機動戦士ガンダムAGEミラースタイル
2012/06/14
第一話「ガンダム、起動!」
1草原
人工重力が有るとは言え、そのスペースコロニーはドラム型で、それ自体の回転により人工重力を発生させていた。再現された草原、コロニー内部に満ちた大気の、その気流は風を造り、吹き抜ける。フリット・アスノはそんな広場の一角に寝ころんで、”空”に見える隣の地区を眺めていた。今は、する事が無かった。そもそもフリットはまだ、14才だ。本来なら、2期生でしかない。”あんな事”が無ければ。今頃は故郷のオーヴァンで。友達と共に親から、宿題をしろとでも叱られている時期の筈だ。7年前から彼の生活は何もかも変わってしまった。オーヴァン、彼の故郷のコロニーは今はもう、無い。
「役に立つのか・・・こんな物が」
フリットはそう呟きつつ、胸元から、奇妙な小型端末の様な物を取り出した。コンソールの様な物があるが。フリットは”それ”が動いた所を見た事はまだ、無かった。AGEデバイス、7年前に戦死した父が持っていた、そして母親から託された”それ”は。今の苦境を唯一打開しうる物だと言う。父が、アセム・アスノが死んで。母親のロマリー・アスノはそして直ぐに。彼へこのAGEデバイスを受け継ぐ”儀式”を行った。血の契約、遺伝子レベルでの、血族による後継者である事を証明した後。それはフリットの物に成った。それから母は。軍の人々と協力して。MSの開発を始める。この窮地を打開する為だ、長らく失われていた「モビルスーツ」という兵器を復活させねば成らなかった。フリットはそんな、何かに取り憑かれた様な母と共にその現場に携わり、そして何かの助けになろうと。彼もまた、大人達に混じり様々な事を学んだ。そしてそれがようやく形を見せつつあった頃、「UE」の戦闘兵器、「ガフラン」と呼ばれるそれは、オーヴァンを襲撃した。母はMSの資料を持ち出そうとしたが逃げ遅れ、そのまま、コロニーデストロイヤーの餌食と成って…オーヴァンと共に消えた。通信で残る母の、最後の言葉はまるで呪縛の様に、彼を今も責め立てている。
「世界を救いなさい、貴方が!」
AGEデバイスを握りしめつつ、フリットは目を閉じた。やがて彼を呼ぶ少女の声がして、フリットは身を起こした。
「ノーラなら、安全なんでしょう?ガンダムだって、もう殆ど出来てるんだから」
電動の、コロニー内移動モジュール「エレカー」でノーラの市街地を走りつつ。運転するエミリーはそう、隣で不機嫌そうなフリットに語りかけた。エレカーは今は。軍事施設アリンストンへ向かっていた。街の様子は、平和その物だ。今が戦争中である事を意識しているのはここでは、軍関係者だけかもしれない。フリットは車外の様子を眺めながら、反論した。
「確率では、だよ。ここが襲われる可能性は2%以下だ。今の所は最も安全だと言って良いけど。相手が機械じゃなかったら、そんな計算意味がない」
「だってそれ、自分で考えたんでしょう?出現傾向がある、確率計算が成り立つって。頼りないな、ガンダムの開発主任のくせに」
エミリーは苦笑し、フリットは反論した。
「僕がアレを造った訳じゃない!僕は単に!デバイスの起動キーでしかないんだ。デバイス内部の設計図からガンダムを構築したのはバルガスだよ、僕にあの場で何が出来る」
「…ちょっと、貴方がそんな弱気でどうするの?ガンダムを使えるのは。貴方だけなんでしょう?」
エレカーの前方から、軍事施設「アリンストン」の門が見えてくる。黙ってしまったフリットに、エミリーは苦笑した。
「まったく、ガンダムの事になるとね」
「…違うよ」
「違わないわよ。貴方がどう考えているかはともかく、ガンダムは貴方が造ったのよ」
「僕に、そこまでの力があると思ってるのか?」
