試験的ライトSF?小説
「パラダイス・ソルティック」

2006/04/25〜 森宮 照
2006/04/25 14:10 第一話「湯船の中のリーラ」
2006/04/25 21:15 第二話「公園の中のリーラ」
2006/04/26 12:45 第三話「小さな家のリーラ」
2006/04/27 09:50 第四話「勇二と香奈恵とリーラ」
2006/04/27 17:30 第五話「揺れ動く、様々なモノ」
2006/04/28 16:00 第六話「勇二、窮地に立つ」
2006/04/29 20:50 第七話「日常は、それでも続く」
>ここでギブアップ(つ_T)



第一話「湯船の中のリーラ」2006/04/25 14:00

約10分ほど前に、俺は風呂に入った。
いつも先に入る妹から不満を言われつつ、ともかく早く何かを洗い流そうと思った。
自分の勇気の無さとか、意気地の無さとか?色々考えてるとしばらくして同級生の、
滝崎さんの姿がふと脳裏に。今日も昨日も一昨日も、もちろん告白は出来なかった。
湯船の中で妄想は果て無く、のぼせてくるのが解る。見た事も無い水着姿が眩しい。
なんか急に湯の量が増えた感じ、ちょっと膨張しているようだ。流石だ・・・俺の。
そして今、自分の前には裸の少女が、何だか一緒に湯船に入り、自分を見つめていた。
「やっと会えた・・・」
喜びで潤んだ瞳でジッと見つめられた後、何だか抱きつかれる。押し付けられる、
二つのそれと股間に当たる彼女のふとももの辺。善くも悪くも少し触って多分それで、
自分は意識を失った。見知らぬ全裸の、最後に聞こえたのは彼女の呼び声だったろう。
「ちょっとー!いつまで入ってるつもりなのよ?!・・・って、あれ?」
兄が1時間は前に入った筈の、返事のない風呂場を覗くと、そこには誰もいなかった。

やがて目を醒ました時、自分は何故か自分の部屋の、その天井を見上げていた。
のぼせた、それは解って、じゃあ何で自分の部屋に?そうぼんやりと考えた時、
自分が誰かの膝枕をされている事が解って、そして不意に上から少女がのぞき込んだ。
「大丈夫ですか?勇二さん・・・?」
心配そうなその顔に、すぐさま飛び起きて。ベッドの端に移動して、そこで自分が、
風呂に入ったままで有る事に気付き、慌てて毛布をたぐり寄せた。それで彼女の、
彼女も覆っていたその毛布は矧がれて、モロに見てしまったが、彼女は動じなかった。
「あの私、リーラと言います・・・突然で申し訳ない、とは思うんですけども・・・」
「な、何でしょう?」と、何とか腰の辺りだけ隠しつつ言うと、
それで始めて、彼女はなんだか全裸のままもじもじし始めて、やがて、
意を決した表情で、自分にずずいと言う感じで詰めよって、言った。
「あの・・・、お嫁に貰って頂けないでしょうか?私を」
それ相応に大きい、その胸の膨らみよりも目を引くその顔に拒絶と言う選択肢が、
完全に消去された脳裏にしかし、今だ手を繋いだ事も無い滝崎さんの顔が浮かび、
それでようやく制止の声は出た。拒絶じゃ無い、そこが情けないがともかく、
そんな時、部屋の戸を開けた妹の蛍美が、抗議の声を上げた後で、ふと黙った。
「お、おにーちゃんが女の人部屋に連れ込んでるー?!」
そして、なんだか絶叫に近い悲鳴?を上げて、階段を降りていった。
「説明するの面倒ですね・・・ちょっと良いですか?」
そう言った後、彼女は自分の手を掴んで。それで急にふわりとからだが浮いて、
僕ら?はそのまま、毛布一枚で、窓から春の夜空に飛び上がった。月夜に映える、
彼女の肢体とその笑顔と。浮いて飛んでいる自分は或いは春の夢を見ているのか、
ともかくただ、そんな彼女をぼうっと、見つめていた。


第二話「公園の中のリーラ」2006/04/25 21:00

「じ、事情は大体解ったけど・・・、ちょっと、服何とか成らない?」
場所は公園。その茂みの中。春と言ってもまだ寒い、筈なのに周囲は暖かく、全裸で、
平気な顔をしている彼女の前で、自分はやっとそう訴えて、彼女はやっと気付いた。
「あれ?寒いですか?えーとフィールドの温度設定どうだったっけ?」
「・・・いや、それはともかく、君達には服を着る習慣って無い訳?」
「え、えーあれ?何か間違ったかな・・・ねえリド」
そう言うと、彼女の隣にいつの間にか居た、何だか小さな小動物らしきモノが言った。
「家屋の中だったら間違ってなかったと思いますよ?場所的にも不自然ではないかと」
「それは絶対知識として何か大きく勘違いしている気がする!」
つい断言してしまい、一人と一匹に、素直に謝られた。
ともかく、彼女・・・リーラは地球人じゃ無い。M78星雲の一つ向こうの・・・、
まあ要するにもの凄い遠い場所から、「ホール」と呼ぶ異次元通路を開いて地球に、
主に観光でやってくる?いわゆる宇宙人らしい。しかし彼女の場合ちょっと事情が違う。
何でも結婚に反対されて家を飛び出したのだそうだ・・・そして、相手は僕だ。
「こんな感じでいかがですか?」
目の前でさっきのリドと呼ぶ小動物?と少し話した後、ちょっと風がふいたと思うと、
よく見ると濃いエメラルドグリーンの長髪がふわりと靡いて、彼女は服を着ていた。
服・・・と呼んで良いのだろうか。ともかくまるで体にペイントした様にぴっちりと、
多少スカートっぽいモノが付いている様な、そんな感じの、何だかさっきの理由が、
ちょっと解る感じの衣服。何だか目のやり場に困るが、ともかくその調子で自分も、
その小動物に適当な服を着せて貰った、確かに便利だ。
「でも僕、君の事知らないよ?3年前って・・・何処で会ったの?」
「人の姿でこっちに来る事は、実は許されてないんです。前も、違う姿でしたし」
「・・・え?」
「助けてくれて・・・お風呂にも、入れてくれたじゃないですか」
なんだか、それでちょっと顔を赤らめる。記憶を探る。そう言えば3年前だ、
野良犬に襲われてて、そこを助けて、汚れていたから風呂に入れて洗った・・・猫?
「思い出して頂けましたか?私、その時決めたんです!」
何だか嬉しそうに言われて。とは言っても!とか言葉を続けようと思った時に。
「そいつですか、お相手というのは・・・。お父上が嘆く筈ですな、困った姫君だ」
その声の方を向くと、闇の中から犬が一匹現れて、そして、人の姿に変わった。

