捉える考え方は我々も日常行っている事であろう。「心」と「体」。「神」と「人間」あるいは「善」と「悪」。どちらが先か?どちらが原理か?それとも両者は2元ではなく、元々同一のもので1元と捉えた方が良いのではないか?
 古来よりさまざまな論争を生んできた論理であるが、しかしこの解明については学者先生達に続きを任せよう。

(3) まとめ
 しかし、ウバタマ先生の一生徒である私にとってみれば、「宇宙(物事の原理)」と「人間(その心・体→小宇宙)」を極めて1元論的に「融合」させてくれる音こそ、無限音階ではないのか、と考えるに至るのである。宇宙の原理を感じたい方に是非お勧めしたい無限音階である。

(www.UBARTMAR.comより)

taikyokuzu

 おなじみの太極図(左図右側)は易経の象徴図形で、分裂・対立する反対の極を一次元で統合する形である。白の「陽」と黒の「陰」が巴形に絡みあい、「陽」は白く明るく天に昇る力であり、「陰」は暗く濁って深く沈む力だという。
 そのような全体性を象徴するために、なぜ左側のように陰陽を左右に二分した図形にしなかったのだろうか。それは、左側の形に陰と陽が互いに互いを包み吸収しようとする流動をも加えたものが右側の図形だからだ。二元論の世界は一つに統合しようとして、そんな太極図の渦を生みだすのだろう。
[echoes timetable]  巴形の「陽」が天に昇る力で、「陰」が深く沈む力だとすれば、無限音階の上昇と下降はAKI氏の言うように、そんな宇宙の全体性への目くるめく聴覚体験ということができる。
 「エコーズ」には上昇音階しか使われていないが、前半は潜り沈む「陰」への動き、後半は浮かび昇る「陽」への動きだと解釈できるだろう。そして、私が『幻燈の中の迷宮』で「沈潜から浮游へ」として作成した「エコーズ」の円形タイムテープルこそ、太極図の形をなしているではないか。

 陰陽は中国のものだが、日本の場合はおもしろいことに、鶴と亀がこれに符合する。鶴と亀がペアで太極図の形になるわけではないが、次の説明でそれぞれ象徴する概念が一致することがわかる。そして、この説明の鶴と亀が「エコーズ」の信天翁(アホウドリ)と珊瑚の洞窟に置き換えられると、「エコーズ」の歌詞がより壮大な叙事詩のイメージを伝えるだろう。

鶴は軽々と翔びたって「天空」を舞い、そのからだは白く輝く。亀は黒く重くよどんで「大地」や「海」に潜ってゆく。天空を自由に飛翔する白い鳥と、地上、あるいは水中に黒くよどむ亀が一対をなす。

(杉浦康平「かたち誕生」日本放送出版協会より)




おまけ 理髪店のサインポール試作(高さたった183pixのものを連結しているが、1つのアニメは32kしかない)

[Infinite spiral]
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Special thanks: www.UBARTMAR.com



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