機動戦士ガンダムAGEミラースタイル
2012/06/28
第三話「宇宙戦艦ディーヴァ」
1起動
スペースコロニー「ノーラ」の宇宙港から出た直後。ディーヴァのカタパルト射出口が左右両口とも、唸りを上げて開き始めた。内部にはMS射出レールがしいてあり、そこにはジェノアスが既にスタンバイしていた。射出灯が輝く。そのジェノアスが射出体勢を取る。
「ラーガン、ジェノアス、出撃する!」
「ウルフ、”ジェノアクス”、出るぜ!」
時間差で、ラーガンとウルフのジェノアスが射出されていった。そして他にも次々と、搭載されていたジェノアスが射出していく。ウルフがコンソールのレーダーとカウントダウンするタイマーに目を落とした。時間は既に残り2分を切っていた。レーダーにも、遠方から高速で直進する物体が映る。ウルフは舌打ちした。
「止めろって言ってもよ・・・!」
その、突撃してくるコロニーデストロイヤーは。全長だけならジェノアスの全高を、単純に一回りほど上回っていた。それがジェノアスの機動速度の3〜4倍程度の速度で突入してくる。体当たりと言う選択肢は、今は使いにくいと思われた。ラーガンからの通信が入る。
「ともかく接近に合わせて推進部を破壊する!俺は先で待つから、マークは2番手、ウルフ、お前は最後尾を頼む!」
「おう、了解!」
射出と同時に、ミレースが作成したらしい、簡単な配置図が伝達されていた。ジェノアスをコロニーデストロイヤーの進路上に3枚の壁として配置、それを2本のコロニーデストロイヤーに展開し、3度のチャンスで推進部を破壊する。その時突然、共有通信に奇妙な音声が割り込んだ。
『行かせて下さい!今だったら・・・!』
『馬鹿を言うな!お前が行って、何の役に立つ!』
『だって!!』
「あーもーうるせーよフリット!そこで待ってろ!俺達で何とかする!!」
溜息を付きつつ、ウルフがそう答える。ジェノアス隊から苦笑と言うか、笑い声がその共有通信に流れた。一息付いた所でラーガンが声を掛けた。
『来るぞ!?』
遠方から、恐ろしい速度で突撃してくる、赤熱化した物体が見えた。ビームスプレーガンの威力では、かなり接近しないとダメージさえ怪しい。ジェノアス各機は配置図の位置で、ビームスプレーガンを構えた。各機、チャンスは1回も無かった。
フリットが、しぶしぶガンダムのコクピットで、バルガスと共にその軍用共有通信を聞いていると。暫くして、事態は動いた。ラーガンの舌打ちが聞こえた。マークが叫んで、ウルフが憤怒の声を上げた。他の3機、ライカ、ウェイ、ジーラの3機も似たような声しか出なかった。ウルフの声が聞こえる。
『一発二発じゃ話にならねーってか?!』
結果的に言えば、それぞれのコロニーデストロイヤーは、2発前後の被弾は受けたが。しかし、その速度が弱まると言う事は、無かった。赤熱化していた外殻に当たっても意味は薄く、推進部は掠った程度で、相対速度を合わせたのでも無い限り、その速度を捉える事はほぼ、不可能に近かった。それら2発はそのまま、戦艦ディーヴァの遠方に光の筋を残しつつ、「ノーラ」の外殻へと衝突した。フリットはそれで、バルガスを押しやった。人工重力の切れた格納庫に放り出されたバルガスは叫ぶが、多分フリットには聞こえていなかっただろう。
AGEガンダムはシールドと、そこに余っていたビームスプレーガンを手に。その巨体を無理矢理前に進ませた。カタパルトは使わずそのまま、それはディーヴァの外へと飛び出していった。
2襲来
遠方の、何とか形をとどめる「ナーガ」の、爆発した残骸の向こうで。ラークシャーサとガフランとの、激しい戦いの閃光が見えていた。爆発も幾つか起こる、何機かのジェノアスが被弾もしたらしい。その頃、ちょうど、コロニーデストロイヤーがコロニー「ノーラ」に激突した。その通信と共に、奇妙な事が起こった。