黒い猫がその扉をコンコンと叩くと、やがてその扉が開いて、猫を部屋に招いた。
扉には「ノックするべし 香奈恵」と書かれていて、部屋の中には一人の少女が居た。
「どうだった?ヤエカ」
滝崎 香奈恵、そう言う名前の彼女が猫に尋ねる。猫はその場で”答えた”。
「もうちょっかい出して来る事はないと思います。全くこんな面倒な事しないで、
さっさとケリをつけちゃえばいいのに。簡単でしょう?地球の男なんか・・・」
「そう言う問題じゃないの!地球には地球のやり方が有るんだから・・・」
とか言いつつ、なんだか溜息を少しする。机の上に猫はぴょんと飛び乗った。
「所で、さっき遮蔽フィールドが近くで発生してたみたいですけど。心当たりとか?」
「え?聞いてないけど・・・観光者かな。でもこんな所に観光に来るなんて、暇ねぇ」
彼女はなんだか自嘲気味に、ちょっと笑った。

公園の林の中、自分は奇妙な状況に立たされていた。多分それは三角関係とか、
多分そう言う筈だが、相手は犬で、彼女は猫だった。ともかく今は人の姿だが。
「あ、貴方は・・・、・・・ええと・・・」
「ストラド・ノワール。貴方の婚約者ですよ、もうお忘れですか?」
「勝手な事言わないで下さい!貴方一昨日、急に会いに来たばっかりでしょう?!
エリーにもメアリーにもリサにも振られたくせに!所で父から借りてた借金、
もう返したんですか?!たまには利子くらい入れなさい!!」
3回くらいギクリと言う文字が彼の顔の周囲に浮かんだ気がするが、
ともかく彼は脂汗を流しつつも笑みは絶やさなかった。とりあえずハンサム、
そうは言って良いのかも知れないが、発言内容は、ちょっと格好悪かった。
「ともかく!連れ戻せれば婚姻の件考えない事もないとの仰せですよお父上はね!」
「余計な御世話です!誰がそんな借金抱えた放蕩息子の所へなど嫁ぐモノですか!!」
虚勢の裏に下心が見え隠れする彼の発言と、絶対的に埋められない彼女との溝と、
ともかく滝崎さんへの片思い中だとしても、自分がどっちを味方するべきかはまあ、
この時は考える余地は無かった。無かっただけだが、つい言ってしまった。
「彼女が嫌だと言っている。連れ帰るつもりなら、俺はあんたの敵に廻るよ」
後ろで嬉しそうに自分の名を呼ぶリーラの声と、不敵な笑みを浮かべるノワールに、
自分はなんてお調子者なんだろう?と後悔したが、ちょっと遅かったかも知れない。


第三話「小さな家のリーラ」2006/04/26 07:00 上

月が見事なその夜に、しかし多分不自然に、その公園には人影が見えなかった。
或いはリーラの言う「フィールド」と言う奴の力かも知れない。相手の男・・・、
ストラドと言う長身のマント野郎も、状況の不自然さからすると馴染んでいた。
「小僧・・・、自分が何をしているのか解らないのか? ・・・ラト」
それで、彼の肩口に現れた、翼の生えたトカゲ?の様なそれが答えると、
ごうっと言う音と共に、彼は黒鉄色に輝くいかつく威圧感のある鎧を纏っていた。
「見よ!我がノワール家に代々伝わる、これが武神具”ライストリュゴーン”だ!」
なんで漢字やねん?とか、現場の当人で有りつつもついツッコミが心の中で、
しかし状況がそれを許さない雰囲気だったので口には出せなかった。リーラが、
「卑怯でしょう?!男ならそんな物に頼らず正々堂々と生身で戦いなさい!」
所で戦うの僕ですか?とか、もちろんそれは口には出せなかった。ふと肩口に、
角のあるリスのような?リドが飛び乗って。ストラドがずいと一歩前に出る。
「そのつもりなら、こちらも然るべき事はします!やりなさいリド!!」
リーラの声と共に、リドが小さく鳴いて。それで自分の周囲に風が巻き起こって。
ふと気付くと自分も、何だか・・・ライストリュゴーン?それより質素な感じの、
なんだか蒼い鎧を着ていた。いつの間にかヘルメットも。目の前で”敵”を捉え、
表示される数値が踊る。アルファベットと数字は宇宙的に共通なのだなと、妙に。
「頑張って下さいね、勇二さん!」
ともかく異論は挟めない感じで見つめられ、諦めて、僕はストラドの方を向いた。
バイザー越しで、相手の表情は見えない。ともかく強そうだが、選択の余地はなく。
「こうなったら!!」
僕は、相手に向かって走り出した。体が軽い、鎧の効果?ともかく自分は拳を握り、
相手の顔を目掛けて叩き込む。ストラドの手が直ぐに動いて、拳を捕まれた。
・・と思ったが、そのまま、口元に笑みを浮かべたストラドの顔に、相手の手ごと、
拳は叩き込まれた。ゴン!と鈍い音がして、なんだかぷしゅーっと言う音がして、
彼はそのまま、ゆっくりと仰向けに倒れた。ばたっと言う音がして、やがて、
ヘルメット部分がさっきのラト、と言う小動物に変わり、彼?は痛がりつつ、
主人を呼び掛けたが、命に別状は無さそうだったが、返事は無かった。
「ど、どうもすいませんリーラ様。直ぐに連れて帰りますから・・・」
ぺこぺこ頭を下げつつ、やがて背後に真っ暗?な何かが開いて。ラトが苦労しつつ、
ストラドはともかくそう言う感じで暗闇の中へ消えていって、扉はやがて閉じた。
「ありがとうございます勇二さん!守ってくれたんですね?!」
何となく違う気はしたが、やっぱり、異論は挟めそうに無かった。

