死の彷徨 2001 上高地リベンジの巻
        
                                         写真:ドクターマテル文:アホ沼隊長

いつの間にか毎冬の恒例行事ともなった死の彷徨だが、21世紀の初っ端の今回は昨年のリベンジとして
再び上高地を目指すこととした。
なにせ昨年は3月中旬に襲った大寒波の中での彷徨だった為に、目も開けられないブリザードでルートを誤り、
たどり着いた所が田代失言(湿原)なる場所だったのである。
今年のテーマは「命知らずの冒険野郎達!意味無く熱く!」である。
であるからして、マイルドセブン1mgの看板にあるようなさわやか系イメージのクロカンスキーは禁止!
男だったら汗垂れ流せ!とカンジキもしくは西洋カンジキといわれるスノーシューのみを歩行タクティクスとして
認めるレギュレーションとしたのだった。
彷徨参加者はオリジナルメンバーである関西の負けず嫌いの池町佳生と岐阜のお殿様こと脳愚痴ちゃん。
全ての病は温泉入れば治る!と解くドクターマテル。
酔っ払った青沼にからまれる為にやってきたシゲ。
紅一点の天真爛漫少女のナオ。
そして今回のダークホースの岸井さん。この人は単車に乗れば超ウマイが冬山は生まれて初めて。
酔ったドクターに「岸井さん、なんで来たの!?」なんて言われる始末なのである。

まあ、そんな輩が2月10日、恒例の集合場所というべき新穂高温泉峡に集合した。
昼近くに現地入りすると、寒風吹き荒む空き地には既にゴザが敷かれ、デロデロにでき上がったドクター、シゲ、
ナオ、岸井の4名は灰色の曇天向かって酒臭い咆哮を上げているのだった。
しかし、ここの露天風呂はいつ来ても最高だ!
ここには知ってるだけでごきげんな無料の露天風呂が3つあるが、入るのはいつもの橋の下の川沿いのでけえ岩風呂。
野郎達も天真爛漫な少女もみんないっしょにブ〜ラブラのプリンプリンで仲良く混浴。
今晩の酒宴にと持参した酒どころか、山での非常用の酒すらも既に陽の高いうちに飲み干してしまった為、湯上りに
酒を買い出しに行くと池町&野口組にばったり遭遇。

今日のキャンプ地は山中の道沿いの空き地。
ブリザードとまではいかないが横から吹きつける雪。気温マイナス9度。
風が吹くと体感温度マイナス20℃の世界でシチューを食いラム酒(自白剤)をあおる。
再び夜空の大浴場で身も心も温めたところで、青沼が持参した夏用ファミリーテントに7人が折り重なる様に、
鱒の押し寿司状態で寝るのであった。


明けて2月11日。7時前に起床。天気は晴れ。


おおっ、笠ヶ岳が光ってるぞい!
そして本来であれば早々にテントをたたみ、上高地向けて移動するはずだったがカチカチに凍結した昨夜のシチュー
を解凍しうどんをぶっ込み、ビールをあおり更にラーメンも食い、朝から晩飯分までも腹に収め、モタモタと支度してる
うちに太陽は姿を隠し、びゅーびゅーと風はうなりを上げてくるのだった。

釜小僧なる魑魅魍魎(ちみもうりょう)が出没するとか、人柱が埋まっているとか怪奇神話の多い真っ暗闇の釜トンネル
のハズだったが、今じゃ蛍光照明が付き、釜小僧の出番もないまま着膨れのオーバーヒートの状態で抜け出ると、そこは
ブリザード吹き荒れるいつもの冬の上高地の情景が待っていた。
しかし、去年とうって変わっていることがあった。
道が完璧なまでに除雪されているのである。
カンジキ歩行でガッツでラッセルしようと思っていたのに、場所によってはアスファルトが剥き出しになっているではないか!
ありゃりゃだ。
更に命知らずの冒険野郎のモチベーションを下げたのはハイカーの多さである。
中高年の登山ブームに乗って、ガイドに引率されたジジババが猫も杓子もスノーシュー履いてぞろぞろと遠足してるのである。
奴らに負けじとサラリーマンの通勤の様にスタスタ歩いてると早々に河童橋に着いた。
中高年はここでUターンして帰っていくようだが、命知らずの青中年はここからが本番なのだ。
背中のスコップが掘ってくれよとむせび泣いているのだ。
         

河童橋を渡るとブリザードはいっそう激しさを増した。この先は除雪も無い。
地吹雪に掻き消されたわずかな踏み痕を追い、いよいよカンジキの出番となる。
「あにき〜、何見とんのやぁ〜」
げっ、見られた。 俺は財布に隠し持っていたマニュアルを小さな声で読みつつモタつきながらカンジキを装着してたのであった。
失笑の渦中に彷徨隊長青沼の姿があった?・。

梓川沿いの森の中は傾斜もゆるく爽快に歩ける。イメージの膝までラッセルアセミドロとはえれえ違いだが、楽チンに
越したことは無い。
と言いつつも全身をRSタイチのバイクウェアでコーディネイトし、清水の舞台から飛び降りる思いで1950円も出資した
遠足用リュックを背負う岸井さんが、序々にパンチ切れにより遅れ始めた。
「岸井さん、誰かに似とんなぁ〜」
野口の言葉に釣られ、一同デイトナカラーの毛糸の帽子をかぶる男をしげしげと眺める。
「おばさんやぁ〜!、岸井さんおばさん顔なんやぁ〜!」
ややや!納得!おばさんやっ!

