TPP参加を巡る問題について(2011.11.19)

 11月25日、12月5日付け長野経済新聞に掲載予定の標記タイトルの拙文を以下に示す。一部に、別拙文「TPP参加表明決着の土壇場に当って」と重複している部分があることを予めお断りしておく。

 

 野田佳彦首相は1110日午後、「党の『慎重に』という提言を重く受け止めた」として、TPPの交渉参加の表明を見送り、翌11日に改めて政府・民主三役会議を開き、交渉参加の是非について方針を決めるとした。

 野田首相はアメリカに従うことが自分の存命への最大の保証だと認識しているから、この1日だけの見送りは、「党の提言を重く受け止めた」という姿勢を示す単なるジェスチャーに過ぎない茶番劇であろうと、当日拙ホームページで指摘した。結果はその通りであった。11日午後8時からの記者会見で、「交渉参加に向けて、関係国との協議に入る」という表現で、TPPへの交渉に参加する方針を表明した。やはり野田首相の「正心誠意」はまやかしである。

 

 この野田首相の発言を受けて、山田正彦前農相と原口一博元総務相は “ホッとした。交渉参加ではなく事前協議にとどまってくれた”(山田氏)、原口氏“私たちの意図する通り。総理は結論を出していない。そのこと自体が答えだ”(原口氏)と発言している。

 実は、山田氏らの行動は最初から腰が引けていて、いずれ馬脚が現れると一部で見られていた。そのことが実証されたわけである。朝日新聞の記事の中にも、関係者はこのような「落としどころ」を探っていたとある。つまり民主党の反対派議員は反対のポーズを採っているだけで、国民のため体を張って頑張る意思はまったくないのである。おそらくこうした「落としどころ」について入れ知恵をしたのは、財務官僚であろう。1118日の朝日新聞の記事に、“首相の反対派への配慮を優先させた今回の対応に、財務省幹部は「首相がひよってしまった。消費税でも繰返されたら、たまったものではない」と漏らした。”とある。いかにも野田首相が財務省を無視したかのように財務省幹部が記者に漏らすところが、逆に胡散臭い。野田首相のこれまでの挙動を見ていれば、財務官僚に逆らってまで「決断」することはとても考えられない。しかも「交渉参加に向けて、関係国との協議に入る」という表現では、実質的には決して首相はひよっていない。

 

 野田首相はハワイで1112(現地)に日米首脳会談をオバマ大統領と行った。その中でのTPPに関する発言を巡って日米間の認識に隔たりがあり、問題になっている。これは明らかに野田首相が日本向けと米国向けで、発言を使い分けていることを物語っている。ここにも野田首相の狡さがはっきりと現れている。

 

 TPP参加問題についての、特に中央のマスコミの姿勢も常軌を逸している。仮に参加すべきだという主張がある(本当は自分たちの利権を守ろうとしているだけであるが)にしても、後述するような多くの問題点にまともに反論しないばかりか、世論を2分する状況への配慮をまったく欠いているのは、正にマスコミの自殺行為である。

 中央のマスコミはTPP参加問題に限らず、増税問題についても財務省の代弁を臆面もなく行っている。デフレ時に増税して成功した例は世界にも日本にもなく、逆に失敗した例だけしかない。こうしたことを国民に知らそうとしていない。

 そもそも国会で意思表明をしないし、議論もしてもいないのに、外国で増税の意思表明をして国際公約を政府がするという、非民主的な独裁行為を何故マスコミは問題にしないのか。それどころか新聞には軽減税率を適用するように裏取引を行って、国民に増税を煽っている。既得権益を守ろうとする魂胆が見え見えである。国民は真実を知って、立ち上がらなくてはならない。

 

 改めてTPPの問題点を以下指摘しておく。
 菅前首相が日本はTPPに参加して第三の開国をしなければいけないと、昨年唐突に言い出した。確かに一部の農産物の関税率は高いものの、世界的に見れば日本の平均関税率は低いほう(
日本の平均関税率はEUや米国よりも低い)で、既に開国されている。このようにそもそも出発点が間違っている。