「どういう事なのか説明しなさい!」
「今説明しただろーが!!」
とか、ともかく大橋家(要するにウチだ)の居間では一悶着が起こっていた。
おろおろする父親、目をつり上げる母親、何だか羨望のまなざしの蛍美を前に、
もう一度同じ事を要約して説明する。彼女は宇宙人で、父親に反対されて家を出て。
「そんな年端も行かない女の子にそんな事して!どう責任取るつもりなの?!」
「か、かあさん、落ちついて」
「貴方は黙ってなさい!大体貴方が勇二をそう甘やかすからこんな・・・!」
「もう・・・しちゃったんですかぁ?」
とか、最後に蛍美の面白そうな問いで、ちょっと何だかリーラは顔を赤らめて、
その後誤解が六回程ループして約1時間後、ともかく居間は、やっと落ちついた。
「・・・まあ、ともかく今日の所は、蛍美の部屋で寝てもらうって事で」
「えーあたしの部屋じゃ二人寝れないよ?」
「あ、一応家は”持ってきてますから”、別に勇二さんの部屋でも」
「その辺については、後で親御さんを交えてお話したいけど。ともかく我が家で、
そんな不純な交際をさせる訳には行きませんから・・・解っていただけますね?」
母の雅美からにっこりと言われて、俺は理解したが、リーラは言い返した。
「私はそんな不純な交際なんかしてません!!」
女って強い、ととにかく思ったが、今は蛍美に彼女を預けて、そこでふと気付いた。
「・・・所で、家を”持ってきてる”って?」
「はい。ミニチュアハウスが有りますから」
と言うと、リドが口からぺっと、小さな家を吐き出した。それに触れると、
リーラの姿が見る見るウチに小さくなって、ちょうど、その家と同じスケールに成る。
「ありゃ・・・、お人形さんみたい」
とか正直な感想の後、蛍美はそれを持って、何だか面白そうに部屋に消えていった。
父の啓介が、なんだか自分の肩をぽんっと叩いて、何故か二人で、少し微笑んだ。

「聞いた?三組の太田、転校するんだってさ」
「あーあいつ?香奈恵にちょっかい出してた奴でしょ?バカよねー」
「ちょっと、人聞きの悪い事言わないでよ〜」
東野西高校の二階、2−4の教室、朝の始業前の一時。友達とそんな談笑中に、
入り口から大橋 勇二が入ってくる。香奈恵がちょっと横目で見ると、どうも表情が暗い。
香奈恵の方をちらっと見て、直ぐに気まずそうに視線を逸らす。あれ?と思った、
そのウチに教室は生徒で埋まって、やがて担任の先生がやってきて、HRが始まる。
後ろの席に座る女子達が小声でおしゃべりしていて。何故かふと、大橋君の話題に。
「あーそう言えばね、クラブの後輩が言ってたんだけど・・・。大橋君さ・・・、
なんか別の高校の女の子と今、同棲してるらしいよ・・・?」
よく考えるとあり得ないのだが。香奈恵はそれで、シャーペンをへし折った。


第四話「勇二と香奈恵とリーラ」2006/04/26 21:10上

「それで?つまり失敗した、という事か?」
冷ややかな口調だった。いつもの口車は通用しようも無い雰囲気のままストラドは、
しかし気を取り直して、皆が「王」と呼ぶ人物に、出来るだけ真剣な顔を向けた。
「あんな鎧を持たせる方がどうかしていると思いますが。勝てる訳がない!」
「誰も勝てなどとは言っていない!・・・ともかく今日は下がれ、疲れた」
玉座に座りながら、何となく額に手を当てて言う。ストラドが退出してから、
その広く豪奢な謁見室で、ヘラクス王は隣に座る皇妃のフィーラについ愚痴を言う。
「あんな奴しか居ないのか?」
「一応それでも、この付近では有力者の息子さんですよ、口は慎むべきです」
「そうは言うが・・・、毎日毎日金の工面の話ばかり、おまけに・・・!」
「リーラも年頃ですからねぇ・・・。まあ、気持ちは解らない事も無いけど」
「そんな何処の馬の骨ともわからん奴に!嫁になどやれるモノか!!」
「なら、そのリーラの選んだ人というのをご自分で確かめてみたらどうです?
最新鋭の武神具”ライブラ”だったとは言え、リーラを守ったのでしょう?」
それで、ヘラクスはむっすりと黙った。フィーラが少し肩をすぼめてから、
老いた執事が次の謁見者を告げる。その人物はやはりリーラの求婚者だったが、
それでヘラクスは、少し面白そうな顔になった。

