機動戦士ガンダムAGEミラースタイル
2012/06/21
第二話「悪夢、襲来」


1戦い
 その宇宙船は、奇妙な事に、後方から放熱?される特異な噴射炎と言うか、噴射光と言うか、そう言う物以外には、殆ど何の光も放っていなかった。黒光りする外殻に覆われていて、ブリッジらしき物も存在していないのか、まるで矢尻の様な鋭角的なフォルムで、それでも全長は100m近くは有るようだった。その遥か遠方は、まだ太陽と、地球と。そう言う物しか見えなかったが。それは何かを目指してゆっくりと、地球の方角へと進路を変えていった。


 スペースコロニー「ノーラ」の中は、今は夜だったが。町中にはあちこちに煙が上がり、そして火災の炎がこうこうと燃え上がり、夜を照らしていた。悪夢の様な、巨大な怪物の様な”それ”は、今は町中からは居なくなっていたが。人々の多くが瓦礫の下敷きになり、あちこちで泣き叫ぶ声が聞こえ、そしてサイレンの音がけたたましく鳴り響いていた。やがて軍の大型車両が町中へと入り、トレーラーも幾つか到着。”そこ”から立ち上がる、奇妙に作業員の様なイメージの、作業用MS規格「モビルスタンダード」、名称デスペラードが、その町中へと、瓦礫その他の撤去に向かっていた。軍の人々は広報で叫ぶ。急いで近くのシェルターシップへ向かってくれ。人々が聞こえていたかどうかは解らない。その、かなり向こう、コロニーの円筒形、そのシリンダーの壁の側、宇宙港とは逆の方に有る、広大な軍事施設「アリンストン」は。街中の比では無い火災と煙で、今は殆ど何も見えなかった。


 フリットが、ガンダムを向かってくるガフランへと走らせた時。ウルフは嫌な予感はしていた。ウルフの静止しようとする声の前に、ガンダムは眼前に降りたガフランへと、見た目は乱暴な攻撃だ、ビームダガーを突き刺そうとしたが。ガフランはそれを、あっさり交わしてしまった。ウルフは援護射撃をしようとしたが、2体が激しく交戦状態に陥って、今撃てばガンダムに当たってしまいそうだった。ウルフもガンダムを気にしていられる状況では無かった。自分の方へも、もう一機のガフランが降下、ビームバルカンを乱射する。慌ててジェノアスをバックダッシュさせるが、それで距離が離れた。ガフランはそれで、目標を直ぐにガンダムへと変更する。ウルフは叫んだ。

「ガンダム以外に興味は無いってか?!」

 ガンダムへと接近しようとするガフランに、ビームスプレーガンを乱射するが。ガフランはその前にガンダムへと飛びかかり、それは当たらなかった。ガンダムのビームダガーを避けていたガフランが、急にガンダムと距離を取る。フリットはそれでまた、ガンダムに命じた。

「倒せガンダム!」

 ガンダムが眼前のガフランに攻撃しようとした瞬間、もう一機のガフランが後ろから、ガンダムを抱きかかえた。動きを止められ、フリットは焦った。

「振りほどけ!」

 フリットは叫ぶが、コンソールには”?”のマークが表示された。ガンダムは視線を、前のガフランと、後ろのガフランへと交互に動かし、どちらを”攻撃”するべきか、解らないで居るらしかった。後ろから抱えるガフランの力は強く、AGEガンダムはそれを振りほどこうとする動作が出来ずに居た。前方から、ガフランが接近する。カメラをめがけてビームバルカンの有る手を伸ばしてきた。

「うわああ!?」
「だからぁ!!」

 ガンダムへ突進したガフランに、右斜めから白いジェノアスが同じく突進した。進路が悪い、ヘタをすればガンダムを攻撃してしまいそうだったが、ウルフは愛機を信じた、ぎりぎり交わしている(様に見える)ターゲットマーカーを見てトリガーを押す。突撃体勢で、強く発光するビームソードを突き出す。それはガンダムの肩口を僅かに反れて、そのまま、ガフランの伸ばした腕に突き立った。鈍い音がして、その腕がちぎれ、跳ね飛ぶ。そのまま直ぐに通常体勢に戻し、白いジェノアスはそのガフランへ蹴りを入れた。片腕を失ったガフランは流石に跳ね飛ばされ、地面に打ち倒された。ウルフはガンダムへ叫んだ。

