コンクリートのひび割れに関する、ある遣り取りについて(2007.11.3)
はじめに
ある方から、拙文「コンクリート構造物に発生するクラックの評定について」に関して、メールを頂戴した。その遣り取りを了解を得て以下に示す。
1.最初のメール
はじめまして、突然のメールお許し下さい。…と申します。
HPを拝見し、どうしてもご意見が欲しいのでメールいたしました。
決して先生のお考えを批判するものではありません。真意を知りたくおもいました。
>「コンクリート構造物に発生するクラックの評定について(2003.4.17)」
)注記(*以下)にある「0.2mm程度」の範囲を、進行性のクラックでなければ、0.3mmくらいまでと考える。
というところまでは非常に興味深く読ませていただきました。ここまでは、割れ幅とその原因と有害性および環境という点で許容基準をまとめられています。
しかし、
>ただしこれを超しても、有識者の所見で許容される場合もあり得る。と述べられ、以後、完全に主観的な文章になり、
>(根拠については、下記拙文「やむを得ず発生するコンクリートのひび割れ」を参照のこと)
とされ、許容の客観的判断基準を超える判断の存在の根拠として”やむを得ず発生するひび割れ”を挙げられています。許容しうるか否かということと、そのひび割れ発生がやむを得ないか否かとは全く関係ないことのように思います。
お聞きしたいことは、
@”やむを得ない”という要素がどのように論理的にひび割れの評定にかかわるのでしょうか。
Aやむを得ないひび割れの主な原因として挙げられているものを”やむを得ない”とすると前半部分の国土交通省の評定基準はなにも評定したことにならないということでしょうか。
B”許容”ということばが、”評価cであるか否か”や”対策を必要とする否か”という意味から”免責””情状酌量”という意味に変わったということでしょうか。
C割れのない(ほとんどない)コンクリートは奇跡なのでしょうか。
0.25レベルがないものは周りにたくさんありますが。先生はゼロであることはないと言われたいのでしょうか。先生が”やむを得ない”で言われていることが現状であれば0.2や0.3のものをとやかく言っていることが馬鹿らしく感じてきました。必ずおきるのもにそんな評定をしてもとも思います。
しかし、一辺たりともひび割れがないものもあります。それもたくさんあります。それは奇跡と呼べばいいのでしょうか。
すべては、最後の部分で書かれている
>クラックの発生はある程度仕方がないとされている
この「ある程度」が問題なのでしょうが。。。教えてください。
以上
2.筆者の最初の返事
メールを拝見しました。
所用のため、ご返事が遅くなりました。ご寛恕ください。
さて、貴方様の個々のご質問にお答えする前に、貴方様の疑問を踏まえて、まず総論的なご説明をいたします。その上で、これだけでは必ずしも十分でないと思われますご質問への回答を補足的にいたします。
そもそもコンクリートのひび割れの発生とその幅は、練り・運搬・打設過程での扱い、養生・型枠・支保工の適否ばかりではなく、コンクリートの配合(調合)、気温、湿度、設計、構造種別、構造寸法、配筋、発生間隔など様々な要因によって、かなり違ってきます。したがって、その幅がある特定の値以上となったからとして、一概に異常だと決められるものでは本来ありません。しかし、多くの場合、この程度なら異常でないと言えるので、その一応の目安を便宜的に定めているのであります。こうした観点から、コンクリート施工の評定も行われるべきだというのが、私の基本的な考えであります。
そこで、“進行性のクラックでなければ、0.3mmくらいまでと考える。ただしこれを超しても、有識者の所見で許容される場合もあり得る”とし、また “「0.2mm程度」以下でも、施工不良による(例えば支保工沈下とか養生不良などによる)ひび割れ発生はあり得る。この場合は当然評定はc以下”としたのであります。
“ただし、有識者の所見で許容される場合もあり得る”というのは、原則があっての上のことですから、文字通り特例的なケースで“あり得る”と言っているのであります。私の経験でも、0.3mmを超すケースでは、ほとんど施工ないし設計に問題があります。