「なんであんな女があの家に居るのよぉ?!誰なのよこの人ー!!」
と、香奈恵は一人部屋の中で、ヤエカが撮ってきたビデオを見て、つい叫んだ。
母の雅美と何だか親しそうに会話をしつつ、玄関の掃除とかしていて。
それでふと嬉しそうな表情に成ると、そこに勇二が帰ってくる。なんだか困った、
そんな表情の勇二と共に家の中に入り扉は閉まる。ビデオはそこで終わった。
「一歩リードされちゃいましたかねぇ・・・。だから言ったのに・・・」
「うるさいバカ!!ヤエカなんか嫌いもー!!」
とか、その黒い猫を涙目で座布団で叩こうとする。ひょいと軽く交わされてから、
ヤエカが空中でひらりと一回転すると、それでぽんっ!と言う音と共に、
何だか香奈恵よりも少し年上らしい女性の姿に成った。歳は二十歳位だろうか?
「まあともかく?早いところ何とかしないと行けませんけど、コクりに行きます?」
「・・・いやあの、それはちょっと・・・」
なんだかもじもじしている香奈恵に面白そうに溜息をしていると、香奈恵が急に、
ヤエカの方を期待のこもった表情で見つめた。何だか少し、嫌な予感がした。
「ヤエカだったらさ・・・、地球の男なんか簡単にオトせるよね?」
「ああ・・・、いや、それはどーかなぁ・・・。まあ、やってみます?」
「お願いするわ。ともかく!浮気オトコにはしかるべき痛みは与えないとね!」
何か根本的な接点が欠けたまま、決意の香奈恵はビデオで、見知らぬ美少女と、
何だか照れくさそうにしている勇二を見つめつつ、そう断言した。その頃、
その家の一階では、老夫婦が茶を啜りながら、二階の騒ぎ?にふと呟いた。
「香奈恵が来てから、家がにぎやかになっていいねぇ」「ほんにねぇ」

「とは言う物の・・・」
猫の姿で、ヤエカはとぼとぼと歩く勇二を見ながら呟いた。民家の塀の上、
特に悪い奴と言う事も無く、今の所は香奈恵お嬢様の一方的な片思いに過ぎず、
彼もまんざらでは無さそう。彼のプライベートを探る事は許されていないが、
特に付き合っている女性がいると言う訳じゃない、或いは両思いの可能性も?
「ともかく、ちょっと調べる必要は有るかな。あーあ、めんどくさい」
猫はそう呟いて、彼とは反対方向に塀の上を歩いていった。

「おーいゲーセン行くぞ・・・って、何溜息ついてんの?」
何だかどんよりとした1日が終わり、掃除の時間。箒を手にふと黄昏る勇二に、
隣の組の頼斗が声を掛けた。同じ帰宅部仲間、他にも数人いる。不良の溜まり場、
と言うかダメ人間の吹き溜まりと言うか?そんな認識でいる勇二に頼斗が言った。
「・・・そう言えば、太田転校したねぇ」
何だか、ギクリとしてみる。
「バカだよなぁ、手を出す相手は選ばないとさぁ。ま、身の程知らずって奴?」
滝崎 香奈恵は、入学当初から話題になる程の美少女ではあったが、同時に、
只の女子高生でも無かった。両親は何でも重機メーカーの取締役、本物のお嬢様、
声を掛ける男は多かったが、その誰もが今の所、今回の太田の様な末路を辿っていた。
しかし、理由は誰も語らない。ともかく憶測として「ヤクザと繋がりがあるらしい」、
それが定説に成って今に至る。ともかく、高嶺の花で有る事は間違いなかった。
「ま、諦めろ。庶民は庶民の暮らしを守らないと行けないんだ」
箒を握りしめて、自分は少し泣いていたかも知れない。

「・・・なのに何でこういう事は有るかな」
シューティングゲームでステージクリア後のデモを眺めつつ、溜息。ボスを倒して、
囚われのお姫様が駆け寄ってくる。考えたらあり得ない程の幸運ではないのか?
ゲームセンターはにぎやかで、始めてエンディングを見れて喜ぶ頼斗を横目に、
それでふと、勇二は自分を見つめる視線に気が付いた。高校生じゃない、何だか。
「・・・あいつか?全く相変わらずというか。野良が好きだね、リーラは」
そう呟いた彼を見つめる、黒い猫がその後ろには居た。
「あらま、ライザー家の息子さんじゃない・・・。また何でこんな所に?」
猫は面白そうに、そう呟いた。


第五話「揺れ動く、様々なモノ」2006/04/27 13:50上

「リーラちゃーん、お茶にしましょーか?」
「あ、頂きますー」
雅美がミニチュアハウスに声を掛けると、扉を開けて人形サイズのリーラが出てくる。
一歩玄関の外に出ると、それで直ぐに元のサイズに戻った。居間でTVを見つつ談笑。
「ご両親の方には連絡したの?」
「一応・・・。でもメールで送っただけなので。どうせ返事は解ってますから」
「そーかぁ。でも、ウチのあんなのでホントに良い訳?」
なんだかそれで、照れて黙る。美人で可愛く気だてが良くて、ああ勿体ない。
「そう言う事なら、おばさんも協力しちゃおうかなぁ。ともかく長く居るんだし?
早く学校の方、転入の手配をしないとね。・・・16才で良いのよね?」
「はいっ!」
何だかすっかり仲良く成って。リーラも安心しつつ地球のお茶を啜る。
驚くほどの順応の速さで勇二を除く大橋家は彼女を受け入れてしまって、
ふと庭を見ると草木が風にそよいでいた。仰々しい元の生活には無いゆとり感。
「ああ、落ちつく・・・」
ともかくそろそろ学校が終わる頃。傍らで、リドがセンベイを食べていた。