突然、ガフランがジェノアスとの戦いを止め、ノーラの方へと飛び去ったのだ。紫色の1機だけが残り、だからラークシャーサの、残る6機のジェノアス隊は、その3機を追撃する事は出来なかった。ラークシャーサの艦長が、ディーヴァへと連絡する。
ディーヴァも、その襲来するガフランを捉えた。その頃は、ガンダムが射出してしまった事で一悶着には成っていた。突き立ったコロニーデストロイヤーの元へとガンダムは、よたよたと、頼りなげに飛行していく。焦るフリットにラーガン隊の罵声が飛び込む。
『お前が居たって何の役にもたたねーよ!さっさとディーヴァに戻れ!』
「でも!」
『今はそんな場合じゃない!コロニーデストロイヤーは・・・?!』
ラーガンの静止で、ウルフもカメラアイを、その着弾箇所に向けた。そこは、スパークが起こっていた。コロニーに深々と突き刺さり、それは、内部へと貫通している様だった。奥へと深く突き立っていて、その場からではコロニーデストロイヤーの噴射口さえ見えない、そしてそこをスパークが覆っていた。ラーガンが試しにビームスプレーガンを撃ち込むが、途中で歪み、コロニーの外壁を痛めただけだった。ガフランの装甲と同じ”効果”が、その場に発生している様だった。
「駄目だ、起動状態になっちまった・・・そっちはどうだ?!」
『こっちもです!内側からしか、処理班を呼ばないと・・・』
「バルガス!コロニーデストロイヤーがノーラに・・・!」
『今、軍の処理班が向かっている!お前は早くディーヴァに戻るんじゃ!!』
「だって!」
『今!ガンダムを破壊される訳にはいかんのだ!それは、最後の希望なんじゃぞ?!』
フリットはそれで、コロニーデストロイヤーと共に消えた母の言葉を思い出した。フリットは呟いた。
「・・・解った、戻るよ、バルガス・・・」
『なんだ?敵襲?!』
通信に、不意にラーガンの声が割り込む。焦ってレーダーを確認すると、遠方から接近する機体が3機確認できた。それはまっすぐにノーラへと近づいてくる。ラーガンが声を張り上げた。
「来るぞ!」
ラーガン隊がその声で、フリットも含め身を強ばらせた事が、逆に何故か、悪く作用した。襲来したガフランはその後、しかしラーガン隊を、ガンダムさえすり抜け、そのままコロニーに開いた穴から、再びコロニーの中へと侵入していった。状況を確認したグルーデック艦長は、直ぐにヘンドリック司令へと通信回線を開かせる。
「司令、ノーラの資材搬入口を開けてくれ!MS部隊を送る!」
『いや、こちらも今、MSは向かわせている、ディーヴァは戦闘艦を叩いてくれ』
「・・・了解した。ミレース中尉?MS部隊を呼び戻せ。本艦はこれより、敵戦闘艦を叩く」
『了解しました』
「総員、第一種戦闘体勢!主砲展開急げ!」
MSデッキから、ミレース中尉の返答を聞きつつ、グルーデックはブリッジで命じた。ディーヴァが、軋む音を立てつつ、その進路を変えていった。
3混乱
住人の避難が続く「ノーラ」の中は相変わらず真っ暗で、人々は手提げ鞄程度の荷物を持って、不安そうに指定された場所へと列を成して歩いていた。五十代以上の、家族の居ない人々は、それでも優先的に「気圧保持シェルター」の方へ誘導され。そうで無い人々はシェルターシップの方へ廻された。シェルターシップの道の方が遠く、行列は長く続いていた。コロニーの空気は、気圧保持機能により内部体積の二倍程度は余裕がある、しかし。もしそれが全部抜けても、気圧保持室なら一週間程度は生存可能だった。コロニー自身、ドラム型だ、その自転が止まらない限りは重力は存在し続ける。繰り返しアナウンスがある。シェルターには十二分に余裕が有る、落ち着いて避難して欲しい。だが、その人々の前に。再び何かが爆発するような轟音が轟いた。