「さっさと振りほどけ!!」
「で、でも!!」
「飛べよ!だったら!!」

 焦ったフリットはそれで、思い切りスラスターの”要求”ペダルを踏んだ。幸いと言うか、ガンダムはそれは理解し、背後のスラスターを全開にする。流石に、それを受けてガフランはガンダムから手を離した。よたよたと後退したが、ガンダムは勢い余って加速し、そして前方へとつんのめるように、倒れた。衝撃に耐えつつ、言う。

「た、立てよ、ガンダム・・・!」

 外部の、”危険”と判断される音声を「形成する」機構が。後ろからの、金属同士の衝突する音を放った。後ろのモニターを確認すると、ジェノアスがガフランを押しとどめようとしていて、まるで力比べをする様な、両腕で、そんな体勢に成っていた。

 だが前方では、打ち倒されたガフランが立ち上がろうと、ガンダムを睨み付けた。


2軍人
「うわああ!!」

 フリットは、そう叫んで。”前方”へスティックを倒し、そしてペダルを踏んだ。指示と言うか、期待としては「突進」だ。ガンダムはそれで、背後のスラスターを噴射し、そして立ち上がりつつ地面を蹴る。ガンダムが要求を理解した事が良かったのかどうか。命令通りに、ガンダムは前方で、自分の方へ残るもう一方の腕を向けたガフランへと走って、そのまま、何故か壁を押す様な形になり、そのガフランを突き飛ばした。

「た、倒すんだ、倒さなきゃ・・・!!」

 何とか停止したガンダムに、フリットは呟いたが。突き飛ばされたガフランはしかし、スラスターを噴射し、直ぐに体勢を立て直した。後方からまた、金属の歪む音が聞こえる。後ろのモニターを確認すると、白いジェノアスがねじ伏せられようとしていた。その膝が折れる。モニターに警告音がして、前を見るとガフランが距離を取り、ガンダムへとキャノン砲を展開していた。間に合わない気がした、キャノン砲に耐えられる設計だったかどうか、今は思い出す事は出来なかった。ただ、それにはシールドを装備する必要が有る気はした。

 その着弾は、幸いに、そのガフランへの物だった。遠方からの砲撃、生き残ったジェノアス部隊のそれは、それでもガフランを蹌踉めかせた。白いジェノアスの方からもその音は聞こえて、それで、白いジェノアスは何とかその場から飛び退いたのが見えた。軍用の共有通信に別の声が混じる。

『二人とも無事か?!』
「何とか!!借りとくぜ隊長!」
『返せよ?!』

 それで、ジェノアス部隊は、遠方から接近しつつ、ガフランへとビームスプレーガンの雨を降らせた。フリットがふと気付いて、自分の前方に居るガフランに目を向けると、”それ”は空を飛び、離脱しようとしていた。追い掛けようとしたが、間に合わない。相手はそれまで戦っていた人型から、翼竜の様な形態に変形し、自らが侵入してきたコロニーの外壁の方へと、飛び去っていった。

 ジェノアス部隊からビームスプレーガンの集中砲火を浴びていたガフランには、次第に変化が現れた。被弾した箇所が赤熱していて、やがて爆発が起こる。それで、何かが”切れた”感じの変化が、今まである奇妙な輝き?と言うかが消えて。ガフランは数機のジェノアスから放たれるビームに蜂の巣にされて、そして爆発した。

「た、たお、した・・・?」

 フリットは、その爆発するガフランに、飛び去ったガフランはともかく、呟いた。安堵というか、ふと我に返った時、通信機から罵声に近い呼び声が聞こえた。

『フリット!今どこじゃ?!無事かぁ?!!』
『フリット!?ねえ聞こえてる?生きてる?ちょっと返事してよ!!』

 バルガスと、エミリーの声だった。それでようやく、フリットは自分が、宇宙港へガンダムを運ぼうとしていた事を思い出した。

3機能
  宇宙港で、発進準備を続けていた新型の小型護衛戦闘艦「シヴァ」は、管制室からの切迫した通信を聞いた。

『こちらノーラ管制室、出航はまだ待って下さい、ガフランが一機離脱しました、外壁の外へ出ます』
「一機逃げた?それは好都合だ。管制室、出航許可願います。またとないチャンスだ。総員第一種戦闘態勢、主砲展開急げ!」

 シヴァの艦長は不敵に笑い、そう、クルーに宣告した。それを聞きつつ、ヘンドリック司令は苦笑した。困った顔でオペレータが、ヘンドリック・ブルーザー司令の方を向いたので。彼はオペレーターに告げた。

