コンクリート構造物に発生するクラックの評定について(2003.4.17)

 国土交通省は昨年、請負工事成績評定要領を改定して、各方面に通達した。その中の別紙―4の「3.コンクリート構造物のクラックについて」は、次の【 】内のようになっている。

【(1)クラックが発生した構造物では「進行性または有害なクラックがなく、発生したクラックに対しては有識者(大学教授等)の意見に基づく処置をしている」等が見られたら、c評価とする。
(2)「進行性または有害なクラックがある」場合、無処理の場合は、状況に応じて、dまたはe評価とする。】
 (筆者注:評価はaが一番高く、eが一番低い)

 これを文字通りに読むと、少しでもクラックが発生すると、評価はc以下となってしまう。多分ここでは異常なクラックの発生を念頭においたものと思われるが、そのことを明記すべきであろう。
 例えばある県は上記(1)、(2)の後に、次の『 』内のような注記を設けている。
 『*許容できるクラックの目安は0.2mm程度とする。(但し、鉄筋の腐食環境が厳しく、コンクリート構造物の耐久性に及ぼす有害性が大きい場合は0.1mm程度とし、また、防水性に及ぼす有害性が大きい場合は0.05mm程度とする。) 参考文献「日本コンクリート工学協会のひび割れ調査、補修・補強指針」』

 (1)の書出しの「クラック」の前に、「許容できない」という表現はないものの、意味はそのようである。したがってひびわれが発生していても、許容できる場合には、aもしくはbの評価もあり得ることになる。
 できれば、(1)の書出しの「クラック」の前に、「許容できない」という表現を入れて趣旨が徹底してほしいが、このような評定基準は概ね妥当であろう。ただし、次の2点について留意して、運用されることが望ましい。

1)注記(*以下)にある「0.2mm程度」の範囲を、進行性のクラックでなければ、0.3mmくらいまでと考える。ただしこれを超しても、有識者の所見で許容される場合もあり得る。(根拠については、下記拙文「やむを得ず発生するコンクリートのひび割れ」を参照のこと)
 なお「0.2mm程度」以下でも、施工不良による(例えば支保工沈下とか養生不良などによる)ひび割れ発生はあり得る。この場合は当然評定はc以下となる。
2)許容できないひび割れの発生は、単に施工に原因があるだけではないことを念頭におく。設計が不適切で過大なひび割れが発生することが結構ある。また、注記の但し書きのような場合、それを考慮した設計とコンクリート配合の指定が適切でないと、施工だけで条件を満たすことは困難である(注参照)。

やむを得ず発生するコンクリートのひび割れ

 コンクリート構造物にひび割れがある程度発生するのは,残念ながらやむを得ない。特に,昭和40年頃からポンプ施工が本格的に採用されて以来,水セメント比の値が10前後上がり(通常の構造物では50%強前後から60%前後に),単位水量も増え,乾燥収縮量は水セメント比・単位水量の影響を強く受けるから,その傾向が助長されている。
 コンクリート構造物に発生しているひび割れに普段は余り気付かないが,既設の各種コンクリート構造物をランダムに選定して、その気になって観察すれば,意外に沢山発見できるものである。百聞は一見にしかず、自分の目で確かめれば、必ず確認できるはずである。
 なお筆者は昭和39年10月に開通した東海道新幹線の建設に従事して,様々なひび割れの発生を経験し,以来コンクリートに発生するひび割れについては関心を持ち,各種のひび割れの原因推定と対策に関与してきている。
 やむを得ずひび割れが発生する主な原因は次のようである。

@乾燥収縮
 一般にフレッシュ・コンクリート(まだ固まらないコンクリート)に、水が満遍なくいきわたるためと、打設の際に流動性をもたせるために、セメントの水和反応に必要な水分より、かなり多くの水分が用いられる。その結果、余分な水分が乾燥して外に出て、コンクリートは収縮する。したがって、水セメント比(単位水量)の多いコンクリートほど乾燥収縮量は多く、ある程度の乾燥収縮ひずみは避けられず、拘束がなければ30×10-5(朱色はべき乗を意味する。以下同様)にも達する(1m当たり0.3mm)。通常は自由に収縮できないために、ある間隔で収縮が蓄積され、ひび割れとなる。間隔と幅は、養生条件や構造形式、断面寸法、鉄筋量、かぶり厚などが関係する。

A温度・湿度変化
 コンクリートと鋼の熱膨張係数は1℃につき、ほぼ1×10-5である。つまり1mのコンクリートに10℃の温度変化があれば、0.1mm伸縮する。このような伸縮は通常拘束されているから、蓄積されてひび割れとなる。またマッシブなコンクリートでは硬化初期の断面内の温度応力が原因でひび割れが発生する。このような場合には予め温度ひび割れ発生制御対策が必要である。
 なお湿度の変化に伴って、コンクリート中の水分が変化して、コンクリートは膨張・収縮して、温度変化と同じような影響を受ける。