フリットの問いに、エミリーはただ苦笑しただけだった。エレカーは停止した。基地入り口のゲートは閉じていたが。やがて識別コードを認識され、アリンストンの入り口のゲートが開いた。
2基地
休憩室でコーヒーを飲みつつ、階下の軍事施設を眺めていた白髪の人物に、軍服の女性が近づいて声を掛けた。
「ヘンドリック司令、フリット・アスノ、到着しました」
「もう来たか。定刻通りとは。真面目な奴だな」
”司令”と呼ばれたその人物は苦笑しつつ、そのまま暫くコーヒーを啜った。階下では大型のトレーラーが人型の、”モビルスーツ”と呼ぶ兵器を。軍事演習場へと運び出そうとしていた。ふと呟く。
「ジェノアスで役に立たないなどと、認めたくは無いがな」
「しかし事実です。今だ、我々はガフランを…撃墜した事さえ有りません」
「次の新兵器は。少しは期待できるのかな」
「ガンダムなら・・・」
コーヒーを飲み干したヘンドリックに、ミレース・アロイ中尉はそう、期待を込めて言ったが。ヘンドリックは目を細めた。
「伝説は、美化される物だ…ガンダムは、私の父を救いはしなかった」
苦笑しつつ、押し黙ったミレースを促して。ヘンドリックは演習施設へと向かった。
広大な演習施設へと運び出されたトレーラーの一つが、唸りを上げて「荷台」を上げた。キャリアーに固定された、全高18m近い人型の機動兵器、モビルスーツ(MS)「ジェノアス」が起立する。そのコクピット内部で、ウルフ・エニアクル中尉は操舵レバーを操りつつ、愚痴をこぼした。ジェノアスが起動し、歩き始める。
「俺が、何で?こんな事しなきゃいけない訳?」
『今日に限って休暇中だった、自分の不運を恨みな。一足先に新型を拝めるんだ、役得だと思えよ』
通信機の向こうで、隊長であるラーガンの苦笑が聞こえる。不満は消えない。
「俺が乗れる訳じゃねーんだろ?」
『まあな』
「基地司令までお出に成るほどの物かね、そのガンダムってのはよ」
『お前の目で確かめてやればいいさ』
ジェノアスのメインモニター前では、もう一台のトレーラーが軍事施設内へと運び込まれてきた。トレーラーが停止し、そこへ駆け寄る少年?の姿が有った。ズームアップさせる。カメラの前で、フリット・アスノは何かを取り出しつつ、そのままトレーラーに固定されて横たわる、どこかで見た様なMSのコクピットハッチを開き、搭乗していった。
「子供かよ…」
呟くウルフの前で。やがて、「AGEガンダム」と言うらしいMSを載せたMSトレーラーのキャリアーが可動を始めた。目の前に立つそのMSを、ウルフも以前に、見た事が有った。MSの教本にさえ載っている。70年近く昔の大戦の頃に。「ヴェイガン」と呼ばれた敵を打ち払ったと言われるMSだ。「ガンダム」と言う名のそれに、それはよく似ていた。やがて、AGEガンダムの駆動試験を始める通信が入る。ウルフはふと溜息を付いた。
3演習
スペースコロニー「ノーラ」へと、その大型宇宙戦艦は航行を続け、近づいてきた。ブリッジから、コロニー管制室へと。オペレーターが入港許可を求めた。
「こちら宇宙戦艦”ディーヴァ”。作戦名<AGE>のオーダーにより渡航した。入港許可を求める」
『こちらノーラ管制室。ディーヴァ、オーダー確認しました。軍用ポートにコードCで接続し、後は自動制御に』
「了解。ディーヴァはこれより、タグコードCで接続する」
巨大な、全長は300mはあろう、宇宙戦艦「ディーヴァ」は、ノーラから発せられる秘匿コードの一つにアクセスし、やがて自動航行制御に入った。宇宙港からレーザービーコンが放射され、その航路へとディーヴァはゆっくりと移動していき、やがて宇宙港の、軍用ポートへと吸い込まれていった。そこには他にも幾隻かの宇宙戦艦があったが。ディーヴァはその中に有っても少し、特異な形をしているように見えた。そのブリッジで、グルーデック艦長は溜息を付いた。