「な、何か・・・御用でしょうか?」
ゲームセンターで約八分に遊んだ後、最近のゲームに付いてあーだこーだと談義、
しながら歩いていて、人通りが少なくなったそこで何故か五人の・・・大学生?らしき、
私服の連中に二人は囲まれていた。リーダーらしき男、”雰囲気は”見覚えが有る、
似ているだけだが、同じ奴かと思ってしまったそいつが、余裕の笑みで語り始めた。
「リーラって子・・・知ってるよな?お前」
・・・やっぱり。
「だ、誰?」
「いや・・・何というか・・・。巻き込んですまないとは思うんだけど・・・」
狼狽える頼斗に説明しようと思ったが、その前にそいつが言った。
「おめーにはかんけーねーよ。帰って良いぜ?居るつもりなら容赦しねーが」
頼斗はそれで、こそこそと帰っていった。この状況では・・・多分賢いとは思う。
「ストラドの・・・仲間?」
「あんなヘタレと一緒にするなよ。ま、用件は一緒だがな。・・・リーラにさぁ、
家に帰るよう説得してくれね?言うとおりにしてくれたら特に痛くはしねーから」
周囲を囲まれて、異様なプレッシャーに脂汗が出る。災難だが・・・しかし。
「・・・嫌だと言ったら?」
「うん、よく言った」
その女性の声で、全員がびくっ!としてそっちの方を振り返る。背が高く、
ズボン姿の、色の黒いポニーテールの女性が、にこやかにこっちの方に歩いてくる。
「しゃ、遮蔽フィールド・・・効いてねえのか?」
「まあ・・・お仲間って奴?あんまり感心しないなーそう言う事は。
現地の人に迷惑掛けたら強制退去&罰金罰則。知らない訳じゃないよね?」
「は!安っぺぇなぁ。流行らねぇぜ?今時そう言う安直な正義感ってのは!」
それで彼らは、相手が女性で有ると言う事を無視して、自分と彼女の周囲を囲んだ。
でも彼女も・・・この時ヤエカと言う名は知らないが・・・、なんだか、微笑んでいた。

・・・始めに、回し蹴りが一人の横っ面をはり倒した。
そのまま回転を止めず飛び上がって、隣の男がそれで蹴り倒されて。
慌てて掴みかかってきたその一人を受け流し、背負い投げてから。
目の前に居た一人の顔を3回ほど殴って、その後で蹴りを叩き込んだ。
多分、20秒も掛からなかったと思う。ともかく僕は、それで窮地を脱していた。
「・・・で、どうしようか。デヴィ・ライザー様?」
そのにこやかな問いかけに明らかにギクリとして、そのデヴィと呼ばれた男は、
周囲の男達を連れて・・・またあの”扉”だ、空間に黒く開いた穴に消えていった。
男達が消えると、それで気付く。周囲に喧騒が聞こえて。多分「遮蔽フィールド」、
その効果が無くなったからだ。御礼を言おうと思ったが・・・、よく考えると。
「あの・・・、し、知ってる連中なんですか?」
「いや知ってるっていうかね、”あっち”じゃ、割と有名な奴よ。
まさか地球に来てるとは思わなかったけど、まあ事態が事態だからかなぁ」
自分より、少し背は高い。見上げる感じに成るが、その前に彼女の方が、
少し屈んで、自分の顔をのぞき込んで、何だか苦笑される、急に自分が子供だと思えた。
「所で、押し掛けてきた美少女と可愛い同級生とこのお姉さんと、どれがいい?」
ちらっと後ろの方を見た、そこに変装をしてカメラを持ち、何だか怒った顔の香奈恵、
その姿が有ったが、ともかく今の自分はそれどころでは無く、それは気付かなかった。
しかし、自分が目前に有る胸の張り出しにドキマギしていると、携帯の音?がして、
「はいはい・・・ああ、やっぱり辞めます?ええ、解りました・・・。
・・・ま、そう言う事だから。後は気を付けて帰りなさいね?」
そう言い残して、なんだか良く解らないままその人は人混みの方へと歩いていった。
ぼーっとしていると、頼斗が警官を連れてやってくる。随分探したと抗議されたが、
説明するのも面倒だし自分も良く解っていないので、ともかく、警官には礼を言った。
「やりすぎるなっていったでしょお?!」
黒い猫に戻ったヤエカを抱きながら、香奈恵は歩きながら抗議した。猫が苦笑する。
「別に良いですけどね。でもちょっと強敵ですよ?悠長に待ってていいのかしら」
「まさか・・・、なんであのヘラクス王の一人娘がこんな所に・・・?!」
香奈恵にとってそれは全く予想外の事態だった。唯一の、自分の優位さが・・・!