したがって、0.2〜0.3mmまでを無条件に問題なしと言っているのではありませんし、0.3mmを超しても、できるだけ施工に問題なしと評価するようにしろと言っているのでもありません。むしろ原則を超えた場合には、何か異常原因があると疑うべきでしょう。ひび割れ診断の相談を受けた場合には、私は何時もそのような目で見ています。それでも稀には、設計、構造種別、構造寸法、配筋、発生間隔、施工記録などから、特に施工に異常があると考えられないケースも経験しているのであります。
ご参考までに記しておきますと、アメリカのACIの規定では、乾燥空気中では0.41mm、湿空中・土中では0.33mmを判断基準としています。
なお、発生しているひび割れが有害かどうかの判断は、コンクリート施工の評定とは別に分けてするべきだと思っています。
ところで、“許容しうるか否かということと、そのひび割れ発生がやむを得ないか否かとは全く関係ないことのように思います”とのご指摘を頂戴しました。同じことではありませんが、“全く関係ない”どころか、大いに関係があると私は思っています。
以上のご説明を踏まえて、個々のご質問にお答えします。ただし、@、Aについては、上記説明で済んでいると思います。
「B”許容”ということばが、”評価cであるか否か”や”対策を必要とする否か”という意味から”免責””情状酌量”という意味に変わったということでしょうか。」について
これも一般論でご理解いただけると思いますが、私はあくまで「評定要領」について意見を述べていますことを、念のために申し添えます。
「C割れのない(ほとんどない)コンクリートは奇跡なのでしょうか。」について
一般論のご説明で申し上げましたように、ひび割れの発生は多くの要因が関係しますので、条件次第ではほとんどひび割れのないコンクリートも、もちろん存在します。特に特別な配合(調合)のものとか、環境条件に恵まれたり、通常の養生期間を超えて長期に湿潤状態にあったような場合には、あり得ます。私が指摘していますのは、冬季、夏季を含む環境条件下の通常の配合(調合)、施工でのことに関してであります。一見ひび割れのないと思われるコンクリートでも、詳細に観察しますと、意外に沢山のひび割れが発見できることを、私は実感しています。
“先生が”やむを得ない”で言われていることが現状であれば0.2や0.3のものをとやかく言っていることが馬鹿らしく感じてきました。必ずおきるのもにそんな評定をしてもとも思います。”とのことですが、施工に伴って本来あってはならないひび割れがありますから、“必ずおきるもの”に該当するかどうかを判断して、コンクリート施工の評定をすることは当然必要であります。要は施工を普通にやれば、コンクリートにひび割れは発生しないものだという認識で、施工の評定をすべきでないということであります。
以上でお答えになっているかどうか自信はありません。疑問や不明点がまだあれば、遠慮なくお聞きください。
最後に、貴方様はどのようなお仕事に従事されておられるのか、お差支えなければお聞かせください。
補足
ご質問に直接関係ありませんが、念のために補足します。
時間と費用を掛けて、ひび割れをほとんどなくすことは可能であります。しかし、通常はそこまでひび割れに神経質になる必要はなく、限られた予算でできるだけ多くの施設を造るという、現実的な配慮が、この問題に限りませんが、必要だと思っています。鉄筋の強度を十分活用するために、荷重の作用でのひび割れ発生は止むを得ないとしているのに、施工でのひび割れを必要以上に気にする必要はないと思っています。
3.2回目のメール
■私のよく分からない質問にもご丁寧に返信頂き有難うございました。
大変分かりやすいご説明有難うございました。
@原則は原則だが、特例もありうる。
至極普通のスタンスに立たれていることが分かりました。
A特例の可能性もあるので、はじめから「施工を普通にやっていれば、コンクリートにひび割れは発生しないものだという認識で、施工の評定をすべきでない」ということも
とても理解できました。
通常、先生が言われたように、
>0.3mmを超すケースでは、ほとんど施工ないし設計に問題がある。
>むしろ原則を超えた場合には、何か異常原因があると疑うべきでしょう。
という視点に立ち、多くの場合は検証に入ることを考慮すると、