「確か、確率は2%だと言ったかな、付近に機影は無いか?」
傍らのレーダーオペレーターが答えた。
「現状は、敵影は確認されていません。ただ、レーダーが役に立っていれば、ですが」
「最新鋭とは言っても、敵がテストに出向いてくれる訳じゃないからな」
グルーデック艦長はそう言って、少し笑った。
軍事施設「アリンストン」の、その広大な軍事施設に立ち上がった「AGEガンダム」のコクピットで。フリットはコントロールスティックを制御しガンダムを操作しようとしたが。コンソールには奇妙なマークだけが出て、暫くは動かなかった。”クエスチョンマーク”だ。フリットはつい声を荒げた。
「前へ歩けって言ってるんだよ!」
だが、コンソールには。スティックの操作する方向こそ映っている、”指示を出している”事は確認できるが。AGEシステムは、それをまだ、理解していないらしかった。見守る人々もざわめきが次第に漏れ始める。見上げる基地司令が、傍らの、小太りの老人に声を掛けた。
「動かない、様だが…」
「それでもともかく、立っては居ますよ。なんせ始めて立った訳ですからね」
バルガス・ダイソンと言うその老人は、そう言いつつ苦笑し。傍らの通信機を取り出した。
「おいフリット!いきなり走れなんて言っても困るぞい?」
『だ、だって!』
「まずは、”歩け”だ。スティックをもう少し、ゆっくり」
バルガスが、なにか諭す様に言って。フリットはそれで、少し深呼吸した後。スティックを戻して、そしてホンの少しだけ、前に押した。同時にアクセルをゆっくり踏んで行く。やがてコンソールに「waik for front」と言う文字が表示されて。それで、AGEガンダムはゆっくりと、足を前に出して、歩き出した。傍らで待機中のジェノアスの中で。ウルフは吹き出した。
「ぶはっ!おいおい…なんだよそりゃ?」
笑いを堪えるその前で。AGEガンダムはゆっくりと、ぎこちない足取りでそれでも、歩き始めた。フリットはコンソールを凝視し続けた、コンソールの傍らに現在の情報がリストアップされて、スクロールして消えていく。次第に理解し始めた。次第に、スティックの動きにAGEガンダムの動きが追随してくる。何かのアイコンが、次第に、一つ一つ、輝きを増していく。AGEガンダムはその演習施設内を暫く、様々な方向へ歩き続けた。「移動」に関するアイコンが、やがて電子音と共に点灯し、表示が変わる。フリットはそれでも、嬉しそうな声を上げた。
「バルガス!移動アイコン、クリアしたよ?!」
『良くやったフリット!今日は、この辺にしようか』
「うん!」
時間としては、そう長くない。フリットはAGEガンダムを歩かせて、それをキャリアーまで運んだ。セットされ、キャリアーと共に倒されていく。見ていたジェノアスの中でウルフはつい、尋ねた。
「…これだけ?」
『ああ、撤収だそうだ、お疲れ』
「なんだなんだぁ?なんだこりゃ」
ウルフも、ジェノアスをキャリアーへと運びながら。面白く無さそうに、コンソールを切った。
4襲来
「…大丈夫なのか?これで」
「まだこれからです。立ち上がったばかりの赤ん坊に、過度な期待はきついでしょう」
AGEガンダムの動作映像を見ながら。ディーヴァのグルーデック艦長は、傍らのミレース・アロイ中尉から説明を受けていた。作戦<AGE>はこれよりガンダムやその他MSを戦艦ディーヴァに搭載し、極秘裏の軍事演習を行いAGEガンダムを”進化”させねば成らない。グルーデック艦長は。ふと溜息を付いた。
「どれほどの物なのかな、ガンダムは」
