「ネズミが居る部屋」
 ふと思い付いて考えた、奇妙な幽夢の様な話

2009/12/27
森宮 照


 女性にとっては、その部屋の中が全てだ。

 彼女が目を醒ました時、そこは小さな部屋の中だった。その女性は随分長い事、この部屋の中に居る。部屋の外に出た事は、記憶の中には無い。出ようとした事はある、部屋の外から、呼び声が聞こえたからだ。

「外に出ませんか?楽しいですよ?扉を開けて下さい」

 親しげなその声に、女性はつい気を許した。少し話をして、信用して。部屋の扉をちょっと開けた。部屋の外は真っ暗で、そしてそこに人の顔?が浮かび上がった。恐ろしさに叫び声を上げて、部屋の中に逃げ込むが。その怪物はそのまま部屋の中に押し入ってきた。一体じゃない、幾つも。

 どうやってその怪物を部屋から追い出したのか、それは覚えが無い。ともかく気付いたら部屋の中からその怪物は消えていて、ただそのおぞましい体の一部はそこに残っていた。その時からか。彼女は部屋の中では、魔法の様な力を自由に使えるように成った。

 部屋の中に居る限り、彼女を害する存在は無い。彼女は部屋を拡張し、自分好みに変えていって。自分一人の楽園をその場に創った。適当な広さ、適当な環境。室内に満足はするしかし、扉を叩く音は毎日、いつもいつも聞こえる。おぞましく、思い出したくも無い声。ともかく部屋の中に居れば安全なので。彼女は外の音を完全に遮断する事にした。静まり返った部屋の中で、彼女は一人に成る。

 部屋の中で一人で居る事は、少し辛さが有った。何でも創れる何でも出来るが部屋の中で、しかも自分一人しか居ない。外には他のモノが居るのだが、多分ろくな連中じゃない。ただ、この場でずっと一人で居るのもどうかとは思った。外に意識を向けると、中に入れてと声がする。どうしようか、迷った。

「中に入れて下さい、外は酷いのです」

 弱々しく懇願する声に、少し迷う。悪い奴らしか居ないのだ。声の主も悪い奴なのだ。ただ、このまま一人でずっと居るよりはマシなのかもしれないと、少し考えた。

 彼女はそれで、部屋の中に新しく、小さな扉を創った。外界の物が入りたい場合はこの扉を通ると入れる。ただ、入るとネズミ位の姿にされてしまうし、話す言葉も遅く非常に制限される。鳴き声と大差ない表現力しかない。しかも「部屋の主には逆らえない」のだ。彼女の不満を買うと、極端にその部屋では生命力を失って、追い出されてしまう。

 それを告げると、外で入れてくれと懇願していたモノは喜んで。その扉を通って、部屋の中に現れた。前と同じ、複数。ぞろぞろと小さなハムスター位の連中が、カタコトと言うか、鳴き声と言うか、そんな声で話しながら少女へ頭を下げた。快適らしく、部屋の中を彷徨き、適当な場所に居場所を創る。そのネズミ達は、悪い奴らでは無かった。少女は少し、楽しくなった。

 それから、ネズミの来訪者は次々と来るように成った。部屋も手狭に成ったので、どんどん拡張していく。気に入ったネズミ達の要望を相応聞きつつ、部屋は小さな森の様な様子に成っていった。もちろん、ネズミだ。中にはどうも乱暴な連中も居た。人のねぐらを横取りしようとしたり、餌?を奪い取ったりする。それでも少女が叱ると、それ以上の事は出来ない。多分、どうも一度部屋に侵入しようとした連中も、居る。ただ、ネズミの姿でネズミの言葉を喋ると、不思議と愛らしささえ感じた。ペットのやんちゃだ、部屋も少しずつ広くする事が出来て。ネズミ達が遊びまくる部屋の中を眺める。寂しさは和らいだが、気になる事もあった。

 聞いてみる。何故そんなにこの部屋に居たがるのか?

「それはもちろん外界が酷い有り様だからだ」

 外は酷い奴らが居て、安全な領域などこの部屋の中位しかないと言う。色々事情はあろうが、ともかく今のネズミの姿であれば、まだどんな乱暴者でも許容は出来た。ネズミ達が言うには、外に居るよりは良いので、このままのネズミの状態で構わない、らしい。神様には逆らえない、ただ別に少女がネズミをどう思う訳でも今の所はない。部屋の主はそれに少し納得して、横になる。だんだん眠くなった。

 ふと目を醒ました時、その女性は木陰で本を読みつつ寝ている事に気付いた。不思議な夢を見た様な気が、した。


プロデューサーシート
タイトル「ネズミが居る部屋」
 概略 奇妙な小説

コンセプト「部屋の中に居る」

ハード的テーマ「不思議な夢」否定肯定
 女性に取っては現実で、その困難をどうするか?だが。実際は夢ですと言う話

ソフト的テーマ「部屋から外に出る方法」肯定否定
 女性はその部屋の中から出た方が良いとは思うが出れる状況にない。どうすればいいか?その打開を図る。

目的 状況の改善
それは無い 目的を達成しない

end