再び建物の耐震強度不足問題について(2007.2.21,3.5)

 1月25日の信濃毎日新聞の夕刊は、「京都のホテル強度偽装」という見出しのトップ記事で、“ 京都市 は二十五日、「アパヴィラホテル京都駅南」と「アパホテル京都駅堀川通」の使用禁止を勧告した。…二つのホテルは、いずれも耐震強度の最も低い部分が基準の71%と79%で、改修工事が必要とされる。”と報じた。
 これから8日後の2月8日の同新聞の朝刊は、「県庁と7合同庁舎 耐震強度、大幅に不足 長野合庁最低の0.12 県、早期改修へ」という見出しのトップ記事を報じた。3面で、“県公表に後ろ向き”と批判している。
 京都のホテルでは使用禁止となり、それよりも強度不足率が高い長野県の庁舎は公表姿勢が後ろ向きだとするだけで、僅か8日前に報道したケースでの関係者の対応との極端な相違については何も触れていない。どうしてだろう。読者の当然の疑問に答える記事を載せる義務があるのではなかろうか。
 筆者は一昨年耐震強度偽造が発覚した時に、拙文「耐震強度偽造建物問題に思う」を発表し、その中で次の【 】内のような指摘をした。

【今回の問題は一部で既に指摘されているように、現在の基準以前に設計して造られ、補強などの対策が採られていない、既存不適格な建物が圧倒的多数ある(全体の25%にあたる約千百五十万戸も存在すると推計されている)という、深刻な問題を提起している。その観点からすると、今回のケースだけを殊更に取上げて、すぐにも倒壊するから、「住めない、営業を中止する」という反応は、直接関係される住民や営業者のお気持ちは分かるものの、お叱りを受けることを覚悟で敢えて言わせてもらうと、些か過剰だと思う。つまり既存不適格な建物を含めて考えると、「住めない、営業を中止する」建物は、大変な数に上り、一種の社会パニックを起こす危険性がある。この際、このような既存不適格な建物を含めた、早急な対策を国民的な課題として、冷静にある程度時間を掛けて取り組まなければならない。その場合、構造的に強度のより低い建物を優先させるだけではなく、大地震発生の可能性の高い地域を優先させて、対策を講じるというような、現実的な対応をする必要があるように思う。ただし極端に安全度の低いケース(大地震発生の可能性とも絡めて)は、既存不適格な建物を含めて早急に「退去、営業中止」などの対処が必要なことは言うまでもない。】

 今回のように、対応に極端な差が生じる原因は、既存不適格な建物を含めた耐震強度不足建物にどう対応するかの総合的な議論がなされていないところにある。その際に意図的で悪質なものを罰するために、使用を禁止するのは邪道であるという視点が必要である。罰は罰として別に課すべきである。
 なお、この議論をする際に、拙文「建築基準法の耐震構造計算規程の欠陥について」で指摘したような面倒な問題がある。それは採用する耐震構造計算法によって、「強度不足」とされたり、「安全」とされたりするということである。この大問題も絡めて、耐震強度不足問題への抜本的な対応基準の作成に官民一体となって取り組んでもらいたい。
 差し当たり 長野県 庁舎については、大地震の切迫度の高い地域の強度不足率の大きい庁舎を優先に改修するという、長野県の方針が現実的で妥当な対応であろう。なお、大地震の切迫度の高い地域とは、例えば午伏寺断層沿いの地域で、長野市は今後数百年間大地震は起きないと考えられるので、取敢えず対象から除いてよいと筆者は考えている。

補足 若干のコメント2007.3.5
 今年の7月5、6日に、「安全工学シンポジウム2007」が開催される。そこで、建物の耐震強度不足問題について、関連するこれまでの拙文に、若干加筆して発表する予定である。以下に加筆部分の概要を示す。

1)設計法について
 4種類もある設計法間の整合性を図る、もしくは単一化する機会を捉えて、規程を整理し、単純化すべきである。筆者は以前から、土木関係の諸基準設定に当り、実務を知らない者(特に大学の先生や官僚)が主導権を発揮して、通常の技術者では理解できない、しかも不必要な手法や項目が盛り込まれている弊害を指摘している。
 設計者の創造性を発揮させるために、性能設計規程に徹するべきだという意見がある。そもそも性能規定導入がアメリカの要請によるものだということが、関岡英之氏によって暴露された(拙文「関岡英之著『拒否できない日本−アメリカの日本改造が進んでいる−』について」参照)ように、動機が不純である。さらに、性能,例えば,ある水準の耐震性能の数値目標を達成できるための確かな知見が得られていない。また設計者の創造性の良否を簡単に結果で判定できないことが多い。そこで取敢えずの目安としての手段や仕様を規定せざるを得ない。性能設計は理念としてはよいものであるが、実際が伴っていない。なお、複数の計算法が採用されたのは、性能規定を受け入れたからだという指摘が一部にあるようである。しかし、以前から複数あったし、建築基準法の耐震設計法は必ずしも性能規定ではない。基本的には、研究段階の手法を安易に取り入れようとしたことによっている。

2)既存不適格な建物を含めた耐震強度不足建物への対処の問題
 同じ人命に関わることが、一方では法的にできるから使用禁止とし、他方では法的にできないから当面放置するという、極端にアンバランスな扱いをするのは、ご都合主義に過ぎる。
 現行の建築基準法では、採用する耐震構造計算法によって、強度判定値が異なると指摘したが、既存建物の耐震診断基準はまた別なものであるから、同一の鉄筋コンクリート造建物でも、合計5〜7(耐震診断基準には3方法が規定されていて、設計法の4に加えると7となる)種類の耐震強度判定値が計算できることになるのは、どう考えても不合理である。長野県の発表した耐震指標は2番目の方法によるもので、1ないし3番目の方法によると、耐震指標値はもっと低くなる可能性もある。

3総括
 耐震強度不足問題は現在の日本社会の共通の病根―建前と本音の乖離、制度疲労、責任回避、安易な法律運用による本質的矛盾の放置、不必要な規定による混乱、設計・施工の実際と基準類の乖離、内容の理解不足のままのコンピュータ利用の弊害、天下り先の開発など―を浮彫りにしているように思う。

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