「出航を許可する。戦果を上げてくれる事を期待する」
「え、あ・・・あ、あの!シヴァ、出航を許可します、追撃を!」
『了解!シヴァ、出航する』

 宇宙港から、新型の小型戦闘艦「シヴァ」が、ゆっくりと離脱していった。外に、宇宙の深淵の中に出ながら、シヴァの主砲「2連装ドッズキャノン」が、標的を探す様にゆっくりと砲塔を回転させた。他にも迎撃兵装を次々と展開させながら、シヴァはガフランの侵入を許したコロニー外壁付近へと移動した。円筒形の外壁、その一部から、何かの爆発音と共に、あのガフランが飛び出す。艦長は命令した。

「対空砲、砲撃開始!主砲スタンバイ!!訓練どおりだ、成果を見せて見ろ!」

 対空砲が、ガフランへ向けて弾幕の雨を降らせ始めた。


『おい、ガンダムのパイロット、大丈夫か?』

少し呆然としていたフリットは、不意に呼び掛けられ、それで慌ててその通信主の方へカメラを向けた。白いジェノアスだった。

「あ、は、はい!大丈夫です!!」
『なんというか・・・ま、危なかったな』

 相手の苦笑が聞こえて、ふとフリットも苦笑した。他にも何機かのジェノアスが、今は近くで立っていた。フリットは相手へそうですね、とあいずちをうちつつ、ふとコンソールに目を落とすと、そこに奇妙な表示が出ていた。「weapon」の中に、シールドを含む通常のMS兵装の他に、「DOZ rifle」と言う、聞き慣れない武装名が有った。

「…ドッズライフル?」
『フリット!!お前だから言ったじゃろう今はまだ無理だとぉ!?』

 バルガスの罵声が急に割り込み、フリットは身を竦めた。謝りつつ尋ねる。

「ご、ごめんバルガス・・・あの、ねえ、ドッズライフルって何?」
『あ?ああ、そうか、そこまでAGEシステムは成長したのか・・・。ドッズライフルは、新型の対UE兵装だ。これまでのライフルとは比べ物にならんパワーが有る!それさえ使えれば・・・!』

 そこで、また。エミリー・アモンドの通信が割り込んだ。

『そんな事は!どうでも良いから!!私達も今、”ディーヴァ”に居るから。早く戻ってきてよフリット!!』

 怒っている様な声で。エミリーは通信機の向こうでそう、叫んだ。


4戦果
 その戦いは、小型護衛艦「シヴァ」に有利に運んでいた。今はそのガフランは逃げる事に必死で、戦闘をするつもりは無いようだったが。シヴァはそれを、最大戦速で追い掛けた。対空砲を嫌がり、羽根を動かし交わすガフラン。「ドッズキャノン」の射角へと、それは次第に追い込まれていった。砲手がターゲットマーカーを凝視した、スコープ内を動き回る標的に、ロックオンのシグナルがした。

「発射!」

 それと共に、砲手がトリガーを引く。2連装ドッズキャノンはそれで、一門ずつ時間差で、ガフランに向けて放たれた。一門目はしかし、微かに外れたが。2門目は、そのガフランへと直撃した。

 発射進路上に、宇宙空間で爆発が起こった。高性能な動体反応レーダーから、機影が消えた。ブリッジに歓声が響き、艦長は満足げに笑みを浮かべた。


「ガフラン、消失!大破確認!!」

 スペースコロニー「ノーラ」の宇宙港管制室で、オペレータが嬉しそうに報告し、管制室はにわかに沸き上がった。一安心と言う風に、ヘンドリック司令は一息付いたが。直ぐに顔を上げて、ざわめく管制室に声を上げた。

「付近に他の機影が無いか確認しろ!住人の避難はどうなっているか?!」

 それで、オペレーター達は急いで状況の確認を始めた。ヘンドリック司令の傍らにいたミレース中尉は、その様子を見つつ司令へと告げた。

「それでは我々は、ディーヴァに戻ります。住人の避難の方を頼みます」
「解っている、君らも頑張ってくれ。ガンダムしか頼りに成らないとしたら、我々は、それに縋るしかない」
「解っています・・・。ミレース・アロイ中尉、退出します」

