●特集 印刷の今●入 門 編〈2〉

前回の続編です。まずは、やはり『奪取』(真保裕一著・講談社発行)から、じじいこと水田鉱一のレクチャーの続きをどうぞ。

真保裕一著『奪 取』(講談社発行)「第二部 保坂仁史篇」
「いいかね、仁史君。今説明した、凸版、 凹版、平版のすべての印刷方式がこの一枚の中にくまなく使われている。──まず表。この肖像画と額面文字、それに周囲の唐草模様が凹版二色、印章 と紙幣番号が凸版二色、それ以外の地模様が平版六色」くるりと札を裏に引っくり返した。「裏のほうは、キジと文字が凹版一色、印章が凸版一色。地模様が平版三色。しかも、すべて一色ごとに原版を作っているので、いくらルーペで見たところで、アミやセルは一つもない。その分、一本一本の線がくっきりと綺麗に印刷されてるって寸法だ」本当だ。ルーペで本物の紙幣をとくとながめてみても、試し刷りしたチラシのようなアミ点の集まりは見られない。
──と、物語はこのあと紙幣印刷についてさらに専門的な知識の披瀝が続きます。興味のある方は個人的にご講読いただくとして、当DENSAN MONTHLYのレクチャーは、孔版を含めた四版式に関するまとめへと移らせていただきます。
(お手元に一万円札のある幸せな方は、それを参照すると分かりやすいでしょう。)