コロニーデストロイヤーが突き刺さったのは、ノーラの市街地の一角だった。付近のビルを幾つか崩壊させて出現した”それ”は、暗闇の中を照らす様に、暫く赤く輝いていた。数多の人々が、悲鳴と共に、遠巻きにその様子を見ている前で、それは動き出した。或いは、花が咲くかのように。”それ”は赤熱化したまま”開き”始める。やがてそこから、コロニー内へと。数多の穴の開いた、グロテスクな装置から、緑色に輝く光の粒が、付近へと大量に放出され始めた。
暫く呆然と見ていた住人の、その遥か遠方でも。同じ様な事が起こった。もう一つ出現したその、赤く輝く花からも、その緑色の光の粒はコロニー内へと放射され始める。住人はそれで、パニックに陥った。軍の静止も効果が暫く無かった。我先にと殺到するシェルターシップの入り口では人々が押し合い、小さな子供らは泣き叫びつつ親を呼んでもいた。軍の、警察の人々は必死に呼び掛け、或いは銃を乱射し、住人に自制を求める。だがそうしている間にも、妖しい緑色の光の粒子はコロニー内へと薄く広く漂い始めていた。”それ”は、熱量を持っているらしかった。まるでホタルの様な光のそれが、一つ付近に落ちる。そこにあった樹脂製のバケツがそれで熔解し、そしてその場から炎が上がり始めた。基地に残っていたジェノアス隊が駆け付ける頃、それはあちこちで火災を引き起こそうとしていて。そして更に、暫くするとガフランがまた、3機も。塞ぎようもない穴から、コロニー内に侵入してきた。
ガフランはその、起動を始めたコロニーデストロイヤーへと、一機ずつ降り立ち。もう一機は、ジェノアス部隊の前へと向かった。始まる銃撃戦は、逃げる住人らの前で始まって。パニックはもはや、統制の出来ない混乱へと加速していった。
ガンダムを操り、よたよたと、ディーヴァの格納庫へと戻ってきたフリットは、その時は苦渋に満ちた顔をしていた。規定の位置に立つと、MSハンガーがガンダムを固定し、格納領域へと運んでいく。ジェノアスは、今はMSハンガーには居なかった。フリットは暫く、コクピットハッチを開ける事が出来ずに居た。ガンダムは、UEに勝つ為に!創った物だ。コロニーデストロイヤーは今、第二の故郷の中で、駆動を続けている。コンソールに映るAGEアイコンはまだ、四つしか起動状態には成っていなかった。宇宙での高機動戦闘を可能にするアイコンが起動状態に成るには、もう少しデータが必要らしかった。もし今、ジェノアスが余っていたら、フリットはそれに乗って出ていったかもしれなかったが。フリットは呟いた。
「何が・・・!」
ノーラの中で、人々が悲鳴を上げて逃げ惑う中で。ガフランとジェノアスの戦闘と、そしてコロニーデストロイヤーの不気味な振動は続いていた。拡散する緑色の光は、次第次第にコロニー内を埋め尽くし始めた。
4苦闘
「艦長、ガンダムの収容、完了しました」
「ヴィシュヌの位置は?」
「現在、”ノーラ”からは離脱し、爆発影響圏内からは出つつあります。敵艦、動き無し」
オペレーターの報告を聞きつつ、グルーデックは少し、目を瞑った。様々な解析や残る映像資料の分析の結果、コロニーデストロイヤーの停止に関しては程度の見通しは出ていたが。分析に過ぎず、解体に成功した例はもちろん、無かった。3機のガフランを前に、ノーラ内部の部隊に…何が出来るだろう?ラークシャーサの戦闘宙域へと入る。一機のガフランが今は、計4機のジェノアス部隊との交戦を続けていた。
「総員、戦闘態勢!主砲展開、対空砲、砲撃開始!」