 ミレースはヘンドリックに敬礼しつつ、管制室を出ていった。ヘンドリックは、忙しくノーラの避難状況を確認し指示を出しているオペレータ達を見つつ、呟いた。

「…我々も、脱出の準備を始めた方が良いかもしれんな」

 7年前に、スペースコロニー「オーヴァン」を失ってから。教訓としてノーラにも今は、数多の対策が施されては居る。そして今日、襲来したUEのモビルスーツを全て撃破すると言う快挙も成し遂げた。しかし、今ここには”ガンダム”がある。敵がもし、アセム・アスノが言っていた通りだとしたら。

「ここには今、ガンダムがある。私なら…どうする?」

 住人のシェルターシップへの移動が、思いの外進んでいない報告が入った。急がせろとは命じたが。急がせてもこのコロニーは広く、そして失いがたい物が、沢山あった。


5危機
「フリットの、あほぉ!!」

 ガンダムから降りたフリットを襲ったのは、突然のエミリーによる平手打ちだった。顔を面白く変形させつつ吹っ飛んだフリットに、エミリーが怒鳴り上げる。

「あんた宇宙港に行くって言ったでしょ?何喧嘩なんかしてんのよ!?馬鹿なの?!死ぬ気か?おい?!」
「ま、まあ、まあ・・・。と、ともかく、無事じゃったんだから、その位で…」

 実は同じ事を言おうとしていたバルガスだったが、エミリーの剣幕についフリットの擁護に廻ってしまう。頬を抑えて涙目で起きあがるフリットがエミリーに抗議する。

「だってしょうがないだろ?!お前知らないから、一生懸命戦ったんだぞ僕は!?」
「ま、まあそうじゃ、そうじゃな。まあまあ、どうどう」

 取っ組み合いの喧嘩に成りそうな二人の間で両者を止めつつ、バルガスは取り合えず安堵した。ようやく?少し静かに成った二人に苦笑しつつ、ガンダムを見上げる。

「まあ、良くやったよ。ドッズライフルまで使える様になった、思ったより速い成長だ。この分なら・・・」
「…この分なら?」
「ああ、まあ・・・大丈夫じゃろうと、な?」

 不意に、エミリーが疑問を問い、バルガスはちょっと複雑に、苦笑した。他のジェノアス部隊と共に、新造戦艦「ディーヴァ」の有る宇宙港へとやってきた彼らは、今はその他の”積み荷”の、積み込み作業に協力していた。ガンダムを格納庫のMSハンガーへと収納し、後はスタッフに任せる。広いディーヴァの格納庫へと、作業員がせわしなくプチモビ(小型のモビルスタンダード)を用いて大型のコンテナを次々と搬入している。フリットは少し、険しい表情に成った。

「次は、もっと・・・!」

 フリットの呟きに、バルガスは複雑な表情にはなった。その向こうを、プチモビを操りコンテナを運んでいく、フリットらと同じくらいの、赤い帽子をかぶった少年の姿があった。パイロットとしては、フリットの年齢は殆ど居ないが、作業員としてなら、あちこちで見かける現実。UEとの戦闘が始まってから、親を失う子供が増えて、そしてその多くが、軍での職務を希望した。フリットの祖父にあたる、キオ・アスノは”当時”まだ十三才だった。その孫が今、あのガンダムに乗ろうとしていた。

「フェザール、貴方が目指したのは、こんな世界だったか・・・?」

 バルガスは進む搬入作業を眺めつつ、ふと独り言を呟いた。それは父から聞いた昔の話だ、偉大なるその指導者は。父らと共にガンダムを創り上げたその人は。何故か、世界を滅ぼそうとした…と。


 小型戦闘艇「シヴァ」が、付近の機影を確認している最中。その高感度動体反応レーダーに、不審な機影を見つけた。レーダー監視員が解析作業を始める、大きい。しかし、大きさその物は「シヴァ」よりも一回り小型の様だった。それは進路を「ノーラ」へと向けて、直進するコースを取っていた。監視員は声を張り上げた。

「レーダーに機影!UEの戦闘艦と思われます!!」
「総員、戦闘態勢!!迎撃する、最大戦速!!」

 艦長は即座に宣言し、そして「シヴァ」はその敵影に向けて、加速した。


6防衛
 発進準備を終えて、まず軍艦が、幾つか宇宙港を出ていった。防衛体制を固める為だ。それを制御する宇宙港の管制室で、他の宇宙船への積み込み作業を見守っていたヘンドリックの元に、不意に来訪者が有った。スタッフが止めようとするのも構わず、室内へ強引に入ってくる。