元祖おばさん顔といえばまぎれもなくドクターだが、岸井さんもまぎれもなくおばさん顔。
秋田の田舎で百姓を営み、割烹着の似合うお袋系のお婆が五十嵐雅子62歳(生理が上がって早11年。
得意料理:きりタンポン・糠漬け)。だとすると
岸井丈子49歳(最近生理が上がり更年期障害に悩む)は埼玉郊外の新興住宅地に住むPTA役員風(得意料理:ハウスのシチュー)
に両者とも見えてくるから不思議だ。

沼岩魚が好んで生息するといわれる天然記念物の山ワカメが群生する明神池で小休止し、更に徳沢、横尾へと前進するが、
どうも雪洞を掘るにふさわしいだけの積雪が無い。
本当のビバークならともかく、7人がくつろぎ寝るサロン雪洞には最低3mの積雪が必要だ。
この辺の積雪量はその半分位なものだ。
梓川の河原は広い。吹きさらしの中州はクラストした砂漠の様でもある。


対岸に吹き溜まりに向かって、びゅうびゅうと横殴りの地吹雪の雪中行軍。
カンジキをつけたままガシャガシャと瀬を渡って行く様はまさにイメージした死の彷徨に近い。
しかし結局、雪が固く、掘るのもままならず再び川を渡り返し、風の来ない森の中に逃げ込む。
森にはなんとも言えない安らぎがある。
時刻は午後2時を廻った。誠に遺憾であるが今回の主な目的である雪洞製作のドリームは諦め、熊が冬眠でもしてそうな
大きな洞(うろ)のある老木の根元を2001年における死の彷徨野営地とし、スコップでテン場の整備を始めた。
質実剛健、威嚇度120%の青沼持参アルミスコップはがしがしと大きな雪のブロックを掻い出す男らしい奴であるが、
ドクター持参の手の平サイズのうんこ穴掘りスコップは掘るというよりも、雪をこねくり回すだけの使えねえ奴だった事を
記録に残してこう。

池町・野口はモンベルテントに潜り込むとケツに頑強な根っこを生やしたまんま、絶対に外になんか出ないもんねー
とテントから顔だけ出してラーメンを煮る。
野口の口をついて出てくるのは相変わらず下ネタのオンパレードだ。大自然の真っ只中だろうが容赦無い!
マシンガンHトークが火を吹く!
この下ネタこそが寒さをやっつける強力な武器なのだ!(俺も人の事言えねえが)
空腹に耐えかねた青沼は冷え切ったポークウィンナーを齧りつつサントリーの角ビンをラッパする。
ドクターはいそいそとモツ煮作りに専念し、岸井さんは木の洞の中でじっと立ち尽くす。
しげとナオはえーっと何やってたっけなあ。


風も雪も止んでない。やがてあたりが薄暗くなるとシンシンとした冷気が降りてくる。
ワインにテキーラにズブロッカと強い酒をガンガン胃に投入しているわりに酔いが廻らない。体に入ったアルコールは即効で
体を温める熱に変換されてしまうようだ。
が、いよいよ寒さに負けてテント内に非難。テントの中は別天地だ。し・あ・わ・せ。
外ではドクターとシゲとナオがいよいよ大虎となって吼えまくっている。世界をツーリングしてまわった旅人達はタフな酒飲みである。
湯を沸かすには手当たり次第に周囲の雪をコッヘルにぶち込めばよい。
洞のある老木は野生動物にとっても憩いの木なのだろう。
ラーメンを作ろうと、周囲の雪を無造作にコッフェルにぶち込みストーブでガンガン加熱する。やがてその雪が溶け、お湯に変る
とコッフェルの中にはプカプカと鹿の糞が浮いていた。

テキーラのココア割りに身も心も暖まり、いつのまにか寝入ってしまっていた。
その昔、まだ日産キャラバン医院長室号で浮浪していた頃、彼はこのマジック・マウンテンから満身の笑みを浮べ顔を出していたものだ。
そのマジック・マウンテンオーナーのドクターを挟み岸井・青沼が圧縮状態で寝ていた。やはり野郎3人で寝るにはチト狭い。
酸欠ぎみで、おまけに耳元20cmの距離で地鳴りの様なドクターいびきが轟き、真夜中に目が覚めちまった。
時刻は3時。しょんべんついでにテントを出る。

寝てる間に風は雲を吹き飛ばし、その風も止んでいた。
満月をわずかに欠いた月あかりが、静かに蒼く雪に埋もれた森を照らし出す世界。
つられてテントを出たドクターが「山が見えるよぅ!」と叫ぶ。
あまりに間近で、あまりに急峻な為に、まさか雲を見上げる様な位置にその尖がった白いピークは月光を浴び、燦然と存在していた。
この夜空に突き刺すように輝く明神岳を拝めたことが俺的には一番の心の収穫である。

にわかに野口・池町テントでも屁がくせえだのいびきがうるせえだのと騒ぎ出し、ドクターはココアを沸かし、真夜中のティータイムとなった。


翌朝、まったりと腹いっぱいの飯を食いモタモタと復路を行進する。

前々日に風呂で足を滑らし、捻挫したナオも元気だ。


上高地に着き、振りかえると岩の殿堂と言われる穂高の3000mオーバーの峰々が白い顔して笑っている。
更に少し離れた場所では、焼岳が噴煙を上げて怒っている。
「野郎!」
ここで死の彷徨オリジナルメンバーである池町と誓った。
来年の死の彷徨は焼岳(2455m)をやっつけてやるぜっ!





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