「もちろん、今はまだ直ぐには、戦力としてあてに出来る状態では有りません。それでもこれが、あの”ガンダム”である事は…確かです」
「正直言うとね、自分はガンダムをあてにはしてないんだ。他に積み込まれる方に興味が有る。ジェノアスのカスタム機が持てるビームソードは、ガフランの装甲を貫けると言うが…事実か?」
「今の時点では、正直頼りになる兵器とは言えません。機体制御系へのエネルギー供給を止める事でそのパワーを得るんです。使い所が難しい」
ミレースの傍らにいた、ラーガン・ドレイス戦闘隊長が言う。グルーデック艦長が溜息を付いた。
「何もかも、AGEシステム次第だと言う事か。間に合うのか?」
「間に合わせねば成らないんですよ、でなければ・・・」
ミレース中尉は、そう呟いた。
アリンストン基地の、専用の格納庫にしまわれた、キャリアーに固定されて横たわるAGEガンダムを、フリットは通路から見下ろしていた。表情は、少しかげりは有った。記憶。演習場でガンダムから降りたフリットが、バルガスやエミリーから労われている向こうから。色黒のパイロットの笑い声が聞こえた。あてにならない、何かの玩具じゃない。フリットは昔見た、アスノ家の先祖が使ったとされる「ガンダム」の肖像を思い出した。AGEデバイスから読み出したガンダムは、正に”これ”の筈だった。しかし、絵の中のそれとは。自分が造ったこれは、今は全くの別物の様に見えていた。
「これじゃ、ない」
フリットが呟いた時。エミリーがちょうど、フリットに会いに来た。苦笑しつつ、一緒に見下ろす。エミリーが尋ねた。
「勝てるの?これで」
「解らない」
それで、二人は押し黙った。
基地のレーダーには、その時は、何の反応も無かった。”それ”は、まるで嘲笑うかのように。スペースコロニー「ノーラ」を宇宙の、その遠方から見ていた。次第に入港してくる、幾つかの宇宙戦艦。その視線の内部で、次第に何かの「レベル」が上がっていった。紫色のそれが、巨大な、MSの様な大きさの体を動かした。何か、翼竜の様なイメージだった。それでも、基地のレーダーは何も捉えなかった。そして、紫色のそれに続いて。青色のそれが複数、動き始め、羽ばたいた。それは、スペースコロニー「ノーラ」へ向けて、静かに飛び立った。
5戦場
「ノーラ」の監視員は、その時は外の宇宙の暗闇へと黙視確認をしていた。既に時間は”夜”の9時を廻っていた。本人も、それ程真剣では無かった。コロニーの採光ミラーは閉じられて、自分も交代時間までただ、いつも、そこでぼうっと外を眺めるだけだ。あくびをしつつ外を眺めている。その確認用の窓は特殊な装置が施されていて。太陽光を適度に減算し、そして薄暗い光は加算する事で、視認確認をし易くしていたが。それでも、太陽光が直接当たる場所は、単なる白い表示でしか無かった。
「…ん?」
不意に、その、真っ白な太陽光の表示の中に。少し、色が減算された…点の様な物が横切った、様な気がした。見間違いかとは思ったが。次の瞬間、突然、”窓”に映る太陽光は全て遮られた。代わりに、暗闇の中に不意に、何かの光のラインが瞬いた。
「ガフラン」と、地球連邦軍に呼称されるその、アンノウンエネミー(UE)と呼ばれる敵戦力のMSは。そのまま、その壁にその、鋭い爪を突き立てた。何かの爆発に構わず、そのままコロニー外壁へ両手を撃ち込み、そして掌にあるバルカンを連射した。爆発し熔解した対デブリ用のコロニー外壁を、それはそのまま引き裂いて。外へと放り出される監視員や機材に構わず、まるで地下から現れた悪魔の如く、それはコロニーの内部へと侵入していった。