「今は非常事態です!早くシェルターの方へ・・・!」
「ええい!やかましい!司令を出せ!コロニーはどうなる?!」

 声の主は、このスペースコロニー「ノーラ」の市長、ミヤマ・ヒゼだった。ヘンドリックより少し年上の彼は。彼が出向くと、捲し立てた。

「大丈夫なのだろうな?!突然シェルターシップへ移動しろなどと!このコロニーを守るのが!お前らの仕事だろうが?!」
「最善は尽くしております。ですが、UEの脅威は現実です。万が一を」
「あってはならん事だ!ここにはノーラ住人の財産も生活も全て有るんだ、コロニーを捨てる様な話を!おいそれと流す馬鹿が、居るか!!」
「現にガフランに、コロニーの外壁を破壊されてる!ここはもう、安全な場所じゃない!!」

 相手が黙る形相で、ヘンドリックはミヤマに怒鳴った。それで気圧された彼は、少し下がると、視線を逸らしつつ、向きを変えた。

「…船の数が、たらんよ。住人を全て移動させる事など・・・」
「軍用艦の方にも、乗せられる場所を創るよう、指示は出して有ります…ご理解を」
「…優先順位は?」
「お任せします」
「…解った」

 そう言うと、ミヤマ・ヒゼは。暗い表情で管制室から出ていった。管制室には暫く、沈黙が流れた。


「ここに乗るの?」
「そう、大人しくしててね?」
「オトナシクシロ、オトナシクシロ?」
「なんか違うぞハロ?」

 コロニー住人の避難として、宇宙戦艦「ディーヴァ」へは、付近のチャイルドコミューンの子供達が、先生らに先導されて乗り込んできた。今から親元へ戻すには時間が無かったし、また危険を回避する上ではここ以上に安全な場所は無い、と言う判断だった。コミニュケーションロボ「ハロ」と言う、ボールの様な、子供に人気の玩具ロボットを抱えた少女や、少年らが、物珍しそうに辺りを見回していた。引率の保育師の女性が、そこにいるエミリーら少女兵にお願いする。

「じゃあ、後は頼むわね?私は親御さん達の確認をしてくるから」
「はいっ!」

 エミリー達はそう答えて、そして部屋の中に入って子供らに声を掛けて、見ていると、さっそく手を焼いているらしかった。そんな様子に苦笑しつつ、フリットはバルガスと共にまた、ガンダムの格納庫へ向かった。

「出航は、まだわからん。敵の機影が確認されたそうだが、今なら・・・」
「急ごう、ガンダムで、ちゃんと戦える様にしたい」
「・・・そうだな、その為に造ったんだが・・・」

 前を走り出したフリットに、バルガスは少し、呟いた。


7戦闘
「敵戦闘艦より、MSらしき機影を確認!!複数・・・4機を確認!」
「主砲スタンバイ!最大戦速を維持!敵戦艦を直接叩く!ノーラへも伝えろ!」
「了解!」

 「シヴァ」の艦長は、そう言ってレーダーを凝視した。敵の戦艦から四つの機影が、シヴァへと向かってくるのが見えた。どのみち、過去の例だ。今はMSが幾ら居ても殆ど当てにならない。敵戦艦を叩ければ、ガフランも帰る場所を失う。艦長は両手を握った。

「出来る、出来る筈だ、ここを凌げれば・・・!」

 やがて、翼竜形態のガフランが接近する。高速で進むシヴァへと襲い掛かった。シヴァの対空砲が弾幕の嵐を造り、ガフランへ幾つかヒットした様だった。


 コクピットの中で、一息付いて飲料型の食料を吸っていたウルフは、ラーガン隊長からの連絡に声を上げた。

「また敵機が?!」
『ああ、ともかく急いでバッテリー交換しろとさ、完了次第、俺達も直ぐに出るぞ!』

 宇宙戦艦ディーヴァの中に格納されたラーガン隊は、今は尽き掛けたバッテリーの交換作業に終われていた。デスペラードは水素エンジンによる内部発電形式だが、発電量が低く、その分動きは鈍重で。故に、MSは高い電力放出量を得られる特殊バッテリーをその動力にしていた。各部のカバーを開け、壁から伸びるマニュピレーターがバッテリーコアを取り出し、そして新しい物と交換する。同時に推進剤の注入も行っていたが、作業完了まではまだ、暫くは掛かりそうだった。その向こうでは、AGEガンダムが同じ様な状態だったが、しかし、繋げていた推進剤の供給バルブが抜かれた。開いたコクピットで、見守るバルガスの前で、フリットがコンソールを弄っていた。

