小沢一郎民主党代表の辞任表明に関連して(2009.5.12,13,19,6.19)

 昨5月11日に、小沢一郎民主党代表は記者会見をして辞任を表明した。既に筆者は拙文「民主党小沢代表の公設秘書の政治資金規正法違反事件について」で述べたように、この辞任は小沢氏の既定の方針であったのである。このように予見した最大の理由は、小沢氏は総理もしくは表面的なリーダーになる最大の資質である他人を説得・納得させる能力を欠いていて、それを行う意志力・気力もなく(自分の考えを理解しないのは相手が悪いという、不遜な人間不信が根底にある)、むしろ裏で総理やリーダーを操ることに生きがいを感じているという、彼の人間性にある。このことは、本来深刻さが漂うべきである辞任会見が終始笑顔で、さばさばとした、ある種の満足感さえ漂わせていたことからも伺える。つまり、やっと本来の裏方の策士に戻れるという安堵感が読み取れるのである。多くの小沢支持・擁護論者は、ここのところを見誤っている。

 今回の小沢氏の第一秘書の起訴に関する検察の姿勢に問題はあるが、検察批判者から最大の問題点として、政治資金規正法は献金者の名前を記載することだけを求めているのであるから、仮に献金の出所が西松建設であっても、第一秘書が虚偽記載したという罪には当らないということが挙げられている。そうだとすれば、第一秘書逮捕後の最初の小沢氏の記者会見で、西松建設からの献金だと知っていたが、「虚偽記載に当らない」と堂々と説明していたら、マスコミの報道や国民の受け取り方も異なり、展開は違っていたであろう。ところが、「どこからの献金とは詮索しない」という、あからさまな嘘説明に、多くの国民は小沢氏の本質を見抜いてしまったのである。こうしたところに、他人を説得し、納得させる能力の欠如が露呈している(そのような助言をする人を寄せ付けないという欠陥を含めて)。

 検察批判が嵩じて、小沢氏を買い被る風潮も出てきていたが、これもどうかと思う。ジャーナリスト・高野孟氏は週刊朝日の寄稿文などで、“小沢が言うところの「明治百年の官僚体制を打破する革命的改革」への道を切り開く”と小沢氏に期待している。しかし、小沢氏の著書が官僚の応援でできていたことや、自民党時代に官僚に頼っていたのは周知の事実である。しかも高野氏自身が認めているように、小沢氏は旧体質を持つ上に、政策より政局を重んじる傾向があるのに、「明治百年の官僚体打破する革命的改革」を期待するとするのは如何かと思う。高野氏の見識を疑う。

 さて、検察がリーク情報を流すことについては、拙文「民主党小沢代表の公設秘書の政治資金規正法違反事件についてで触れているが、当事者からはそのことについて、これまで説明されたことはなかった。ところが、民主党が設置した政治資金問題を巡る政治・検察・報道のあり方に関する第三者委員会と元最高検察庁検事の堀田力氏との意見交換会での同氏と元東京地検検事郷原信郎氏の遣り取りから、検察がリーク情報を流すことが十分あり得ることを結果的に認めている。ただし、この第三者委員会が載せている文字記録には欠落している部分がある。この点に関する両氏の発言の要点を次に示す。
堀田氏
 検察の組織としてリークはしないように強く戒めている。しかし個人としてやったとしても、確かめようがない。郷原さんは現職時代にそのようなことがあるということで、出世できなかったという噂がある。ただし、捜査の進展に阻害を生じないように、若干の情報をマスコミ関係者に情報を流すことはある。
郷原氏
 そんな噂は初めて聞いた。自分は絶対にリークなどしていない。むしろ、自分の担当した長崎の事件では、最高検に報告してから情報が漏れた。なお、堀田さんの言われた、捜査の進展に阻害を生じないように、若干の情報をマスコミ関係者に流すことはあった。
 