B荷重作用
 コンクリートは引張り強度が極めて低いから、引張りに鉄筋が抵抗するように設計されるのが鉄筋コンクリートである。もしコンクリートにひび割れが発生しないように設計するものとしたら、鉄筋もコンクリートの引張り能力εtの1×10-4〜2×10-4程度までのひずみしか許せないことになる。そうすると、鉄筋の応力度は210〜420kgf/cm2(鉄筋の弾性係数Es×コンクリートの引張り能力εt、国際単位系SIに反対なので、重力単位系で表現)となり、鉄筋の強度を十分利用できなくなる。通常の鉄筋は、平時でもこれの数倍までの強度を利用しているから、鉄筋コンクリートでは、ひび割れの発生は止むを得ないとされているのである。

Cその他
 稀ではあるが、支持力が所定以上ある場合であっても、コンクリート硬化初期段階の躯体の沈下差によって、壁状の部分に、斜めの亀裂が発生することもある。

 ところで、乾燥収縮と温度変化(温度応力)の影響が合算されて、ひび割れの幅は0.25mm前後(通常ひび割れ間隔は1m以下)に達する。ひび割れ間隔が2〜3mになると、ひび割れの幅は0.5mm前後に達することもある。例えばボックスカルパートのように、構造が連続的で、拘束条件が厳しい構造では、乾燥収縮と温度変化(温度応力)の影響を受けやすい。
 また、荷重作用による引張ひずみによるだけでも、ひび割れの幅は0.2mm前後に達することがある。したがって、設計荷重のうち、死荷重の率が高い構造物では、竣工前でもこの程度のひび割れは発生し得る。


この2)の指摘について、ある方から、
@施工会社、施工技術者も設計の問題に全く、無関心であってはならない。つまり設計を修正せず、施工部門は設計どおりにやっただけというのではなく、施工会社やその技術者は、設計の適否の判断も評価には考慮すべきである、
A施工会社、施工技術者も品質管理の問題として、誘発目地、収縮目地の設置、温度管理や養生は十分か・温度管理を前提に生コンの発熱抑制のためのコンクリートの配合設計の考慮などを考えるべきである、
Bこのような2点について、施工会社や施工技術者が検討し、施工サイドとして手だてをうった上で、クラックの評価をすべきである。各分野が一体となった対応になってほしい、
という意見をもらった。

 現在の工事施工契約方式であると、各分野のなかには、設計・施工に一定の責任がある、発注者も入れなければならない。そうであれば、この『各分野が一体となった対応』という原則に異存はない。その場合には、@〜Bの『施工会社、施工技術者』は『発注者、施工会社(生コン会社などを含む)と、それらの技術者』とすべきである。もし、発注者を除くのであれば、設計・積算・工事監理という役割から発注者は退き、工事契約を完全外注方式(設計込み契約と外注監理)に改めなければならない。
 この意見のままだとすると、施工会社、施工技術者に過大なことを強いてしまう。例えば、施工会社、施工技術者が設計に疑問を持つことはあり得るとしても、設計計算書を細かくチェックすることまで強要できないであろう。第一義的な設計の責任は発注者にあるはずである。実際の設計はコンサルに外注されたとしても、その設計を前提にして、工事発注しているのであるから。また『…目地の設置…温度管理を前提に生コンの発熱抑制のためのコンクリートの配合設計の考慮』の必要性を施工会社、施工技術者が指摘するのを原則にするのは、本来設計図書や技術仕様を明示されなければならないから、発注者の怠慢である。しかも、設計図書の変更や『…目地の設置…温度管理を前提に生コンの発熱抑制のためのコンクリートの配合設計の考慮』が必要になると、設計変更の手続きを通常はしなければならない。このように設計変更を前提とするのは、現契約方式では設計・施工に一定の責任がある、発注者がとる原則的な態度であってはならない。まして、もし設計変更の手続きをしないで、変更や『…考慮』を施工会社、施工技術者に強要するとしたら、問題であることはいうまでもない。

 もう一点付け加える。通常の設計・施工をすれば、コンクリートにはクラックは生じるものではない、コンクリートにクラックが生じるとしたら、特殊な場合だという考えが、この意見の根底にあるように思われる。しかし、既述したように、クラックの発生はある程度仕方がないとされている。必要以上の防止策をとるべきではない。例えば、通常入れられる間隔の目地の設置でも、完全にクラックを防止できるわけではない。元々目地は人工的にクラックを入れたとも考えられるもので、結果として発生したクラックを特に問題にすべきではない。既に触れたように、新幹線、高速道路のコンクリート構造物のかなり古い物を含めて、確かめてみていただきたい。幾らでもクラックは見付かるはずである。

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