街を行き交う人々がその異変に気付いたのは。”空”から突如、その翼竜の様な巨大なモノが、街へと降り立ってからだ。街の明かりに照らされて、浮かび上がるその頭部は、付近を調べる様にその、線の様なセンサーユニットを輝かせた。付近は市街地の様だった。目標とされる場所では無かった。紫色のガフランが周囲を索敵している間に、他の青色のガフランも周囲へと降り立つ。騒然となる街並みを見つつ、紫色のガフランは前方へ腕を突き出した。その他、3機のガフランはそれで、腕のビームバルカンをコロニーの街並みへと放ち始めた。あちこちで悲鳴と、そして爆炎が上がり始めた。
ウルフ・エニアクル中尉は吐き捨てつつ、自分の愛機である白いジェノアスへと乗り込んでいった。起動したフロントディスプレイには、ラーガン隊長のジェノアスが動き出した様が見えた。市街地へのガフラン強襲、しかしここはまだ距離が有る。つい叫ぶ。
「なんでジェノアスは空飛ばねーんだよ!」
『メーカーに言え!ラーガン隊、出るぞ!!』
軍事基地アリンストンの。そのMSハンガーのシャッターが開き始める。ここからジェノアスの足では、強襲を受けている市街地までは数分は掛かる。ラーガンも焦り始めた。そして外の状況は、更に悪化していた。MSハンガーから出た直後。突然上空から付近の軍事施設へと、何物かによる砲撃が有った。索敵が間に合わない混乱の中で、降り立った一機のガフランは、ラーガン隊のMSをそのセンサーに捉えた。
『散開しろ!!』
ラーガンは叫ぶが、間に合わなかった。ビームスプレーガンを乱射しつつ後退するラーガン隊の一機、ケインのジェノアスに、ガフランはその連射を片腕で弾きつつ急接近した。そのままガフランの腕はジェノアスのカメラユニットを捕まえ、そしてもう一つの腕でガフランはそのコックピットを貫いた。歪な通信音がした、ウルフが叫んだ。
「なろぉ!!」
先日支給されたばかりの。白いジェノアスカスタム専用のビームソードを持たせ。ウルフはそのまま機体を突進させる。ショルダータックルでガフランに体当たりするが、相手を打ち倒す所までは行かなかった。跳ね飛ぶが、直ぐに体勢を立て直す。センサーが不気味にウルフを捉えた。そして状況は更に悪化した。他3機のガフランが、アリンストン基地へと襲来した。その向こうで、爆発が起きた。
6起動
たて続く振動と、そして基地内に響きわたる警告音の中で。フリットはエミリーを置いて走り出した。慌てて後を追うエミリーが叫ぶ。
「フリット!何をする気?!」
「ガンダムを起動させるんだ、ここに居たらやられちゃうよ!!」
フリットはそのまま階段を駆け下り、ガンダムが横たわる格納庫へと走り出した。途中で止まり、エミリーに振り返る。
「ゴメン、ハンガー動かして!出来る?」
「しょうがない!!」
エミリーも状況を理解したらしく、しぶしぶMSハンガーの方へと走った。フリットはAGEガンダムのコクピットへと近づき、AGEデバイスをセンサーユニットに翳すと、認識音と共に、そのコクピットハッチはゆっくりと開き始めた。内部の微かな補助灯が点灯する、薄暗いコクピットに滑り込んだフリットは、上を向いた体勢のまま、手に持ったAGEデバイスを、そのスロットへと差し込んだ。
「母さん・・・、僕成れるかな、みんなを守る、救世主に」
差し込まれたAGEデバイスはそれで、ガンダムの、「AGEシステム」を起動させた。コンソールが輝き、AGEシステムの中核を成す「アドミニストレイター・ゲイズ・エントランス」の幾つかが、コンソールへと展開する。”これ”を全て「起動」状態に出来れば、ガンダムはかつて世界を救った、その真の性能を発揮しうる、筈だった。まだ、「移動」に関するモノしか変化していないそれを観つつ、フリットはそれでも、スティックを倒した。
