ヘルマンマイヤーの誤断


アルペン男子滑降では、第一シードの選手が多くコースアウト、転倒しました。優勝候補のオーストリアの ヘルマンマイヤー選手も、大転倒してコースアウトしてしまいました。なぜ、こんなに多くの選手が 失敗してしまったのか、検証してみました。 予告では「ヘルマンマイヤーの悲劇」でしたが都合により「ヘルマンマイヤーの誤断」と変えさせて いただきました。


男子滑降大会役員としてダウンヒルレースを振り返ってみると、とにかく壮絶ですざましい男の戦いで あった。前日降った雪の排雪作業等コース作りも時間ぎりぎり、気温も高く雪は湿ってソフトという コンディションの中、43人中15人が転倒かコースアウトで完走できなかった。そしてなんと、 そのほとんどがアルペンジャンプ上の第8〜10旗門の左ターンの部分でおきているのである。 むずかしい旗門セットが原因だと言われているが、3回行われた公式トレーニングではほとんどの選手が ここを通過していたのである。

このレースが、こんなに荒れた結果となった理由としていろいろ 考えられるが、最大の原因は公式トレーニング後降雪が2回あり、コースの地形が微妙に変化してしていた ことと、それにもかからわず天候と日程の都合でレース前に予定されていた公式トレーニングが行われない まま、本番レースを迎えたことにある。3回行われたトレーニング後1m以上の降雪があった。 公式トレーニングの時の硬いアイスバーンを出すために排雪作業が行われた。特に急激なターンで コースが削られる部分、第8〜9旗門の間と、第6〜7旗門までの右ターンの部分の雪は排除された。 しかし第8旗門への左ターンの切り換えが行われる第7旗門周辺部分の雪はきれいに排除されなかった。 したがって公式トレーニングのときよりもその部分は凸状に盛り上がっていた。当然公式トレーニングの スピードでそこに飛び込めば大きく飛ばされることになりレースの結果を左右するポイントの部分となった。

実際レースが始まり、前走1番がその部分で大きく飛ばされ、あわやコース外側のネットにぶつかる様に 着地しコースアウトしてしまう、前走2番もターンがふくらんで第9旗門を通れない。NO1番のスイスの フランコ ガベン、問題の第7旗門手前の緩斜面でスキーをずらし、スピードをコントロールして無事に 第8旗門の左ターンに入り流されながらも第9旗門を通過した。NO2番のオーストリーのフリッツ  ストルーブル、スピードコントロールが少なかったため大きく飛ばされ、ふくらんで第9旗門アウトポール ぎりぎりを通過していった。NO3番優勝者クレティエ、緩斜面をこえ第7旗門への右ターンまでに 上体をおこしさらにスキーをずらしてスピードを充分にに落とした。そしてうまく第8旗門への左ターンを こなしていった。ベテランらしい好判断といえるかもしれない。

NO4番のヘルマン マイヤーは強気を くずさなかった。前を滑ったクレティエがラップをとったので気合いが入ったのか、雪が湿っているので 公式トレーニングの時より滑らないと判断したのか、スタートから勢いよく蹴っていった。第7旗門前の 緩斜面でもクローチングを崩さず、問題の第7旗門のインをねらって高速で切り込んでいった。山から 吹き下ろす強い追い風も手伝ってそのスピードはさらに増した。次の瞬間マイヤーの体は大きく宙に舞った。 飛ばされながらも第8旗門へエアーターンではいるために体を左にひねった、しかしあまりにも大きく 飛ばされていたため足から着地することができず、180度体が回転して頭から落ちた。さらに3〜4回転 して防護ネットを越えコースの外へ投げ出された。幸い鍛え上げた体でケガはなかったようだが、 ダウンヒル金メダルの夢は消えてしまった。

その後も問題の旗門をスピードを落とさずに入った選手は 大きく飛ばされ、コースの外側の柔らかい雪にスキーをとられコースアウトするか、転倒するかさんざんな 状況が続いた。あまりにも多くの選手が問題の部分の落とし穴に捕まり、自滅していくのを目のあたりに しやりきれない思いがあった。スキーをずらしうまくコントロールした選手は第8旗門からの左ターンを こなしていったが、ついにクレティエを越える選手はいなかった。アルペンダウンヒルは自然の中での 競技ゆえ、条件、状況が常に変化する。技術や実力のほかにその条件、状況、の変化に即応した判断や 戦略がなければ勝利を手にすることができない。あらためて奥の深い厳しい競技であることを 痛感させられたレースであった。


 メールは agri@avis.ne.jp


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