既にディーヴァの各部に展開していた対空砲が火を噴いた。目標を変更し、ディーヴァへ襲ってくるガフランを照準し、乱射される。弾幕の嵐の中をかいくぐるガフランだったが、しかし一発がヒットし、それで、その翼がもぎ取られた。
ディーヴァの対空砲は、それでもドッズキャノンでは無いビームスプレーガンの一種だったが。内部の「EXAリアクター」その高出力を武器に、通常よりも約二倍は高い集束率と荷電量を持っていた。当たってよろけた所に、その対空砲が次々とヒットし。ガフランはそのまま爆発した。船体各部に穴が開き、火を吹いているラークシャーサを通り抜け、ディーヴァは敵戦闘艦へと直進航路を取った。グルーデックは通信回線を開かせる。
「ラークシャーサ、ディアン艦長、聞こえるか?後退してくれ。後は、我々がやる」
『ノーラの方は、大丈夫なのか?』
「大丈夫とは言えない。コロニーデストロイヤーが起動状態にある…言いたくも無いが、逃げてきたんだ」
『・・・そうか』
それで、ラークシャーサとの通信は切れた。後退を始めるラークシャーサを後目に、ディーヴァは敵戦闘艦をその射程へと納めようとしていた。遠距離望遠カメラが、その敵影を捉えスクリーンに映す。グルーデックは睨み付けた。
「解っているさ…どうせ貴様だけでは無いのだろう?」
それでも、数多の船を潰したその艦は。破壊せねば成らない…そう、グルーデックは思った。
コロニー宇宙港には今、最後の戦艦「ヴリトラ」だけが残っていた。旧型の、それでも旗艦とさえ呼べるその大型戦艦には、次々と乗員が乗り込んでいた。パイロットスーツに着替え、ブリッジに移ったヘンドリック司令は。スタッフクルーを見回しつつ、言う。
「これよりこの”ヴリトラ”を作戦司令室とする。処理班の状況はどうか?」
「現在まだ…解体作業に入れていません。ガフランが陣取っていて・・・!」
内部映像が映る。付近の監視カメラからの映像だ。暗闇の中を、ジェノアスからのビームが瞬き、ガフランのビームが乱射され、辺りにもうもうとした煙がたちこめ、その中を緑色の、光の粒子が舞っていた。その密度は、増しているように見えた。ノーラの市内のあちこちの監視カメラの映像が次々と映される。ノーラ全域で、火災が始まっていた。
5武装
コロニーデストロイヤーの突き刺さったノーラを背に、ディーヴァはジェノアスを駆るラーガン隊と共に、敵の戦闘艦へと直進を続けた。やがて敵艦の方にも動きがある。外殻の一部が展開、武装らしきモノが姿を見せた。幸いと言うか、ガフランの出現は今は無い様だった。グルーデック艦長は告げた。
「目標、敵戦闘艦、ミサイル発射!」
「HPミサイル用意!照準完了次第、順次発射せよ!」
『了解!』
発射制御室のクルーが答える。ディーヴァのミサイル発射管が左右合わせて4門開き、UEの、特徴的な熱源と電磁パルスを追尾するミサイルが姿を現した。だが同時に、敵戦闘艦からのパルスレーザーによる攻撃が始まる。だが、まだ距離はあり、戦闘速度での機動を続けるディーヴァにはなかなか当たらなかったが。それでも幾つかはヒット、しかしそれはまだ距離が遠く、ディーヴァの誇る「EBS」に弾かれた。照準作業がやがて完了、発射制御室で、砲手はトリガーを押した。
「HPミサイル、発射!」
ディーヴァのミサイル発射口から、立て続けに、計4発の中型ミサイルが発射され、そして敵戦闘艦へと向かった。敵戦闘艦からのパルスレーザーはミサイルへと照準を変更し、迎撃を試みるも、当たらなかった。最初の一発が敵戦闘艦へと向かうが、しかし機動を始めた敵戦闘艦はそれをからくも避ける。だが、次のミサイルはその機動先へと進路を変えた。回避出来ないまま、それは敵戦艦に衝突する。その装甲面に激しい爆発が起こって、それは大きく進路を変えた。そこへ、立て続けにミサイルが激突する。吹き上がる炎は、ミサイルに搭載された火薬だけのモノでは無かった。
