渋滞と環境の面から見た、民主党の「高速道路無料化施策」について(2009.9.24,11.1)
民主党の高速道路無料化施策には数々の疑問点があるが、本文では渋滞と環境の面から見た疑問点について述べる。
高速道路無料化の元祖「提唱者」である山ア養世氏(シンクタンク山ア養世事務所所長、前民主党「次の内閣」国土交通大臣)によると、“麻生政権の経済対策で高速道路を1000円にした際に高速が大渋滞した問題は、そもそも行楽のピークの道路がもっとも混む時期に値下げを行ったことの影響であり、期間を限定しない無料化であれば、あのような事は起きない”そうである(http://www.videonews.com/on-demand/431440/001223.php参照、以下「V参照」と記す)。
だが、1000円になったのはETC装着の自家用車だけで、自家用車のETC装着率は50%前後だと言われている。トラック、バスなど商業車は、適用外 である。全面的に無料化されれば 、商業車やETC未装着の自家用車が渋滞に拍車を掛けることになるのは間違いない。山ア氏の言い分は、このことを意識的に無視していて、無理がある。
さらに、山ア氏は、“国土全体の8割は完全な自動車社会で、大半の人は主たる交通手段が自動車しかない。そもそも、無料になったからといって電車から車に乗り換える人はほとんどいないのです。”と言っている(週刊朝日10/2号参照)。
この主張も事実に反している。今年のGWで、在来線の特急を中心に利用者が減少している。JR東海で対前年比10%、JR東日本は6%の減である。
いずれにしても、“無料化すれば渋滞が解消する”という主張に、合理的な根拠はない。多くの人が指摘しているように、渋滞により正確で速い宅配サービスが受けられなくなるし、バスや貨物自動車も正確な運行ができなくなるという、社会的な混乱による損失も見逃せない。
この渋滞問題については、民主党も自信はないようで、今になって社会実験とか、さまざまなシミュレーションを行って、段階的に無料化すると言い出している。前原国交大臣はあるテレビ番組で、社会実験などを行って、無料化は無理だと分れば方針を見直すのかと聞かれて、最終的には4年で無料化するという方針に変更はないと答えていた。ならば社会実験などを行う必要性はないではないか。まったく支離滅裂な言い分である。つまり確たる見通しもなく、無料化を主張し、いざ実行段階になれば、その場凌ぎの言い訳をしているのである。
高速道路を無料化すれば渋滞が解消し、流通コストも低減されて、日本経済活性化にも寄与すると民主党は強調している。もし渋滞が解消されなければ、新規の高速道路を建設して日本経済を活性化させるのが、民主党にとっても合理的な施策であることになる。ところが民主党は今後新規の高速道路建設は原則としてしないことにしている。こうした矛盾に民主党は気付いていない。まさか、“社会実験などを行う”というのは、こうしたことまで考えての上でのことではなかろう。もしそこまで考えているのであれば、“無料化すれば渋滞が解消する”と言い切れないはずである。
次に“一般道の渋滞は解消されるので、むしろCO2は減るはずだ” (V参照)と山ア氏は言う。しかし、高速道路の渋滞を考えていないし、同じ高速大量輸送機関の新幹線に比べて、高速道輸送はエネルギー消費量が多く(新幹線の6倍)、環境影響も大きい(二酸化炭素排出量で新幹線の8倍)ことをまったく無視している。しかも新幹線の安全性は抜群である。トータルの環境への影響という視点がまったく欠落している。
鉄道との関連で言えば、もし高速道を無料にするのであれば、少なくとも鉄道の下部構造(インフラ部)の建設費と保守費への利用者負担を無くしなければ辻褄が合わない。
“高速道路の無料化は車のエコ化を前提としなければ、意味のない議論になる。…石油をベースとする経済体制から太陽をベースとする「太陽経済」への移行へ…” (V参照)とも山ア氏は言っている。しかし、そう簡単にはエコ化や「太陽経済」への移行は不可能である。この言い分は、皮肉にも、逆に無料化がすぐにはCO2削減にならないことを自身が意識していることを告白していることになっている。
なお、前原国交大臣は同じテレビ番組で、個人的には高速道路無料化施策には反対で、そのことを以前にある雑誌で表明しているが、高速道路無料化は国土交通大臣の辞令をもらう際に、鳩山総理から箇条書きで指示された最初の項目であるから、この施策を遂行すると語っていた。政治家としての信念を曲げてでも、大臣になりたいのであろう。情けない政治家である。
追加 年末は「1000円高速」なし?(2009.11.1)
国土交通省は一週間前の先月26日、自動料金収受システム(ETC)搭載車を対象とした高速道路料金の割引について、年末年始のうち12月26日(土)、27日(日)は平日扱いとし、土日祝日に上限1000円とする割引は適用しない方針を明らかにした。その狙いは年末の帰省ラッシュがこの2日間に集中するのを防いで、渋滞の分散を図ることだそうである。
筆者が上記拙文で、無料化は渋滞を招くと指摘したが、そのことを民主党政府自身が認めたことになっている。何の説明もなく、こんな施策を発表するのではなく、自らの主張の非を潔く認めて、政策の転換を計るべきである。それとも、渋滞が予想される時には、有料とするというのであろうか。ならば、完全無料化と言うべきではない。