「お帰りなさいませ勇二さん。遅かったですね?」
リーラの笑顔で出迎えられる。まともに顔を直視できないまま、一緒に家に入る。
なんだか、どんどん滝崎さんとの距離が遠くなっていく様ななんだか違うような、
ともかく明るい大橋家のその日の食卓の中で、勇二だけが複雑な顔をしていた。


第六話「勇二、窮地に立つ」2006/04/28 11:10

「・・・ああ、解ってるようるせーな・・。やってねーって言ってるだろ?!
 とにかくリーラ連れ帰ればいいんだ、オヤジが口挟む様な事じゃねーよ!切るぞ」
相手の制止の声を無視して、デヴィは乱暴に携帯の格好をした超次元通信機を切った。
相手のコール番号を着信拒否にした上で、面白く無さそうにグラスを煽る。地球産の、
”それ”は彼のお気に入りでは有ったが、今は正直旨いとは思わなかった。周囲の、
ヤエカに殴られた傷が痛々しい取り巻きの、不安げな顔で更に煽る。一人が呟いた。
「やべーっすよ・・・、顔バレてるみたいだし・・・。チクられたら」
「心配すんな、ならあの女だって同じだろ?まだオヤジの方には伝わってねーし。
それにリーラのオヤジだって、こんな話表沙汰にしたくねーんだよ。だから」
デヴィがヘラクス王に謁見した時、決して好意的ではない顔の彼から提示されたのは、
リーラは地球に好きな奴が居るが、お前はリーラを諦めさせる事が出来るか?だった。
もちろん「問題を起こさずに」と言う条件は付いているが、彼は余りその辺は、
重要視していなかった。傍らに座るヘビ状の守護僚獣「ウィド」を、少し見る。
「見てろよあの野郎・・・。リーラの前で叩きつぶしてやる。そうすりゃ・・」
ウィドが答えるように、鎌首を上げた。

「が、学校に連れてけって・・・何で?それに今日、日曜日だよ?」
「リーラちゃんも、再来週の月曜日から同じ学校に通うの。下見に連れてきなさい」
「け、蛍美にさせれば良いだろ?!」
「あんたって子は!とにかく連れて行きなさい、お昼は外で食べてくるのよ?!」
と言う母親との会話の後、地球人っぽい衣装を着たリーラと勇二は、二人で仲良く?
日曜日の学校の前に来ていた。日曜日と言っても、部活動やらなにやらで人はいる。
これでは蛍美が言い触らした末に尾鰭の付いた噂話が現実に成ってしまう様な気が。
香奈恵さんにも、もう伝わっているのだろうか?辺りを見回す。鈴の付いた黒い猫が、
何だか喜んで学校を見上げるリーラの向こうを横切っていった。不吉な予感がした。
「ここが、勇二さんの通う学校ですかー」
「そう言えば・・・向こうの学校の方は、良いの?」
リーラが少し困った顔で笑う。ブラウスとスカートと。春の風に靡き煌めく緑色の髪。
「良くはないんですけど。でも普通とは少し違う学校ですから、良いんです」
彼女の話をそのまま信じるなら、彼女らが「エヴァンス領宙域」と呼ぶ星団の中で、
ヘラクス・ディ・エヴァンスと言う・・・つまり彼女の父親・・・が事実上の皇帝、
その一人娘である彼女は、第六期修了生、地球で言う中学生の頃から毎日のように、
”将来の相手”の話ばかりされていた。気晴らしに遊びに来た地球で、勇二と会う。
「別に帝政と言う訳じゃ無いから、私の夫に成る人が皇帝に成る訳じゃ無いのに、
毎日毎日この前の人みたいな奴ばっかり会いに来てて。ああ楽しみだなぁ・・・!」
勇二に笑ってまた学校の方を見る。心がぐらっとした途端、何か背筋に寒気を感じた。
勇二がばっ!と周囲を見回した時には、香奈恵は既に陰に隠れていた。手持ちの、
ヤエカの鈴から伝わってくる映像を苦々しげに眺める。こ、この浮気者・・・!!
とか理不尽に思っていると、画面が有る一点を凝視して止まる。香奈恵も気付いた。
「・・・よう。こないだは世話になったな。久しぶり、リーラ」
学校の校門を少し入った所で。二人の周囲からあの、剣呑な連中が姿を見せた。
一応、リーラの知人らしかったが、とても求婚者とは思えなかった。リドが威嚇の声。
「デヴィ・・・!何の用ですこんな所まで。私は帰りませんよ?
それに、私の名を呼び捨てないで下さい。不快です」
「良いのかなぁそう言う事言ってて。・・・お前もさ、リーラの前で痛い思いとか、
そう言うみっともない真似とかしたくないだろ?今日はこないだとは少し違うぜ?」
三回目、勇二は環境の変化に気付いた。人が不自然に居なくなる。遮蔽フィールド!
「キャンセラー持ってない限り、地球人が入ってくる事はねえし。
ここじゃ何をされてても助けはこねーよ。・・・やるぞ」
周囲の連中に目配せをするやいなや、男達四人の周囲で次々に風が動いた後彼らは、
赤い、あの武神具と言う姿に成った。最後にデヴィが笑みを浮かべて、変身する。
「”ロウディガン”か・・・。ちょっと五人じゃ荷が重いかな、どうしよ?」
遮蔽フィールドの外、一見見えなくなった彼らの姿を透過ゴーグルで覗きながら、
おろおろしている香奈恵の側で、ヤエカはちょっと困った感じに、そう呟いた。