「直撃、3!」
「第二次攻撃!」
「主砲、充填完了。敵戦艦へ照準!」
「撃てぇ!」
ディーヴァの主砲、ハイパードッズキャノンが輝き、ミサイルの衝撃で炎を上げる敵戦艦へと、その光の渦は放たれていった。
コロニー内に出現した、コロニーデストロイヤーを守る様に陣取っていたガフランは、ジェノアスのビーム攻撃を受けつつ、不意に、その攻撃を中止した。一機が突然、脱出を計り、飛び立った。残る2機はそのまま残るが、しかし、先ほどとは打って変わり、ジェノアスへの積極的な乱射、と言うのは止めてしまった。しかしガフランがコロニーデストロイヤーの前に居る事には変わらなかった。ジェノアス部隊は攻撃を続ける。その足下では、軍関係者らが住人の避難に追われていた。定員に到るシェルターシップは閉じられ、気圧保持室へも、人々の避難が黙視確認のみだが、完了した。やがてノーラから居なくなっていく人々を前に、軍関係者はガフランの様子を見つつ、呟く。
「…命令だ、我々はシェルターシップへ向かうぞ」
「…あの」
「命令だ、俺達はただそれに従っただけだ。・・・それ以上考えるな」
「はい」
それは妙に、さっぱりとした口調だった。それから彼らは、自分達が乗るシェルターシップへ向けて走った。ジェノアスとガフランの戦いはまだ続いていた。
6避難
今だ宇宙港に留まる「ヴリトラ」のブリッジで、ヘンドリック司令へ報告が入る。
「住人の避難、完了との報告です」
「ガフランは?まだ残っているか」
ヘンドリックの問いに、通信士が言いにくそうに答えた。一機は外に出て、敵戦闘艦へと向かっている。しかしまだ内部には2機がコロニーデストロイヤーの前で陣取っており、ジェノアス部隊はまだ、その駆逐は出来ていない。処理班の乗るシェルターシップは用意が出来ているが、彼らはまだ外にいて待機中。ジェノアス部隊のエネルギーはもう残り少ない。ノーラ各地の火災は現在、自動消化装置が消火に当たっている。コロニーデストロイヤーの起爆濃度には後一時間程度は必要。最後の報告はまだ、少し希望が見えた。
「処理班に伝えろ、まだ後1時間は有るとな」
「了解」
ヘンドリック司令はそれを聞きつつ、そのシートで両手を組んだ。微かな希望は…有る。ガフランを何とか排除し、時間内にコロニーデストロイヤーを止められれば。地球圏へも出現するUEのモビルスーツは、その搭載母艦に攻撃を受けると撤退する事がほぼ、解っている。ディーヴァが敵戦闘艦との交戦に入れば、他のガフランも離脱するかも知れなかった。しかし、可能性としては低く感じた。ヘンドリックは決断した。
「各シェルターシップへ連絡。今後別令が無い限り、今より30分後に切り離し、ノーラより離脱せよ。カウントダウンを設定、離脱後は、速やかにこの宙域より離れ、タイタレギズへ向かえ」
タイタレギズ、そこはノーラと同じ様な、民間の居住区画の多い、UEの出現頻度の低いコロニー群の名称だった。もちろん、ここからの移動では数日の距離だが、それでも最も近場にあった。軍艦に乗ってしまった民間人には或いは不幸だが、共にファーデーンへと向かって貰う。その事態に成った時、もちろん、助からない人々は相応出る。
「なおヴリトラも、今より50分後にノーラより離脱する。ジェノアス部隊はそれまでに、ノーラより脱出せよ」