補足1 小沢氏と検察の説明責任について(2009.5.13)
 多くのコメンテータ・有識者が、小沢氏が説明責任を果たしていないと指摘している主な点は、何故多額のお金が必要で、何に
使われているのか何故特定の企業から多額の献金を受けられるのかということのようである。しかし、筆者は多くの国民が感じている、小沢氏の最大の説明責任不履行は、上記した「どこからの献金とは詮索しない」という、あからさまな嘘発言が説明になっていないというところにあったように思う。つまりこの嘘で国民は小沢氏に胡散臭さを感じ取ってしまったのである。仮に検察の恣意捜査(現段階ではその疑いがあるものの、後日その疑いはなくなる可能性はあると思うが)と、それに基づくマスコミの報道があったにしても、このイメージダウンが、代表を辞任すべしという大勢の世論となった主因であることに、本人や関係者と小沢擁護者、さらに小沢批判者の多くさえも気付いていないように思う(ただし、日本大学教授岩井奉信氏は民主党の第三者委員会で、小沢氏が“どこからの献金か詮索しないと確認義務を否定したのが最大の問題である”と指摘している)
 検察の説明責任が不十分であることについては、
拙文「民主党小沢代表の公設秘書の政治資金規正法違反事件についてで述べたが、それに関連して補足をする。本5月13日付けの朝日新聞のオピニオン欄に、評論家、ジャーナリスト・立花隆氏が、「世界」6月号掲載の「特捜幻想」(笹川伸一郎)にある、次の《 》内の情報を紹介している。
《逮捕された大久保隆規秘書がゼネコン各社の担当者に、「工事がほしいなら小沢事務所に献金してほしい。そうでなければ工事をやらせない」と話していたという。》
 これの事実証拠を検察が掴み、虚偽記載の根拠になると検察が判断しているのであれば、検察が行っている“看過しえない重大かつ悪質な事案だ”という一般論的な説明ではなく、類似の案件とは違って、虚偽記載を裏付ける証拠を掴んだから、逮捕、起訴したと説明すべきであった。そうでなければ、一方で非公式なリークをし、他方で公式には説得力を欠く一般論に留めていては、検察の恣意捜査ではないかという疑念が蔓延するであろう。無用な混乱を避けるために、やはり検察の適切な説明責任の履行は欠かせない。

補足2 突如「豪腕小沢」が復活(2009.5.13)
 
本5月13日付けの朝日新聞の一面に『突如「豪腕小沢」が復活』というタイトルの記事が載った。その冒頭の部分を次の〈 〉内に示す。

「3年間、ふつつかな私にご協力、ご支援いただき心から感謝を申し上げる」
 12日午前の民主党役員会・常任幹事会。小沢氏がしおらしかったのは、辞任あいさつぐらいだった。
 代表職の重圧から解き放たれたのだろうか。「剛腕小沢」が突如、復活した。
 複数の出席者によると、小沢氏は4人の役員をにらみつけた。一人ひとり指さし、こうまくし立てたという。
 「福山、長妻、安住、野田、この4人組。お前らいっつも反対反対と。最後くらい言うことを聞け。
 視線の先には野田佳彦広報委員長、安住淳国対委員長代理、福山哲郎・長妻昭両政調会長代理がいた。鳩山由紀夫幹事長が提案した16日の両院議員総会での新代表選出案に異論を唱えた面々。いずれも小沢氏と距離を置く議員だ。…

 やはり、小沢氏の本性が露骨な形で表れている。自分自身が変わらなければならないと言っていたが、無理だったのである。人間の本性はそう簡単に変わるものではない。代表辞任は小沢氏にとって敗北ではなく、裏方の策士という本性に返れて、やる気は満々なのである。
 同じ朝日新聞の4面の記事では、民主党のある“ベテラン幹部は「辞める小沢さんがこうやって出過ぎるのはよくない。これでは小沢続投のほうがまだよかった」と吐き捨てた”とあるが、このベテラン幹部は小沢氏の本性をまるで分かっていない。もっとも、この記事を載せた朝日新聞も、“代表職の重圧から解き放たれたのだろうか。「剛腕小沢」が突如、復活した”などと驚いていて、予想された事態だと捉えられないとう甘さがあるが。
 なお反対を押し切って強引に進めるという点では「剛腕」だが、これは反対意見を理解しようとせず、反対者をすぐ敵と見做す(その結果多くの側近が去っている)という、実は小心で幼児的・やんちゃ坊主的な性格がそうさせているのである。筆者にもかつてまったく同じ性格の上司がいて、身に沁みてその弊害を経験している。このようなことについては以前にも書いたことがあるが、こんな人物に期待するのは間違っていると訴えざるを得ない。

補足3 ジャーナリスト・上杉隆氏の頓珍漢(2009.5.19)
 本5月19日発売の週刊朝日5/29号に、ジャーナリスト・上杉隆氏の『「親小沢」「反小沢」で見るメディアの過ち』という記事が載っている。その中に、次の【 】内のような記述がある。

【辞めたはずの小沢が、辞任会見翌日の役員会の席上、代表選の日程設定に強引に関与し、影響力が残存しているように見せた。これによって、鳩山に禅譲したい小沢が、党内の空気が変わる前に代表選を済ませ、鳩山体制を誕生させてしまおうとした、という批判を許すことになった。メディア戦略上の失敗である。】