枠囲み以外は平版6色印刷
白枠部分凹版2色印刷
青枠部分凸版2色印刷
●凸版印刷
特徴●活字組版(活版)に代表される、最も古い印刷方式です。平面性の悪い段ボールや紙袋にも印刷でき(フレキソ印刷)、印刷濃度も高く、仕上がりは力強くなります。ただしカラー印刷はアート紙に限られます。 版式の原理●画像部(インキが付くところ)が凸状、非画像部(インキが付かないところ)が凹状になっていて、印刷時は凸部にインキが付着し、印刷される仕組みです。印刷機の原理●圧力を加えて版から直接紙などにインキを転写して印刷します。濃淡の表現と識別●印圧により、凸部に付いたインキは押し出されて、凸部の周囲のインキの被膜が厚くなります。したがって、中心部はインキ被膜が薄く、濃度は淡くなります。マージナルゾーンと呼ばれるこの周辺の濃い部分は、凸版印刷の文字の輪郭が鮮明な理由ともなっています。
●平版印刷
特徴●アルミニウム合金の薄板に感脂性の感光層を塗布したPS 版のほか、「マスターペーパー」や「水なし平版」といった種類も普及しています。印刷速度が早く、大部数・多色物に経済性があり、紙質を選ばず、修正も比較的容易ですが、仕上がりは凸版印刷に比べてやや力強さに欠けます。 版式の原理●水と油の反発現象を利用した印刷方式です。画像部と非画像部が同一平面にあり、版全体に水を付けると、非画像部に水が付着し、画像部は水をはじきます。この後、版面にインキを付けると、非画像部は水のためインキをはじき、画像部のみにインキが付着します。印刷機の原理●平版印刷は、主としてオフセット印刷機で刷られます。版から一度ブランケットにインキを転写し、そのインキが次に被印刷体に転写されます。濃淡の表現と識別●印刷物の濃淡は網点の大小で表現され、インキの膜厚は網点の大きさに関係なく均一です。
●凹版印刷
特徴●グラビア印刷に代表される印刷方式で、凹部の深浅によって、階調や濃淡などの細かい調子がよく表現できるので、カラー写真の再現などに適しています。ただし刷版材料が高価なため製版料金が割高となります。 版式の原理●画像部が凹状になっていて、印刷時には凹部に入ったインキが印刷される仕組みです。 印刷機の原理●版面全体にインキを付け、非画像部のインキをドクターと呼ばれる器具で掻き取り、凹部に詰まったインキを強い圧力で被印刷体に転写して印刷します。 濃淡の表現と識別●くぼみの浅い・深いによって、転移されたインキの膜厚が違い、その結果印刷物上ではインキの濃淡となって現れます。各網点の大きさは均一です。
●孔版印刷
特徴●謄写版が廃れた現在ではスクリーン印刷が一般的です。曲面への印刷、プラスチックやガラスなど幅広い素材への印刷が可能ですが、印刷速度は遅いです。 版式の原理●材料に天然・化学繊維を含むスクリーン(紗)を使用し、インキを通過させる部分とさせない部分を作り印刷します。 印刷機の原理●版の下に被印刷体を置き、スクリーン枠の内側の一端にインキをのせ、スキージを往復させて、インキをスクリーンの下に押し出し印刷します。 濃淡の表現と識別●インキの性質が他の版式と異なり、印刷物上でインキの膜が厚く盛り上がったようになっています。
以上、版式の違いによる印刷の4方式を説明してきましたが、最近ではこれらに分類されない印刷の方式も登場しています。「無圧方式」あるいは「無版方式」と呼ばれる印刷です。 通常の印刷は、被印刷体に対して版のインキを押しつけて転写させる加圧方式ですが、無圧方式では被印刷体にまったく圧を加えずに印刷を行います。版は形として存在せず、コンピュータなどに保存されているデータが版となります。 パソコンに付属するプリンタ類もこの範疇に入りますが、ここでは参考までに高速に複数の印刷物を作る印刷機をご紹介します。(実際には各種プリンタの高速化により印刷機とプリンタとの境は存在しなくなってきています。)
●〔電子写真式印刷機〕
OPC(有機光導電体)などが高圧放電により静電気を帯電する性質を利用した印刷で、インキの代わりに粉体または液体のトナーなどが使われます。原理は一般のコピー機と同じで、DTPのデータから直接印刷できる「オンデマンド印刷」の方式として最も適しているとされています。
●〔インキジェット式印刷機〕
パソコンのプリンタによく見られる、微細なノズルの先端からインキの滴を高速に電気的に吹き出させ紙に転写させる方式です。フォーム印刷機などに付属し、主に製造月日などの追い刷り用、ダイレクトメールの宛て名などの補助的な役割を果たします。
●〔イオノグラフィ〕
高圧のコロナ放電によって発生するコロナイオンを利用した方式で、やはりトナーを使用します。まだ広く使われている技術ではありませんが、将来はデジタル校正(DDCP)などでの利用が考えられています。
●〔マグネトグラフィ〕
主に黒色単色用の印刷方式で、磁気ヘッドからのデータを磁気ドラム上に書き込み、そこに磁性トナーを付着させた後、紙などに転写・定着させる方法です。

 
●主な印刷用途
版形式 版形式 版形式
凸版 活字組版
感光性樹脂(凸版)
金属凸版
フレキソ版
●名刺・はがきなど ●端物印刷 ●文字・線画を中心とした書籍・雑誌 ●紙器 ●シール・ラベル ●段ボール印刷 ●型押し ●箔押し ●伝票類
平版 平版用
PS版多層版
コロタイプ版
水無し平版
●ポスター・カタログ・パンフレットなどの商業印刷物 ●雑誌・書籍 ●高級美術印刷 ●化粧紙器 ●バーコード・OCR 印刷 ●連続伝票 ●金属印刷(化粧缶・飲料缶)
凹版 彫刻凹版
グラビア印刷
●有価証券・紙幣 ●グラフ雑誌 ●包装材の印刷 ●壁紙 ●布地 ●床材 ●プリント合板
孔版 スクリーン版
金属クリーン版
ロータリースクリーン版
●布地 ●包装材の印刷 ●ガラス印刷 ●プリント基板 ●液晶印刷 ●点字印刷 ●プラスチック成型品・シート ●ステッカー・ラベル