 TPPに参加すると、現在でも40%と低い食料自給率(カロリーベース)13%に低下すると言われている。これは日本国の独立をも左右する深刻な問題である。外国が意図的に農産物輸出を利用して日本をコントロールするリスクがある。また予想される世界的な食料危機にまったく対処できなくなる。このことを国民は自覚して対応しなければならない。もちろん関税や補助金による保護、農作物の価格保証などによる国の農業政策を抜本的に見直す必要がある。ただし日本の農業保護の水準はアメリカと同程度、EU3分の1程度である。

 

 TPP参加によって農産物や工業生産物の貿易だけが影響を受けるのではない。TPPは参加国の経済制度や仕組みの変更を強制している。公的医療保険制度に根本的な変更(米国保険業界の意向)が強いられる。郵貯・簡保の資産を無差別開放させられ、日本国民の資産が外国、特に米国に吸い取られる。会計士、税理士、弁護士などの事業についても、米国の資格取得者の日本での活動容認を目指している。残留農薬の制限、農薬使用基準、遺伝子組み換え作物の表示義務、排ガス規制などを米国の基準に合わすことを求めている。建設事業への参入も対象にしていて、特に地方の建設業界は壊滅的な影響を受ける。現在、日本では地方での公共事業は、地方の建設会社を優遇するという法律があるが、これは撤廃を余儀なくされる。そうすると10万単位の建設会社は潰れると言われている。また受発注書類の英文義務化も懸念されている。もしそうなれば日本文化の直接的な侵害である。

 

 さらに「外国法人が不利益を被った場合に、外国法人はその規制撤廃を求めて訴えることができる」というISD(Investor State Dispute「投資家対国家間の紛争」の略)条項(外資が損害を被ったと判断した時、相手国を提訴できるという条項)押し付けられ、日本が不服を申し立てる手段もない。例えば日本の国民皆保険制度が「米国の保険会社の利益を損ねる非関税障壁だ」と言ってその撤廃を求めたとする。これに日本政府が応じなければ、米国企業はISD条項に基づいて日本政府を訴えることができる。これを裁くのは世界銀行傘下の国際投資紛争仲裁センターで、日本はここに上訴することは許されていない。訴えが認められる(その可能性が極めて高い)と、日本国政府は莫大な賠償金を支払わなくてはならなくなる。実際にカナダがその犠牲になっているし、米韓FTAでも韓国はこの条項を米国に呑まされている。このような治外法権を米国は平然と諸外国に強いている。

 野田首相は1110日の参議院予算委員会での佐藤ゆかり議員の質問に対して、ISD条項を「寡聞にして詳しく知らなかった」と答えている。このISD条項は日本の主権を侵すと以前から指摘されている重要なことである。それを首相として知らないで、TPP参加を推し進めようとしているのである。本気でTPPついて考えていないことがばれたのである。呆れるだけでは済まされない。つまりこのことだけからでも内容を知らないで、米国のご機嫌取りだけに走っていることが明白になった。首相失格である。

 

 TPPに参加すると日本の制度の根幹が揺さぶられる。米国の狙いは日本の属国化である。米韓FTAでも韓国属国化が明らかになっている。そのため韓国内に反対の声が高まり、批准の手続きに難航した挙句に、異常な強行採決に追い込まれている。米国のオバマ大統領は失業率が高くて、支持率が下がっているので、「2014年までに輸出を2倍にする」と公言し、日本のTPP参加に期待している。つまりある意味当然であるが、オバマ大統領は米国の国益を考えている。逆に日本はそのために犠牲になるということになる。日本は自分の国益を最優先に考えなくてはならない。

 最後に、TPP参加は深刻なデフレと大震災・原発事故という状況下にある日本へ深刻な影響を及ぼすことを指摘しておきたい。

 

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