 小沢氏の役員会の発言(上記補足2参照)が、“メディア戦略上の失敗である”とあるが、既述したように、小沢氏の人間性の発露によるもので、メディア戦略などを考える余裕は小沢氏の頭の中にはまったくなかったのである。頓珍漢な指摘である。以前拙文「上杉隆著「官邸崩壊」について」で、《所詮「事件」、「政局」にしか目を向けられないジャーナリストとしての“視点”》、《元々ことの本質を捉えて考察する姿勢に欠けている》と指摘した。やはり今回も同じ指摘をせざるを得ない。

 同誌の総力取材記事『小沢「私党」になった民主党』の中に、次の【 】内のような記述がある。

(民主党の:筆者注)幹部の一人からこんな証言も飛び出した。「実は、最初に鳩山幹事長を中心に幹事長室がまとめたのは5月16、17日と土、日をテレビジャックして、18日に投開票を行うという日程案でした。ところが、それを小沢氏に示したら、一喝されて16日の土曜日投開票になったんです」】

 正に、小沢流のごり押しであり、それを周囲も飲んでしまっている。やはり上杉氏の言う“メディア戦略”など、小沢氏の頭の中にはないことが、この記事で明白である。幼児的・やんちゃ坊主的な性格に、周囲もコントロールが効かないのである。鳩山新代表は小沢氏の傀儡にはならないと言っているが、かつて武村正義氏を切り捨てた「排除の論理」(?)のような毅然とした態度で小沢氏を切らない限り、所詮無理である。それができれば、来る衆議院選挙での民主党の大勝は間違いないであろう。
 なお、小沢氏は自分の信念で正しいことをやろうとしているのだから、ある程度の強引さは許すとする方もおられるであろう。実は、この考え方が極めて危険なのである。この“信念で正しいこと”と思ったことが、とんでもないことだったと気付いた時には、遅いということは、世の中には幾らでもある。近くは小泉改革の欺瞞である。真の民主主義においては、反対を強引に封じ込めることを絶対に避けなければならない。むしろ強引にやることは正しいことではないと思っているべきである。
 

追加 長野経済新聞掲載拙文(2009.6.19)
 
上記本稿を若干整理、修正した拙文「小沢一郎民主党元代表の辞任に関連して」が、6月5、15日付けの長野経済新聞に掲載された。参考までに次の〔 〕に示す。

〔5月11日に、小沢一郎民主党代表は記者会見をして辞任を表明した。既に筆者は本紙4月5日号掲載の拙文「民主党小沢代表の秘書の起訴に関連して」で述べたように、この辞任は小沢氏の既定の方針であったのである。このように予見した最大の理由は、彼の人間性にある。
 小沢氏は総理もしくは表面的なリーダーになる最大の資質である、他人を説得・納得させる能力を欠いている。自分の考えを理解しないのは相手が悪いという、不遜な人間不信が根底にある。むしろ総理やリーダーを操ることに生き甲斐を感じている。
 このことは、本来深刻さが漂うべきである辞任会見が終始笑顔でなされ、さばさばとした、ある種の満足感さえ感じさせていたことからも伺える。つまり、やっと本来の我侭な策士に戻れるという安堵感が読み取れるのである。多くの小沢支持・擁護者は、ここのところを見誤っている。

 政治資金規正法は献金者の名前を記載することだけを求めているのであるから、仮に献金の出所が西松建設であっても、第一秘書が虚偽記載したという罪には当らないと、検察批判者から指摘されている。そうだとすれば、第一秘書逮捕直後の小沢氏の記者会見で、西松建設からの献金だと知っていたが、「虚偽記載に当らない」と堂々と説明すべきであった。そうしていたら、マスコミの報道や国民の受け取り方も異なり、展開は違っていたであろう。ところが、「どこからの献金とは詮索しない」という、あからさまな嘘の説明に、多くの国民は小沢氏に不信感を抱いてしまったのである。こうしたところに、他人を説得し、納得させる能力の欠如が露呈している。またこのような助言をする人を寄せ付けないという性格にも問題がある。

 多くのコメンテータ・有識者が、小沢氏が説明責任を果たしていないと指摘している。説明不足とされる主な点は、何故多額のお金が必要で、何に使われているのか、何故特定の企業から多額の献金を受けられるのかということのようである。しかし、筆者は多くの国民が感じている、小沢氏の最大の説明責任不履行は、「どこからの献金とは詮索しない」という点にあったように思う。これが代表を辞任すべしという大勢の世論となった主因であった。このことに本人や関係者、小沢擁護者、さらに小沢批判者の多くさえも気付いていないように思う。

