モビルスーツという兵器と、その成り立ちについての考察

 「モビルスーツ(以下、MSと略)」は元来、宇宙空間などでスペースコロニー等を建造するために作られた大型作業用機械だった物を、ジオニック社が兵器として再設計した大型兵器の事を言う。その操作は殆どがコンピューター制御されており、パイロットはMSに対してスティックやボタン、スロットル、或いはペダルなどによって「要求」をMSに送り、それをMSの制御コンピューターが戦闘状況などを踏まえた「推論」によってその要求に見合う「適当な」動きを実行する、と言う構成で成り立っており、言うなら「味気なく訓練された軍馬」という仕組みで制御されている。戦闘用としてはこれで必要十分な戦績をもたらしたが、開発者達の間では「コンピューターが勝手に機械を動かしているだけで、パイロットの思い通りに動いているわけではないから効率が悪い」等という不満が有ったらしく、それによってジオニック社の研究グループの一部で「脳波制御」の研究が始まった、これが「サイコミュシステム」の前身に成る(もちろん一部ではモーショントレーサーを使用しての制御も検討はされたが、戦闘用としては火器制御の点で思いがけず上手く行かなかったらしい)。

 しかし、MSの操作性向上を謡って始まった筈の脳波制御(後のサイコミュシステム)も、パイロット達の戦闘技能の向上と、現場の技術者達によって行われた「パーソナルデータのすり合わせ」、そして推論システムの性能向上等によって必要性が薄れてしまい、更にその不安定さ等からこの後、少し方向性が変化するようになる。当時の脳波制御システムはまだ未完成かつ理論的にも未熟だったからか、当時確認されていた「ニュータイプ」と呼ばれる第六感に長けた?人々で無ければ実用的な数値が観測できず(これにはミノフスキー粒子の有無も関係はしていたらしい)、結局は脳波制御を的確に行えるのはニュータイプしか居ない、という事になってしまった。しかし当然ながらニュータイプと認められる人々は少なくまた戦闘技能もない民間人が殆どで、結局単なる脳波制御ではまともな結果が出せない事から研究は研究目標を変更、当時までに進化していた機体制御用の推論システムとの併用による「ファンネル制御」という形をとって「サイコミュシステム」が始めて結実することになる。ファンネルから送られてくる情報をパイロットが知覚し、それに対して必要な「要求」をパイロットが「無意識のうちに」サイコミュによってファンネルに伝達、そこにニュータイプの「人を越えた知覚能力」が合わさる事で、パイロットが殆ど何もしなくても意志だけで機体とファンネル達を制御し敵を倒す事が可能になった、らしい。現実にサイコミュシステムが搭載されたMA「エルメス」はたった一機で一度に数十機のMSと多数の戦艦を沈める、という輝かしい戦績を残しているが、ガンダムとの交戦で何故か破壊されている(この事実が、逆に敵味方を問わない”ガンダム”という名に対する伝説的な信仰を産んだ、とも言える。ジオニック社にしてみたらショックだっただろう)。このサイコミュは後々研究が続けられ、ニュータイプとして訓練の浅いパイロットでも制御できるようには成ったようだが、それでもやはり、サイコミュはニュータイプの方が上手く使えた様である。

 戦争終結後、アナハイムではジオニック社からの技術流入によってMSに搭載するファンネル&サイコミュシステムと共に「脳波制御」の研究資産も得ることになるが、この「脳波制御」が後々一部のMSにも補助的に搭載されてはいたらしい(つまり、パイロットの感情等による脳波の変化によって推論システムを若干変化させ、パイロットの要求と機体の実行との同調率を高めようとした)。例えばパンチの「要求」を行った際にパイロットの”思考”によってその強弱や動かし方を変化させる事が出来たらしく、反応速度の向上そして操作性の向上と簡素化にもつながった、らしいが逆もまたあり得、憤り等の高ぶった感情が機体を思いがけず制御してしまい味方機を誤爆した、ような事例もあったらしい。後のMSにもこれが搭載されていたかは不明だが、後々のMSがどうも変形機構の搭載や火器の大型化、推進力等のパワーの増大に集中しロボットとしては味気なくなって行くところを見ると、これらのせせこましい機能向上よりは、大型兵器を運用する上での有用さしか当時の研究者や司令官達は重要視しなくなっていったのだろうし、それは恐らく「兵器としては」正しい進化だったに違いない。