JR東海が発表した東京−名古屋リニア新幹線計画について(2009.6.23)

 東海旅客鉄道(JR東海)が2025年の開業を目標に計画を進めているリニア新幹線の3ルートについて、6月17日、自民党リニア特命委員会(委員長:堀内光雄衆院議員)などに、以下のような路線長、所要時間、工事費の見込みについて報告した。

ルート 木曽谷経由Aルート) 諏訪・伊那谷経由(Bルート)南アルプス経由(Cルート)
路線長       334km                    346km                286km
最速所要時間 46分(87分)             47分(90分)        40分(79分)
工事費:      5兆6300億円              5兆7400億円         5兆1000億円
             (4兆4500億円)        (4兆5000億円)       (4兆1800億円)
@( )内は在来型新幹線での場合 A工事費:建設費(中間駅を除く)+車両費

 JR東海は、路線長が短くて、工事費と営業費が安く、所要時間の短い南アルプス経由の直線Cルートを自社負担で建設する意向を表明している。
 この南アルプス経由の直線Cルート案は一昨年の12月末に、初めてJR東海によって示された(別拙文「リニア中央新幹線について」参照)。それまでは南アルプス経由直線ルートは技術的に困難ということで、比較案に挙がっていなかった。報道によると、トンネル掘削技術の進歩で可能になったということのようである。だが上記別拙文で指摘したように、未知要因はまだ残されているように思う。

 今回の工事費の見積もりでは、山岳トンネルは、山梨リニア実験線の延伸・改修や北陸新幹線の飯山トンネル、東海北陸自動車道の飛騨トンネルなどの事例を踏まえたものだそうである。ということは、飛騨トンネル程度の難工事しか予想されていないと考えられる。
 JR東海は、2008年2月から、南アルプスを貫くトンネルの両入口付近と推定される2箇所で、3kmの水平ボーリング調査による地質調査を実施した。2008年10月に、この結果も踏まえて、3ルート何れも可能という地形・地質調査報告書を国土交通省に提出した。トンネルの両入口付近のこの程度の俄か調査で、最終判断できるとするのには、聊か疑問を持つ。

 南アルプス一帯の地質は極めて複雑である。東側には糸魚川静岡構造線、西側には中央構造線と、日本最大の断層がある。南アルプスは所々に亀裂が走り、崩壊も起こるなど、地質が不安定である。トンネルを掘削するとなれば、大量の湧水、崩落、変形など不測の事態も覚悟しなければならない。おそらくこれまで日本で経験しなかったような事態が十分予想される。Cルートの南アルプスを貫くトンネルは、全長約20kmで、土かぶり(トンネル掘削断面より上の山の厚さ)は1400m程度になると想定されている。1982年に開業した全長22.2kmで最大土かぶり1300mの上越新幹線大清水トンネルや、2008年に開通した全長10.7kmで最大土かぶり1000mの東海北陸自動車道飛騨トンネルなどから、技術的に可能だと判断されたようである。土かぶりの要素に加えて、日本一複雑な地質の影響が未知であるという要因を軽視しているのではなかろうか。工期や工費の見積もりが大幅に狂ったり、予想せぬ事態に至る可能性もあり得る。

  長野県はこれまでBルートで合意をしていた。JR東海が強引にCルートを推進しようとしていることに反発している。新幹線には地域の発展への寄与という要素もある。単に企業論理で進めるのは如何であろうか。しかも、上記したような問題点もある。JR東海に慎重な対応を望みたい。

 以上の他にも、リニア新幹線に用いられる超伝導の人体や環境に及ぼす影響、ランニング・コスト、採算性などについて、十分な説明がなされていないように思う。筆者は技術の進歩に希望を持ち、夢を実現してもらいたいと思っているが、関係者には悔いの残らない判断をしてもらいたい

 余計なことだが、在来型新幹線の工事費の見積もりが、現在建設中のものに比べて、いずれのルートもかなり高いように思う。例えばBルートの1km当りの平均工事費(総工事費を総延長で割ったもの)は、130億円/kmである。2011年春に開業が予定されている、博多〜新八代間121kmの総事業費は8134億円で、67.2億円/kmである。約倍にもなっている。車両費の有無に差があるとしても、違いが有り過ぎる。どうしてであろうか。

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