 検察がリーク情報を流すことについては、前記拙文で触れた。当事者ないし関係者からはこのことについて、これまで説明されたことはなかった。ところが、民主党が設置した「政治資金問題を巡る政治・検察・報道のあり方に関する第三者委員会」での元最高検察庁検事堀田力氏と元東京地検検事郷原信郎氏の遣り取りをビデオ記録で見ると、検察がリーク情報を流すことが十分あり得ることを両氏共に、結果的に認めている。ただし、この第三者委員会が載せている文字記録には欠落している部分がある。この点に関する両氏の発言の要点を次に示す。
堀田氏
 検察の組織としてリークはしないように強く戒めている。しかし個人としてやったとしても、確かめようがない。郷原さんは現職時代にそのようなことがあるということで、出世できなかったという噂がある。ただし、捜査の進展に阻害を生じないように、若干の情報をマスコミ関係者に情報を流すことはある。
郷原氏
 そんな噂は初めて聞いた。自分は絶対にリークなどしていない。むしろ、自分の担当した長崎の事件では、最高検に報告してから情報が漏れた。なお、堀田さんの言われた、捜査の進展に阻害を生じないように、若干の情報をマスコミ関係者に流すことはあった。

 検察の説明責任が果たされていないことについては、拙文「民主党小沢代表の秘書の起訴に関連して」で述べた。これに関して少し補足する。5月13日付けの朝日新聞のオピニオン欄に、評論家、ジャーナリスト・立花隆氏が、「世界」6月号掲載の「特捜幻想」(笹川伸一郎)にある、次の《 》内のような情報を紹介している。
《逮捕された大久保隆規秘書がゼネコン各社の担当者に、「工事がほしいなら小沢事務所に献金してほしい。そうでなければ工事をやらせない」と話していたという。》
 この事実証拠を検察が掴み、虚偽記載の根拠になると検察が判断しているのであれば、他の類似とされている件とは違って、虚偽記載を裏付ける証拠を掴んだから、逮捕、起訴したと説明すべきであった。これまで行っている“看過しえない重大かつ悪質な事案だ”という一般論的な説明では不十分である。一方で非公式なリークを沢山していては、検察の恣意捜査ではないかという疑念が生まれるのは当然である。無用な混乱を避けるために、検察は適切に説明責任を果たさなければならない。

 検察批判が嵩じて、小沢氏を買い被る風潮も出てきていたが、これもどうかと思う。ジャーナリスト・高野孟氏は週刊朝日への寄稿文他で、“小沢が言うところの「明治百年の官僚体制を打破する革命的改革」への道を切り開く”と小沢氏に期待している。しかし、小沢氏の出版した著書が官僚の応援でできていたことや、自民党時代に官僚に頼っていたことなどは周知の事実である。しかも高野氏自身が認めているように、小沢氏は旧体質を持つ上に、政策より政局を重んじる傾向があるのである。高野氏の見識を疑う。

 5月13日付けの朝日新聞の一面に『突如「豪腕小沢」が復活』というタイトルの記事が載った。その一部を次の〈 〉内に示す。
〈12日午前の民主党役員会・常任幹事会。小沢氏がしおらしかったのは、辞任あいさつぐらいだった。代表職の重圧から解き放たれたのだろうか。「剛腕小沢」が突如、復活した。複数の出席者によると、小沢氏は4人の役員をにらみつけた。一人ひとり指さし、こうまくし立てたという。「福山、長妻、安住、野田、この4人組。お前らいっつも反対反対と。最後くらい言うことを聞け。視線の先には野田佳彦広報委員長、安住淳国対委員長代理、福山哲郎・長妻昭両政調会長代理がいた。鳩山由紀夫幹事長が提案した16日の両院議員総会での新代表選出案に異論を唱えた面々。いずれも小沢氏と距離を置く議員だ。…〉
 また5月19日発売の週刊朝日5/29号の総力取材記事『小沢「私党」になった民主党』の中に、次の〈 〉内のような記述がある。
〈(民主党の:筆者注)幹部の一人からこんな証言も飛び出した。「実は、最初に鳩山幹事長を中心に幹事長室がまとめたのは5月16、17日と土、日をテレビジャックして、18日に投開票を行うという日程案でした。ところが、それを小沢氏に示したら、一喝されて16日の土曜日投開票になったんです」〉
 この二つの記事に、小沢氏の本性が露骨な形で表れている。自分自身が変わらなければならないと言っていたが、無理だったのである。人間の本性はそう簡単に変わるものではない。やはり代表辞任は小沢氏にとって敗北ではなかった。本来の策士に返れて、やる気満々である。
 小沢氏は反対意見を理解しようとせず、反対者をすぐ敵と見做す。そのために、これまで多くの側近が去っていっている。また意見を差し控える者が続出している。実はこの小沢氏の小心で幼児的・やんちゃ坊主的性格によるゴリ押しが「剛腕小沢」の本質である。筆者にもかつてまったく同じ性格の上司がいた。身に沁みてその弊害を経験している。こんな人物に期待するのは間違っている。〕

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