「じゃあ、ドッズライフルよりもハイメガバズーカの方が、威力は高いって事?」
「当たった場合はな。ドッズライフルも、有効射程距離は従来のビームライフルより短い。それ以上の距離になるならバズーカの方が良いが・・・ミサイルの様な物だ、弾数制限がある」
「解った、ともかくノーマル装備ならドッズライフルとシールドだね?」
「しかし、凄いな、AGEアイコンの四つまで起動状態にある・・・。AGEビルダーの方も、これなら直ぐに動きそうだぞ」
「AGEビルダー?」
「ああ、お前が前に言っていただろう。AGEデバイスは、”部品”を理解出来る。データさえ入れてやれば、その組み合わせで新しい物を作り出せるかもしれないと」
「でも、材料が無ければ・・・」
「まあ心配するな、このバルガスに抜かりはないっ!」

 妙に自信たっぷりに、バルガスはそう笑った。その時、階下がざわめいた。


「対空砲!良く狙え!!何をやっている!!」
「やってますよ!やってますが・・・くそぉ!!」

 そう叫びつつ、シヴァの対空砲手は眼前を飛び回るガフランへと砲撃を続けたが。さっきとは全く違う激しい動きに、今の対空砲は、カスリもしなかった。ヒットアンドウェイを繰り返すガフランのビームバルカンは着実に「シヴァ」へと着弾する。対空砲の連携でガフランを追い込み、主砲で仕留める。シミュレーターで何度も行ったそれは今、想像を超えた高機動の前に全く役に立たず。ただ闇雲にバルカンの閃光は宇宙の暗闇に消えていく。艦長が叫ぶ。

「主砲!敵戦艦を狙え!撃てぇ!!」
「はい!」

 まだ、十分に接近は出来ていなかったが。ともかく、ドッズキャノンの射程に敵戦艦は入った。距離が遠かったが、砲手は命令通りにトリガーを押す。放たれるキャノンの閃光は敵の戦艦へと吸い込まれていったが。しかし、それは外殻の”何か”にぶつかり、そして、四散してしまった。艦長は、驚愕した。


8悪夢
切迫した通信が、ディーヴァのブリッジにも入った。

『こちらシヴァ!現在敵兵力と交戦、至急援軍を求む!』
「こちらディーヴァ、現在”ナーガ”が救援に向かっています、それまで・・・!」
『駄目だ、敵の数が・・・』

 シヴァからの通信は、それで途絶えてしまった。ざわめくブリッジで、グルーデック艦長は口を開いた。

「積載作業の進捗状況は?」
「…あ、はい。後五分ほどで完了するそうです。格納庫のMS部隊も準備出来てます」
「戦闘待機」
「…は?」
「待機だ、別命有るまで待たせろ」
「あ、は、はい」

 そう言って、オペレーターは艦内スタッフへと、戦闘待機を伝達する。ヘンドリック司令の方からはまだ、作戦行動の要請は来ていなかった。しかし、ナーガ他、既存の戦力で防衛は、難しいかもしれなかった。やがて、管制室から通信が入る。戦闘艦「シヴァ」が轟沈したと言う。それから、ヘンドリック司令の方から通信が入った。

『これより、”ヴィシュヌ”を出航させる。ディーヴァはその護衛任務に付いてくれ』
「シェルターシップは?」
『まだ、コロニーを捨てる事はできん…。ノーラは、その他の戦艦により防衛する。君らは急ぎ、ガンダムをファーデーンへと運んでくれ』
「・・・なかなか、オーダー通りには行きませんな」
『そんな物さ』

 ヘンドリック司令はそう苦笑して、そして通信は切れた。ブリッジの外では、ディーヴァより一世代前の、同じくMS運用能力を持つ「ラークシャーサ」が出航していった。管制室より、ディーヴァへも通達が来る。宇宙港の外では既に、巨大輸送艦「ヴィシュヌ」が待機している筈だった。