「ガンダム・・・やれるよな、お前なら」
慌てたバルガスがAGEの格納庫に来たのは、フリットがAGEガンダムを立ち上がらせたその直後だった。バルガスが叫ぶが、フリットは一方的に答えた。
『バルガス!エミリーを連れて逃げて!』
「フリット!そいつはまだ無理だ、軍が来るまで・・・!」
『ガンダムなら大丈夫だよ、早く!』
「ええい!解った!!」
バルガスはそれで、少し抵抗するエミリーを連れて、基地の中へと逃げていった。開き始めるシャッターの向こうから、しかし赤い炎の光が見えた。ここから宇宙港までは少し距離が有る。フリットがスティックを前に倒すと、コンソールに「RUN?」の表示が出る。少しスティックを引き戻しつつ、フリットは笑みを浮かべた。扉は完全に開き、ガンダムは格納庫の外へと歩き出した。
しかし安堵はつかの間でしか無かった。外にでた直後だ、センサーが巨大な存在の動体反応を捉えた。少し前方の軍施設で爆発が起こり、そしてそこに、巨大な質量が落下した。フリットは身構えた、それは故郷「オーヴァン」を壊滅させた、あの、ガフランと言うMSだった。それはフリットの方へ、ガンダムへとそのセンサーアイを向けた。
7破壊
コクピットの中で、ラーガンは舌打ちした。戦況は悪い、と言う以前の状況だった。ガフランの掌から放たれるビームバルカンには、ジェノアスのシールドさえ殆ど意味が無かった。ビームスプレーガンはまるでサバイバルゲームの弾の様だ。それでも当てれば動きは止まる、当て続けるが。ダメージに成っている様には全く見えなかった。ジェノアスの一機がスプレーガンを乱射するが、眼前の敵機に気を取られすぎて。隣から違うガフランのキャノン砲がそのジェノアスを貫通する。背後のプロペラントタンクに引火して爆発、濛々とした煙の中で、しかし、ウルフが叫んだ。
「ざけんなよ!こらぁ!!」
煙の中から、ジェノアスカスタムが走り込む。足を上げ、全体中をそこに載せる様にそれをガフランへと撃ち当てた。腹部に食らうその衝撃は、流石にガフランを弾き、地面へと打ち倒す。そこへビームスプレーガンを乱射するが、ガフランは直ぐに浮かぶようにして体勢を立て直した。だがラーガンも、それへとスプレーガンを放つ。空中で体勢を崩したガフランは落下し、ウルフはそれへめがけて走り込んだ。ビームソードを持たせる、「アタック」モードへ変えた。落下地点へ照準し、トリガーを押す。
その瞬間的に、ジェノアスカスタムはソードを突き立てる体勢で機体を硬直させた。ビームソードは輝きを増し、加速したその質量はちょうど、ガフランへと命中した。激突し、深々とその装甲を貫いたジェノアスカスタムのビームソードは内部のリアクターへ到達し、ガフランはそこからスパークを放ち始めた。離れた直後に、そのガフランはそのまま爆発する。ウルフが叫ぶ。
「おっしゃあああ!!」
『後ろだ!』
ラーガンの罵声で、ウルフは気付いた。背後から捕まえようと襲ってきたガフランが居て。それをウルフは何とか、ビームソードで止める事は出来たが。しかし、ビームソードがガフランの両手で止められている光景には、先ほどの高揚感も吹き飛んでしまう。直ぐに機体をバックダッシュさせ、ビームスプレーガンに持ち変えるが。向こうで、一機のガフランが飛び立つ姿が見えた。ウルフも気付いた、それは昼間、軍事演習施設で見た、「ガンダム」が格納されているエリアへと向かっていた。
『止めろ!奴はガンダムを狙ってる!!』
ラーガンの通信は、聞くまでも無い事だったが。しかしその場にはまだ、青いガフランが2機も残っていた。
「ガンダム、格納庫を出ました」
「A−2ジェノアス!通信途絶えました!」
「ラーガン隊、至急ガンダムの防衛へ廻って下さい!」