通信士は言いにくそうに、ヘンドリック司令の命令を、まだコロニー内に残る処理班、ジェノアス部隊へと伝えた。各シェルターシップはそれぞれ離脱準備を始める。ノーラの各地に点在する気圧保持室に押し込められた人々は、壁面に流れる映像を見ていた。例えコロニーから空気が全て抜けても、気圧保持室は大丈夫であり、食料なども十分ある、落ち着いて救助を待って欲しい。主に老人達は、それに安堵していたが。時間はしかし、刻々と過ぎていった。
ディーヴァから放たれた、ハイパードッズキャノンの閃光は、敵戦闘艦へと命中し、装甲の一部をもぎ取った。しかし噴煙を上げつつ、敵戦闘艦はまだ機動を続けていた。そしてヴリトラよりディーヴァへ、ガフラン接近の通信が入る。後方よりガフランが襲来し、ディーヴァの対空砲は再び、ガフランへとその銃口を向けた。それをかいくぐり接近するガフランへ、ラーガン隊が応戦する。
続く戦いの中で、しかし。格納庫の、AGEガンダムの中で。フリットは何か、思い詰めた表情で、眼前に映るシミュレーターを見ていた。AGEシステムの”理解”レベルは高く、AGEアイコンはシミュレーターでは殆ど経験データの蓄積が得られなかったが。それでも幾らか上がるデータは、5番目の、宇宙空間での高起動戦闘を可能にするAGEアイコンを静かに、微かに”上昇”させているらしかった。スティックを傾け、アステロイドベルト、そしてガフランの機影を交わす。数多ぶつかりつつ。フリットは必死に、ペダルを、スティックを操っていた。
7解析
宇宙港の中で、ヴリトラは出航準備を始めていた。ブリッジに通信が入る。
「ガフラン、コロニーより離脱しました!」
「処理班はどうか?」
「現在解体作業の為に、現場へ向かっています」
報告を聞いて、ヘンドリックは少し安堵の表情を見せた。ディーヴァは上手くやっている。このまま敵戦闘艦を叩ければ、この危機は脱する事が出来るかもしれなかった。しかし大型モニターの隅に幾つか映るコロニー内の様子はまだ、予断を許さない状況だった。緑色の光の粒子が、今は濃くなっている。それは漂う性質であり、そうそうあちこちに火災をもたらす訳ではないが。それでも、ノーラ全域で始まる火災は、消火装置でも完全に止める事は出来なかった。今、ノーラの中には人が居ない。ヘンドリックが聞いた。
「起爆濃度まで、後どれくらいか?」
「解析では、現在24%、毎分2%程度で上昇中!」
その後、処理班がコロニーデストロイヤーの解体作業を始めたと言う通信が入る。内部の光の粒子は危険だ、外に放出出来ればそれが一番良い、が。様々な判断ミスを続けているかもしれない自分に、ヘンドリックはそれ以上の決断が出来ずにいた。
コロニー「ノーラ」から離脱した2機のガフランは、そのまままっすぐに自身の母艦、敵戦闘艦へと向かった。途中に後退を始めた「ラークシャーサ」が居たが、すり抜ける。しかし、その前方には自身の母艦へ攻撃を続ける大型戦艦と、そして炎を上げる母艦が居て。そしてセンサーは幾つもの機影を捉えた。その一機が、突然加速する。
「行かせるかよ!!」
ウルフのジェノアクスが、一機のガフランへとビームスプレーガンを連射する。交わすガフランの少し先へと照準し、ウルフはペダルを踏んだ。スプレーガンを仕舞い、そしてビームソードを持たせ。そしてトリガーを押す。爆発的な加速と共に、そのガフラン目掛けてジェノアクスが衝突した。突き出されたビームソードはそのまま、ガフランの胸部装甲を貫通、ガフランが爆発する。ウルフは歓喜の雄叫びを上げつつも、直ぐに離脱しつつ、もう一機の後を追い掛けた。それは、ラーガン隊の造る”壁”へと突っ込んでいく。
ディーヴァは今、敵戦闘艦を追撃していた。敵戦闘艦はガフランをもう出さなかった、残るパルスレーザーを乱射するが、今は至近距離では有ったが、ディーヴァの装甲を傷つける事さえ出来なかった。主砲の照準が、再び敵戦闘艦を捉える。グルーデックは即座に命じた。