『ディーヴァ、出航を許可します』
「了解。ディーヴァ、出航する!!」

 グルーデック艦長が宣言した。その傍らに座りながら、MS戦略/戦術担当のミレーヌ中尉は、手元のコンソールを見ていた。現在のディーヴァに積載されたMSは、ジェノアス六機、ウチ一機がカスタム型、そしてガンダムと、その各種武装。ディーヴァその物の戦闘力は申し分ない、現状考えられる最高性能を盛り込んだ新鋭艦だが。ノーラを守る為に残った戦力も、今は似たような数しかなかった。シヴァが轟沈した今、たったこれだけの戦力で、ミレーヌはディーヴァを守らねばならなかった。

 戦闘待機を告げられて、格納庫のフリット達はパイロットスーツに着替えていたが。暫くして直ぐに出航が打診された。パイロットは戦闘態勢のまま、ブリーフィングルームで待機。着替えたフリットもそこへ行く様に指示された。緊張が漲る中で、ノーラへと。シヴァを轟沈させた新たなガフランが4機、再び襲来していた。


9試練
 ノーラ住人の避難は続いていたが、時間帯も問題は有った。時間は今、夜の十一時を廻ろうとしていた。コロニーの採光ミラーを開けられない事で、内部は夜のまま作業せねば成らず、その暗さも移動を妨げていた。スタッフが集まる人々を振り分けている。五十代以上の人々や、家族を持たない人々は、銃を持った軍人らにより避難を後回しにするよう「お願い」されていて、そこで一悶着は起こっていた。TVでは、ノーラ市長「ミヤマ・ヒゼ」が出演し、住人に理解を求めていた。ただその説明の中には、シェルターシップに収容出来る人の数は足らないのでコロニーがもし倒壊した場合、助からない人々が出る、その情報は無かった。


 フリットは、ブリーフィングルームで「待機」を命じられていた。他のパイロットが命令書を端末で確認して出ていく中、一人取り残される。ミレース・アロイ中尉にフリットは抗議した。

「僕も出ます!ガンダムなら・・・!」
「馬鹿を言わないで。貴方は解ってないの?ガンダムであんな戦いをした人を、おいそれと出す訳に行かないのよ」
「で、でも!!」

 自分の迂闊さの様な物を、無様な戦いを思い出し、口ごもりつつ。ミレースは諭すようにまた、言った。

「ガンダムを使えるのは、貴方だけなのよ・・・よく考えてね?」

 フリットはそれで黙り、素直に今は、ヘルメットを脱いだ。しかしそこへ、ミレースへブリッジから通信が入る。ディーヴァは宇宙港の外へと出ようとしていた。その広域高感度動体レーダーが、遠距離で始まるガフランと、ラークシャーサから射出されたジェノアス隊との戦いを捉えたが。その向こうから、別の、直進する物体を捉えたのだ。画像解析の結果は、人々を戦慄させた。

「こ、コロニーデストロイヤー?!それが、向かってるんですか?!」
『速度が速い、後三分以内にノーラにぶつかります!迎撃を!!』
「そ、そんな・・・!わ、解りました!!」

 狼狽し、狼狽えたミレースは、見上げるフリットに気付いた。表情が強ばっていた。しかしフリットに構わず、ミレースはMSで発進準備中の、再編成されたラーガン隊に伝えた。

「ラーガン隊、直ぐに出撃して下さい。コロニーデストロイヤーが迫っています、それを止めてください!!」
『はあ?!ホントか?』

 フリットはその会話を聞きつつ、声を震わせた。古の記憶が蘇った。白濁の熱量に消えていくオーヴァンの様は、まだ忘れる事は出来なかった。

「コロニー・・・デストロイヤー・・・?」

 フリットはそれで、AGEガンダムが立つ格納庫へと走り出した。ミレースの静止は、耳に入らなかった。


 敵の戦艦から放たれた”それ”は、まっすぐに。ガフランとの交戦状態になったラークシャーサを嘲笑う様に、その脇をすり抜けて、ノーラへと直進していた。二つの、それはまるで巨大な剣の様な、赤い色をした、大型のミサイルの様なそれは。やがて先端部を赤熱化し、加速した。


第二話「悪夢、襲来」終
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
初掲載日:2012/06/21

次回予告
 襲来するコロニーデストロイヤーは、無慈悲にノーラを襲う。迫り来る消滅の恐怖の中で、人々は不可能へ挑む。

次回、「機動戦士ガンダムAGEミラースタイル」第三話「宇宙戦艦ディーヴァ」
古から続くその道は、果たしてどこへ向かうのだろう。

次回掲載予定:2012/06/28
戻る
end