多くの議論は0.3mm以上のものをどう判断(原因究明)するかではないでしょうか。
0.3mm以上の判断(原因究明)の際に、大きく判断(原因究明)の妨げとなるのが、
B>要は施工を普通にやっていれば、コンクリートにひび割れは発生しないものだという認識で、施工の評定をすべきでない
という考えの誤用です。
先生も言われるように、この言及は原則の判定基準に対してあくまで例外の存在とその考慮を示唆するものであるということです。
しかし、施工側は必ずこのフレーズを誤用し、多用し、調査や原因究明すら回避しようとします。
先生がご指摘される0.3mm未満の例外もありますが、ちまたで議論になる多くは「ひび割れ」=「0.3mm以上」です。
先生のB番のフレーズのひび割れを「0.3mm以上」のもの含めて誤用(悪用)するケースが多いのが現状です。(例外という意味を含めず使う)
私は頂いたメールで十分理解が出来ました。
できましたら、HPの記述表現にもご配慮頂ければと思います。
■話は変わります。
先生の原則に対する例外の存在とその考慮の重要性ですが、
この教唆そのものが現場をボーダレスにしているように思います。
そもそもどんなものも例外のないものはないのと、この分野は例外の議論をするほどいろんなことが確立していないように思います。
原則に当てはまるものでさえ、判断や原因究明は困難なのが実状ではないでしょうか。
その上、例外までもを考慮し、有識者といわれる方々が何が出来るかが疑問です。
うちに30の現場があります。すべてにおいて0.3mm以上のひび割れが多発しています。調査等すれど有識者の方々は何も答えが出せてない模様です。
つまり、施工不良などはあとからでは闇の中です。世の中、判断できる人などいないのに、何を例外と判断できる有識者の方がいらっしゃいますでしょうか。
このような原則に対する例外の余地は事態を混迷させるのではないでしょうか。
■私の仕事は、明らかに施工不良と知りつつ大量の物件を世に出す会社の社員です。施工物件はほぼ100%、0.3mm以上のひび割れを多発させています。
たくさんのクレームはきます。専門家(建築士・教授含む)の方々も調査されます。
結果、施主様のお金が飛ぶだけで、この業界は施工不良をしても誰もわかりません。
私はいっそ、原則重視で施工プロセス管理を厳しくすべきと考えます。
それで100%0.3mm以上のひび割れはうちの場合なくなります。
原因は作っている側しか分かりません。
長くなり申し訳ありませんでした。ご返事頂ければうれしいです。
4.筆者の2回目の返事
本日頂戴しましたメールで、貴方様は建築関係のお仕事に従事されている方のようにお見受けいたします。私は土木関係のひび割れを対象に、経験に基づいて意見を述べていまして、建築関係のコンクリートにつきましては、当てはまらないと思います。
“すべてにおいて0.3mm以上のひび割れが多発しています”ということは、私の経験ではありません。この立場の相違の所為で、私の指摘が施工不良に基づくひび割れの言い逃れに利用されると貴方様は懸念されたのではないかと思います。失礼ですが、建築のコンクリートは土木のコンクリートに比べて伝統的に質的に劣っているように思っています。建築のコンクリートについて深く調査したり、検討したことはありませんので、所見を述べることはできません。悪しからずご了承ください。
なお、土木でもそうですが、施工だけでなく、設計(コンクリートの配合、調合を含む)にも、現場に無理を強いて、結果としてひび割れを誘発している面もあるように思います。
5.3回目のメール
メール有難うございます。
土木と建築でちがうのですね。失礼致しました。
では先生のHPでは”コンクリート”という言葉は”土木のコンクリート”と置き換えが必要ですね。すみませんでした。
おわりに
この方からのご指摘にあるように、拙文「コンクリート構造物に発生するクラックの評定について」では、特に土木のコンクリートのひび割れに関するものだと断っていない。筆者の専門が土木工学ということで、ご理解いただけるものと、勝手に思っていた。説明不足をお詫びする。本文がその補足にもなれば幸いである。なお経験のほとんどない建築のコンクリートに関しては、軽々にコメントできないと思っている。