「撃てぇ!!」
放たれたハイパードッズキャノンは、そのまま、敵戦闘艦の機関部付近を直撃し、貫通した。爆発が始まり、それは直ぐに船体全てに広がって、やがて敵戦闘艦は爆散した。
「敵戦闘艦、轟沈!」
レーダースタッフの報告に歓声が上がるディーヴァ艦内だが、グルーデックは直ぐにレーダースタッフに聞く。
「他のガフランは?!」
「・・・あ、あの!ラーガン隊、現在撃墜1!残り2機は今だ交戦中・・・あ」
確認した時、ラーガン隊に取り囲まれていた1機のガフランが、レーダーから消失した。残り1機は、ディーヴァの対空砲の射程距離内にあった。
8作業
コロニーデストロイヤーの処理班は、周囲を漂う緑色の光の粒子の中をかいくぐりつつ、コロニーデストロイヤーに近づく事には成功したが、その基部は。まだコロニーの奥深くに埋まっていた。連絡し、”デスペラード”が数機、近づいてくる。指示を出すと、さっそくビームスコップを持ち上げ、その基部付近へと突き立てた。そうしている間にも、粒子は止めどなく拡散を続けていた。
それまでにも、コロニーデストロイヤー的な物は。幾つか被害をもたらしていた。その多くが、発光体の放出部に攻撃を受けると即座に爆発してしまっていて、始めの頃はそれで、甚大な被害を出していた。貴重な記録映像などから解析が行われるモノの、「この辺ならば」そう言う物が見つかったのはつい最近の事で。その頼りないデータを元に、処理班は事に当たらねばならなかった。
デスペラードは、ビームスコップを振るい続けた。それはその付近の障壁を瓦礫に変えつつ退かし続け、暫く続けているウチに、その目的となる基部への装甲面を露出させた。空気の流れ、その穴からの流出はより加速して、漂う緑色の光の粒子が幾つか吸い込まれ、その場の熱量を上げていた。防護服を着込んだスタッフはそんな中を、その装甲面に近づき。その壁を機器を用いて探査し始める。切断用のレーザーカッターを持ちだし、その付近を切り取り始めたが。その頃、ちょうど時間は、指示から30分が過ぎていた。
「シェルターシップ、離脱を開始しました!」
通信士からの報告に、ヘンドリックは顔を歪めた。残り時間はわずかしかない。処理班はもう、シェルターシップに乗る事は出来ない、彼らを収容し、最後は自分達も脱出せねば成らなかった。
後退しつつ、艦内の消火活動に追われていたラークシャーサは、ノーラから数多離脱する、シェルターシップの光を見た。コロニー外壁に設置されており、壁の一部が剥がれる様に離脱するその平べったい船は、遠心力に逆らわずにそのまま、”落ちる”様にノーラから離れていった。次々離脱するその数は数十、或いは数百とも思えたが。ディアン艦長が手元の資料を確認するに、一つのシェルターシップに収容できる人数は一万人にも満たなかった。ノーラの人口は、確か、400万人を超えていた筈だった。
処理班は、シェルターシップが離脱していく中も。解体作業を続けていた。生き残ったジェノアス部隊も、その様子を見守っていた。漂う緑色の光の粒子は刻一刻と濃くなっていく。消火装置はやがて、”止まる”モノが出始めていた、貯水が尽きた為だ。そんな中で、不意に、そのコロニーデストロイヤーから光の粒子の放出が止まる。基部に挑んでいた処理班が通信機を取り出し、その様子を確認しつつ報告した。
『処理完了!コロニーデストロイヤー停止しました!』
「ご苦労!」
その報告を聞き、ヘンドリックはつい笑顔で答えた。直ぐにもう一つの確認をする。
「もう一つは?」
「現在まだ、基部の露出まで到っていません。瓦礫が多くて・・・」
