岩手・宮城内陸地震に思う(2008.7.10,24,8.2)

  本文は、別拙文「岩手・宮城内陸地震についての第一印象」、「兵庫県南部地震頃から大地震の発生頻度はうなぎ上りに上昇している!!」を元に、長野経済新聞の7月5、15日号掲載用に書き改めたものである。両拙文に若干修正と加筆を行ったので、改めて載せた。

 最初に、今回の岩手・宮城内陸地震で被災された方々に心からお見舞い申し上げます。
 さてこの地震で極めて印象的なのは、震源が浅く、マグニチュードが7.2という大きな規模の地震にも拘らず、建物の被害はそれほどでもないのに比べて、大規模な山崩れや土石流災害が目立ったということであろう。
 1984年の秋に発生した
長野県 西部地震で、建物や構造物の被害はほとんどなかったのに、「御嶽崩れ」と呼ばれる大規模な山崩れが確かにあった。しかし、これ以外に大規模な山崩れや土石流災害はなかった。これはこの地震でのマグニチュードは6.8で、地震エネルギーは今回の4分の1であったためだと考えられる。
 今回の特異な様相から、揺れの性質がこれまでの多くの地震とは違っていたのではないかと発生直後に直感的に思った。これを裏付ける事実が出てきている。
 先ずasahi.comの6月16日の記事は、次の【 】内のようである。

【岩手・宮城内陸地震の震源に近い 岩手県一関市 で、防災科学技術研究所の観測網が国内最大の4022ガルの加速度を観測していたことがわかった。重力の加速度は980ガルで、上下方向でこの値を超えると地上のものが浮くことになる。これまで04年10月の新潟県中越地震の余震のとき同県川口町で気象庁が観測した2515.4ガルが最高だった。
 観測地点では上下方向に3866ガルが記録され、これに東西と南北の水平2方向を合わせ、4022ガルになった。水平方向より上下方向の変動が大きく、観測地点は断層沿いで、地盤がもう一方の地盤に乗り上げた側の直上だった可能性があるという。
 今回は、地震を起こした断層に極めて近いところに観測点があったため大きな値が観測された。防災科研は「断層の真上がどのように揺れるかを観測できた基本的な記録で、今後の地震対策のための貴重なデータになる」としている。】

 この記事の内容は、今までの常識を二つの点で大きく覆すものである。一つは観測された加速度が異常に大きく、重力の加速度の約4倍で、これまでの最大観測値の1.6倍であることである。もう一つはこれまでの観測にはなかった、水平方向より上下方向の加速度が大きかったということである。
 加速度に質量を掛けたものが力であるから、瞬間的には最大で個々の構造物の重量の4倍もの力が作用したことになる。ただし、構造物に与える地震の影響は、単に瞬間的に作用する力の大きさだけではなく、その作用時間が関係するエネルギーの大小によるので、瞬間的な力の大きさだけでは評価できない。それにしても専門家でも驚くほどの異常な揺れであったことは間違いない。

 次に、6月17日付けの信濃毎日新聞に、「住宅全半壊は少なく」という見出しの記事が掲載された。その書き出しの部分を次の《 》に示す。
《最大震度6強だった岩手・宮城内陸地震の住宅被害は、全半壊が計十棟(十六日午後6時現在)と比較的少なかった。同様に震度6強を記録した昨年七月の新潟県中越地震は住宅約七千棟が全半壊した。
 専門家らは、住宅が少ない山間地が震源付近だったことに加え、建物被害が出にくい短周期の地震波や、積雪に備えた住宅構造の耐震性などを要因に挙げている。》

 これまでの観測がそれぞれの地震の揺れのすべてを網羅しているわけではないにしても、今回の地震の加速度は過去の観測値を大幅に越すものであった。それにもかかわらず、建物の被害は意外に少なく、大規模な山崩れや土石流災害とそれに伴う構造物の被害が目立った。この今回の被害の極めて特徴的な現象に関する、記事で挙げてある複数の要因の中では、短周期(0.2秒程度)の地震波だったということが最も関係しているように思う。

 上記で、“構造物に与える地震の影響は、単に瞬間的に作用する力の大きさだけではなく、その作用時間が関係するエネルギーの大小による”と指摘した。周期が短いと、大きな瞬間的な力が発生しても、直ぐなくなり、構造物が受ける地震エネルギーは低いので、致命的な破壊とはならないのである。構造物の固有周期との相違による共振現象の回避で説明されることが多いが、エネルギーの相違の要素が大きいように思う。
 一方、山崩れという現象は、元々崩れやすい状態にあり、建物のようにある程度の地震エネルギーは吸収できるという能力がないために、起こってしまうのである。
 さて、最近大地震の発生頻度が大幅に増しているように思う。そこで、日本列島内部とその周辺で発生した大地震(マグニチュード6.8以上)の、毎年の年間発生回数と、それぞれの年を含むそれまでの過去10年間の平均発生回数を調べて、図化してみた。その中から、戦後昭和21年以降についてのものを次の図に示す。図の棒グラフが年間発生回数、折れ線グラフが10年間の平均発生回数である。案の定、兵庫県南部地震前後から大地震の発生頻度はうなぎ上りに上昇している傾向が、特に折れ線グラフからはっきりと読み取れる。

 
 1995年に発生した 兵庫県 南部地震前後以降、10年平均で、2年に一度(図の値の0.5)を越す頻度で大地震(マグニチュード6.8以上)が発生し、その傾向はうなぎ上りに上昇し、現在では明治以降(実は記録にある有史以来)、2004年までに最大値であった10年当たり平均発生回数の0.8(1948、1952年)の5割増しの1.2にもなっている。また図示範囲外を含む1992年までの年間発生回数の最大は2回であったのに、1993年以降は年間3回というのが3年もあり、最近の発生頻度の異常さが目立っている。
 因みに、中国、南北アメリカでも、近年増加傾向(中国では1974〜1978年と2008年にやや上昇、南北アメリカでは1989年以降それまでの最大値の倍近辺まで上昇)にあるようである。なお10年間の平均発生回数の最大値は日本の最大値の約半分である。
 いずれにしても日本の最近の傾向を地震の活動期だということでは説明できないように思う。何故ならこんな異常な活動期は、記録で見る限りかつてないからである。長い間の自然現象としては極めて異常な傾向である。ごく一部に人工地震説があるが、それを信じたくなる(もちろん信じないが)ような事態であるように思う。
 古い記録は精度が低い上に、記録漏れがあるということ、また最近は観測箇所も増えているということなどから、見掛け上頻度が急上昇しているという考えもあるかもしれない。しかし、甚大な被害の記録回数からも、単なる見掛け上の傾向とは言えないように思う。

追加 岩手北部地震の発生を受けて(2008.7.24)
 本7月24日に、マグニ
チュード6.8の岩手北部地震が発生した。上記の図を修正したものを下に示す。ここ数年、10年間の平均回数はほぼ直線的に過去の記録を更新して増加するという、極めて異常な傾向を示している。

追加2 マグニチュード7以上の大地震について(2008.8.2)
 上記では、
マグニチュード6.8以上の大地震について図示したが、マグニチュード7以上の大地震についても図を作成してみた。ここ数年は、明治以降(実は記録にある有史以来)、1997年までに最大値であった10年当たり平均発生回数の0.6(1901,1902,1903,1948,1949,1952,1995,1996,1997年)の5割増しの0.9にもなっていて、やはり異常な頻度増である。また図示範囲外を含む1992年までの年間発生回数の最大は2回であったのに、1993年以降は年間3回というのが2年もあり、最近の発生頻度の異常さが目立っている。

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