「下がってリーラ!ここは僕に任せて!」
「勇二さん!!」
「いくぞ!変身!!」
・・・とか、ここは言うべきだろうか?とか勇二が訳の分からない事を考えていると、
リドが勇二の肩に飛び乗った。連中がにじり寄って、リーラが怒った口調で言った。
「あなた方のような人に!勇二さんがやられるモノですか!やりなさいリド!!」
勇二が少し諦めて目を瞑った一瞬、リドが鋭く啼いて。勇二の周囲で風が起こると、
刹那の後目を開けた時、既に彼は蒼く輝く武神具を身に纏っていた。周囲の男達が、
それで少しどよめく。びっくりした顔の香奈恵の隣で、ヤエカが少し笑みを浮かべた。
「”ライブラ”か・・・。どうかな、使いこなせれば・・・」
「ゆ、勇二君が・・・。か、勝てるの?」
「さあ?でもスペックだけなら、ロウディガンで勝てるスーツじゃないんだけど」
それで香奈恵は再び、”ライブラ”を纏った勇二を見つめた。そもそも武神具同士の、
そう言う戦いを見るのは正直始めてだった。なんだか勇二君が、違う人の様な。

「お前、状況解らないのか? 一人で俺達全員と相手しようっての?」
多少強がる口調で、しかし嘲笑気味にデヴィは言う。つい勇二はリーラに聞いてみた。
「所でこの鎧って・・・、強いの?」
「いやあの、私そう言う事は全然詳しくなくて・・・。ともかく、一番新しいから」
ともかくこの前、ストラドの鎧は一撃?で倒した実績は有る・・・、まあ使い方次第?
気を取り直して前を見る。バイザーに映る連中と、それを様々マークする何かの印。
リーラが下がって、勇二は鎧の男達に囲まれる。剣呑さが増していく、デヴィが嗤う。
ふと警告音がして、左の鎧男の右腕に、赤いマークと何かの線が数本表示されて。
その直ぐ後にその男が勇二に殴りかかってきた。2本目のライン、立体表示のその、
「線を避けるように」勇二が身をそらすと、その男の拳は虚しく空を切った。
続いて左腕にマークとライン、左に、そう”思っただけ”で体が動いた・・・あれ?
何だか・・・。何回か繰り返される攻撃を、何故かことごとく交わしながら考える。
降り注ぐ敵弾の嵐、間一髪で交わす感じ、少し笑う。すると相手の胸の辺に不意に、
青いマークが点滅する、弾幕がとぎれた瞬間、彼は”稼ぎ行為”は好きじゃなかった。

ボタンを連打する感覚で、両手の拳がその胸元に数発叩き込まれた。最後の一発は、
少し力を込めて。それで一人は吹っ飛んで動かなくなった。中ボス一人撃破?
そう思っていると、それで直ぐ残りの3人が一斉に襲いかかってきた。でも”弾”は、
発射される前に発射地点と弾道がバイザーには表示されてて、体は自分の体じゃない、
まるで使い込んだ対戦ゲームのプレイヤーキャラクタ、その位に今は良く動いた。
蹴りを交わし、唸る拳を避けて、隙を見ては、青く表示されるポイントへと攻撃する。
大振りが多く、隙が多い、対戦慣れしてないな?勇二がゲームセンターで良く会う、
「ちょっと違う自分」がそこにいる。二人目を蹴り飛ばし、3人目は放り投げて、
笑って勇二は、そして目の前の一人に思い切り拳を叩き込んだ。バイザーが砕けて、
それが最後の一人だった。一人残ったデヴィが叫んだ。
「ちょ、ちょっと待てぇ?!」
ゴーグルを凝視しながら、香奈恵は唖然とした顔をしていた。ヤエカが言った。
「人間、何か特技は有るモノなのねぇ・・・」
リーラが何か、嬉しそうに自分の名を呼んでいるのが聞こえた。何だか少し違う気が、
でもともかく今は最後の一人を倒さないと。勇二は狼狽えるデヴィに向かって走った。
なんでこんな事してるんだろう?とは思いつつも、でもデヴィは逃げようとしたので、
つい悪魔が囁いた。足下に力を込める、それで体は飛び上がった。ああ、なんか。
デヴィの背中に勇二の蹴りがまともに入って、デヴィはそのまま吹っ飛ばされた。