『いけるかよ!!こっちも手一杯だ!!』
オペレーターの報告と、現場からの通信と。入り乱れる作戦司令区画で、ヘンドリック司令は苦痛の表情を浮かべた。ガフランの一機を仕留めた、それは連邦初の快挙だ。にもかかわらず、当初10あった、3機編成のジェノアスチームは今はもう、4チームまで減っていて、そのいずれも無傷、と言う部隊は居なかった。UEは今もなお、撤退する様子は見せない。今回は、以前の襲撃とは違う様だった。
「ガンダムを狙っている、と言うのか・・・」
再び報告がある、A−3ジェノアスが、大破したらしかった。
8遭遇
「交わせ!ガンダム!!」
スティックを引きつつ、フリットは叫んだ。AGEシステムは音声認識も組み込まれている。手動での要求だけではなく、パイロットの意思だけでもガンダムを操作する事は出来たが。「回避」を示すAGEアイコンはまだ、十分なレベルに到達していなかった。迫るガフランを前に、機体を横に動かしただけで。直撃こそ免れたモノの、ガフランの体当たりを受け、ガンダムは跳ね飛ばされた。AGEシステムへ次々上がる状況データは、AGEアイコンの各種へと分配されていくが。そのどれが起動状態に成るのか、フリットでさえ今は解らなかった。どのアイコンもまだ、十分な起動状態にならない。よたよたと、ガンダムはそれでも倒れはしなかった。衝撃に耐えつつ、フリットは前を向いた。
「今は・・・!」
ともかく、”移動”を示すアイコンだけは。十分な起動状態では有った。スティックを操作し、目の前に居る紫色のガフランを視野から外さない様にはしつつ、宇宙港への突破口を探す。もちろんガフランは待つような事はしなかった。ガンダムへ掌を翳し、ビームバルカンを乱射する。交わす様な事は、出来なかった。それはそのままガンダムに直撃する。さっきよりも大きな、そしてたて続く衝撃により、ガンダムはのけぞりつつ、地面へと横転した。
「!・・・だ、ダメージは?」
フリットが衝撃に顔を歪めつつ、機体のコンディションマーカーに目を落とすが、幸いと言うか、まだ各部位の損傷は、確認できなかった。だが安堵する暇は無かった。ガフランが尻尾状のキャノン砲を展開し、ガンダムへ向けた。警告音がして、フリットはとにかく、アクセルを踏んだ。叫んでも居ただろう、ガンダムは”理解”したのかもしれない、直ぐに起きあがり、そして背中のブースターを噴射した。飛び退いた所へガフランのキャノン砲は直撃し、その場へ大きな噴煙と穴を開けた。立ち上る煙を浴びつつ、ガフランはセンサーアイを周囲へと翳す。横へと飛び退いたガンダムはガフランの方を向いて、立ち上がっていた。ガンダムが顔を上げた。
コンソールに、フリットは始めて「Weapon」の表示を見つけた。ガンダムの標準装備、「ビームダガー」が点灯していた。AGEアイコンの幾つかも、見れば起動状態に成っていた。今、ガンダムは何が出来るのか、それは正確に把握は出来なかったが。フリットはそれで、咄嗟に叫んだ。
「ビームダガーだ、ガンダム!」
ガンダムはそれで、腰に装備されたビームダガーを解放、右手に持った。そこから短く、しかし輝きの鋭いブレード状のプラズマビームが形成された。ガフランはそれを見て、一瞬後ずさりし、しかし、それからまた、掌のビームバルカンをガンダムへと乱射した。フリットは交わす様にスティックを動かしたが、さっきのような大きな移動とは違い、ガンダムは体を少し横に流すだけで、それを交わし、しかも前に一歩出ていた。ディスプレイには紫色のガフランが映っていたが。ターゲットマーカーが現れ、それをロックオンしていた。
「倒せ!ガンダム!」
フリットはつい、叫んだ。ガンダムはそれで、ビームダガーを構え一歩、前へ出た。
9試練