それでも、二台のデズペラードにより行われる必死の掘削作業の結果。濃度80%付近で、ようやくその基部の露出には成功した。
9希望
「バルガス?ねえ!フリットは?!」
戦闘状態の中、脅える子供達を必死にあやしていたエミリーは。不意に思い出したように、子供を隣りの子に預けて通信機を開いた。バルガスに繋がり、まるで問い詰める様な言い方になる。バルガスも少し狼狽えてしまう。
『あ?ああ、今は・・・格納庫の中じゃ。ガンダムに乗ってる。心配するな』
「そう・・良かった。また・・・」
『ああ、まあ・・・。だがな、エミリー』
「・・解ってるわよ」
そう言うと、エミリーは一方的に通信を切ってしまう。心配そうに、ハロを抱えた女の子が覗き込んだので。エミリーは、無理に微笑み返した。
「あ、ゴメンね?心配ないって…安心して?」
その子をハロごと抱きかかえつつ、しかしエミリーの表情は暗いままだった。
「往生しろよな!!」
ディーヴァの対空砲撃を受けたガフランへと、ラーガンの罵声と共に放たれたビームがガフランに命中する。ガフランは装甲表面の”輝き”を、既に失っていて。その狙撃はガフランの胸部装甲に穴を開けて、その結果、その最後のガフランも暫くして爆発した。襲ってきた敵戦闘艦と、そして現れたガフラン、その全ての殲滅と言う今までからは考えられない戦果を、ディーヴァとそのクルー達は成し遂げたが。ジェノアス各機のバッテリーも推進剤も残り少なく、戦闘時間はもう限られていた。帰還命令が出て、幸いにも、再編成されたラーガン隊は一機も欠ける事無く、やがてディーヴァに戻ってくる。フリットはガンダムの中で、その様子を確認した。「宇宙戦闘」のAGEアイコンはまだ、機動状態には成って居なかったが。それでも、フリットは少し笑顔になった。
「ウルフさん、倒したんですか?!」
『ああ!任せろよ、これでスコア2だぜぇ?』
奇妙な位に誇らしげに、ウルフはそう告げて。それでフリットは喜びつつも、そのまま少しうなだれて、コンソールに目を落とした。次々と帰投してくるジェノアス達は、しかし、見ていると無傷、と言う機体はほぼ、無かった。外殻のどこかそこかに傷を受けていて、ウルフのジェノアクスは一部のフレームが露出して、火花を出しても居た。修理用の予備パーツは果たして有るのか、ガンダムは・・・いつ使いモノに成るのか。フリットには解らない事だらけの中で。敵を全て倒したと言う事実にも、直ぐには喜べなかった。不安だけが募る。
ノーラの中では、最後のコロニーデストロイヤーの解体作業が、ようやく始まっていた。デスペラードによって掘り出された基部の一部を切除し、内部を露出させる。明るい材料はあった、その前に行われた解体作業は無事に終了していた。構造は幸いにも同じで、スタッフはそれでも、明るい表情で解体作業を進めていた。緑色の光の粒子、その起爆濃度は既に、90%に迫ろうとしていた。
・・・その機影はまだ、ディーヴァのレーダーにさえも、映っていなかった。そこからはスペースコロニー「ノーラ」の姿さえ見えなかったが。それは遥か遠方から、間違いなく。「ノーラ」へと、その巨体を、その進路を変えていた。
第三話「宇宙戦艦ディーヴァ」終
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初掲載日:2012/06/28
次回予告
それは再び、絶望を持って現れた。抗えない運命の中で、それは非情な選択か、徒労の末路か、フリットには解らなかった。
次回、「機動戦士ガンダムAGEミラースタイル」第四話「消えるコロニー」
古から続くその道は、果たしてどこへ向かうのだろう。
次回掲載予定:2012/07/05