第七話「日常は、それでも続く」2006/04/29 10:50

勇二の、”ライブラ”の蹴りをまともに背中に受けたデヴィのロウディガンは、
防御シークエンスが間に合わないまま、そのまま一回地面に叩きつけられた後、
跳ねて、学校の側面に叩きつけられた。遮蔽フィールドは効いているが範囲外は、
建物が揺れて。地震か?と窓の外に顔を出した人々に、でもその様子は見えない。
人々は遮蔽フィールドの周囲を”無意識で迂回”しつつ、ふと地震?と足を止める。
大ボス撃破、ステージクリア?勇二がそう考えていてふと気付いた、遮蔽フィールド、
それが切れたらどうなる?慌てていると不意に、日常の雰囲気に戻る感じがした。
「ちょ、ちょっと待って?どうやって解除するんだこれ?!」
自分の周囲で倒れる5人、そして武神具を着ている自分。特撮の撮影で通る、
とはちょっと思えなかった。嬉しそうなリーラに聞こうとするが、聞いてなかった。
・・・でも遮蔽フィールドは、まだ効いていた。張り直された?そんな感じがして、
そこにやがて、人が現れた。
「やれやれ、派手にやったもんだ。後片づけが大変だなこりゃ」
その男性の格好は、リーラ、彼女と始めて会った時のそれと似た感じの姿だったので、
直ぐに宇宙人である事は解ったが、でも敵意は無いらしく、勇二を見て笑顔に。
彼の周囲を漂うタコの様な?クラゲかも、ともかく多分リドと同じ”それ”が4体ほど、
ふよふよと勇二が倒した連中に近づいていって、持ち上げる。リーラが声を掛けた。
「あの、どうもお久しぶりです・・・、ラディア公」
「ええ、お久しぶりですリーラ姫。お元気でしたか?おてんばに成られましたねぇ」
それでラディア公と呼ばれた青年が苦笑して、リーラも顔を赤らめる。30代位?
ともかくリーラの知り合いらしく、そして敵では無いらしい。リドが武装を解く。
「この件に付いては、後片づけを仰せつかりましてね。ヘラクス王としては、
何らかのお考えあっての事だろうとは思いますが。ともかく地球人に迷惑は掛けるな、
リーラ様への御伝言はそれだけです。・・・後、君?勇二君だったかな」
「な、何でしょう?」
急に話を振られて、勇二は焦った。ラディナは気楽な表情で苦笑していた。
「今回の様な連中が、これから沢山来るから。僕は何もしないが、ま、頑張ってな」
そう言うと、デヴィを抱えて二人に挨拶した後、開いた”扉”へ5人と一人と4体は、
静かに消えていって、やがて”扉”は閉まった。それでやっと、日常の空気になった。
「た、沢山来るって・・・ちょっと・・・」
「勇二さん!!」
勇二がちょっと立ちすくんでいると、そこにリーラが嬉しそうに抱きついてくる。
はっ?!と気付いた時、遮蔽フィールドの効果が途絶えた周囲では何人かが自分を、
いや二人を面白そうに見ていた。慌てて帰ろう!とした時、校門の外に女の子が居て。
「いやー!不潔よー!!」
とか、何だか泣きながら、見知らぬ?その人は走って消えていって、その後ろから、
黒い猫が後を追い掛けていった。なんでやねーん!!と思う隣で、リーラが言った。
「なんで不潔なんですか?失礼な人!!」
なんかちょっと違う気がするー!とか、心の中で勇二は叫びつつ、とにかくリーラの、
その華奢な手を引いて、ちょっと戸惑うリーラを連れ、彼はその場を直ぐ逃げ去った。

結局その日は、外で食事もせずに二人は帰って、今日は珍しく家に居る蛍美に、
「なんだつまんない」とか感想を言われつつ、勇二はリーラを蛍美に預けて、
一人部屋に戻った。どっと疲れが出て、彼はベッドに横になった。ぼんやりと、
今日の自分を思い出す。武神具を使って、5人と戦った。相手を思い切りなぐって。
強くなった訳じゃない、武神具の力、それは解っていたが、何だか拳を少し握る。
そこでコンコンと、部屋のドアをノックする音がする。自力では開けられないと、
そう言う声の主はリドだった。扉を開けると、足下をすててーと走って、イスに。
「リーラ様から、様子を見てこいと言われまして。心配しておられますから」
「・・・まあ、気分は悪くないけどね。なんだっけ、あの鎧?」
床に胡座をかいて座りながら、ちょっと苦笑気味にリドに尋ねる。
「アレは”ライブラ”と言いまして、エヴァンス領宙域陸軍での新型試作武神具です。
勇二様に相応しいものを、と言う事で。リーラ様の計らいで特別に私が融合しました」
「・・・勝手に持ち出したんじゃないの?」
「まあ、そうとも言います」
リドは素直にそう認めた。肩をすくめつつ、勇二はちょっと苦笑する。
なんだか訳の分からない話になった。リーラの求婚相手を、とにかく何故か自分が、
あの武神具を使って撃退しなければならない。役どころとしては悪くないとは思う、
ちょっと理由は情けないがライブラは強力。アレを使えるなら誰が来ようと負けない、
なんだかそんな自信さえ。それにあんな綺麗なお姫様を、自分が守って戦うなんて!
こんな燃えるシチュエーションが有るだろうか?
「困ったなー・・・・」
不思議そうな顔のリドの前で、勇二は香奈恵の顔を思い出して、ふと溜息を付いた。

「まーとにかく、リーラ様の方も事情が有りますからね、しょうがないかと」
「しょうがないって言われても!一緒に暮らしてんのよ?若い男女がそんな!!」
その日の夜、香奈恵の家の、ちょっと広めの風呂場。体を洗いつつ言うヤエカに、
湯船の中で香奈恵が抗議する。地球に来て、もはや二年目。これでは何のために!
「だから、早く自分から言ってしまえば良いと」
「・・・ヤエカには私の気持ちなんか解らないわよーだ」
「そうですか?」
香奈恵の前に、ヤエカの大きな胸がある。なんだか溜息を付いているとヤエカが促す。
風呂場から出て背中を洗って貰う。鏡に映る自分の姿、何だかちょっと貧相に見えて。
「・・・胸が大きければ良いってモンじゃないわよっ!」
「その意気ですけど。ともかくこのままだと不味いんじゃないですか?」
「どーしよう・・・、やっぱコクらないとダメ?」
「どうでしょう?」
急に弱気になる香奈恵に、ヤエカは少し微笑んだ。

蛍美が部屋の電気を消して、リーラはミニチュアハウスの玄関で蛍美に挨拶して、
それから、部屋の中に入った。ミニチュアハウスの中は12畳程の個室。大きめの、
そのベッドに潜り込んで。ライブラで戦う勇二の姿を思い出しつつ、何だか笑う。
「このままあの人達全員、勇二様がやっつけてくれたら良いなぁ・・・」
ミニチュアハウスの、その外ではいつものように、リドが丸くなって寝ている。
やがて瞼が重くなり、リーラはすやすやと、寝息を立て始めた。