「ええい!ウルフ!ここは任せろ!!ガンダムを・・・!」
『了解!…飛べよ、ジェノアス!!』
何機かのジェノアスが陣形をつくり、ガフランを何とか押しとどめようとしている中。司令部からガンダムへの救援要請をされたラーガンは。ウルフに叫んだ。ウルフのジェノアスカスタムはそれで一歩下がると、そのまま基地の格納庫の方へ向いて、身を屈めた。カスタム化しているとは言え、本人が不要と思う装甲を軽量な物へと換装しただけだ。軽量化の代償を感じつつ、ウルフはジェノアスを飛ばせた。背中のブースターに押され、その場から離脱する。一瞬、自身へ向いたロックオンの警告音を聞いたが、幸い、そのまま着地まで撃たれる事は無かった。着地し、走る。
フリットは今は、殆ど何もしていなかった。ただ、ガンダムの邪魔をしない事が最善の選択で有るような気はしていた。ガンダムはガフランの攻撃を交わし、ビームダガーを振り回していた。ガフランは交わすが、ガンダムの攻撃は次第次第に、ガフランを追い詰めている様だった。
「これが・・・ガンダム・・・?」
フリットが、眼前で展開されるその戦いに、つい呟く時。ガフランはフリットへ、ガンダムへ向けてビームバルカンの銃口を向けた。それで、ガンダムは一歩前に出た。乱射されるバルカンをくぐり、身を沈める。下から、右腕を跳ね上げた。それでガフランの左腕が、ビームバルカンを連射していたそれが跳ね上げられた。フリットは命令の変更をしなかった。ターゲットにロックオンされたガフランの腹部へめがけ、ガンダムは、左腕のビームダガーを突き立てた。
ウルフが、その場に付いた時。それは最悪の情景にも見えた。あのガンダムが、ガフランと交戦していたのだ。だが事態は直ぐに変化した。ガフランへと飛び込んだガンダムがその腕を跳ね上げ、そして腹部へとビームダガーを突き立てた。そのまま、振り上げる様に、それは恐るべきパワーだった、ガフランはそのまま、腹部から胸部へと切り裂かれつつ、跳ね飛ばされた。地面に墜落し、そしてスパークと共に、ガフランは爆発した。
「が、ガフランを・・・一撃、で?」
ウルフは、その時自分の目が信じられなかった。自分の前に立つガンダムは、倒したガフランの前に立ち、その立ち上る炎に彩られていた。このコクピットで、フリットは肩で息をしつつ、ガフランを倒した事実を噛み締めた。ふと気付くと、ディスプレイには白いジェノアスの姿が見えた。フリットは通信回線を開き、聞いた。
『他の敵は?!』
「・・・あ?あ、ああ。まだ2機残ってる、油断するな!!」
ウルフは多少うわずった声で、何とか応答した。フリットはレーダーを確認しつつ、ともかく宇宙港を目指す為に、スティックを前に倒した。しかし、直ぐに、レーダーに機影が2体、現れた。紫色のガフランを倒した事で、他の2機はガンダムへと攻撃目標を変更したらしかった。ジェノアス部隊も後を追う。襲来するガフランを、ガンダムはカメラアイに捉えた。フリットは叫んだ。
「お前らに、これ以上好き勝手させてたまるか!行くぞ、ガンダム!」
フリットはペダルを踏み、スティックを倒した。ガンダムはガフランへ向けて、ビームダガーを構えつつ、走り出した。
第1話「ガンダム、起動!」終
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
初掲載日:2012/06/14
次回予告
少年はガンダムを駆り、戦いへと身を投じていく。目覚めたAGEガンダムは敵を打ち倒すが。それは新たな敵の襲来を招いた。
次回、「機動戦士ガンダムAGEミラースタイル」第二話「悪夢、襲来」
古から続くその道は、果たしてどこへ向かうのだろう。
次回掲載予定:2012/06/21